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「どうも、美樹さん……ご無沙汰しております……」
あんなことをされて、僕は美樹さんから少し距離を置いてしまっていた。
「ご無沙汰もなにも、恭司くんが会ってくれないだけじゃないのよ!」
そういわれましても……
美樹さんの報告は例の奇行について重要な情報がわかったってこと……
でも、僕の本当の気持ちをいってしまえば、変態のことはもうどうでもいいので、美樹さんに会いに行って……だけど、彼女に会って、今の僕は真っ直ぐにその瞳を見つめることはできるだろうか?
「ねえ……今から出てこれる?……ちょっとだけでいいから、来ない?」
と、少しの沈黙の後に、強い口調でいきなりそんなことをいってきた。美樹さんからしたら悪気があるわけではないのだろうけど……
「あんな感じで別れたから……恭司くんとはきちんと話をしないといけないって思ってたんだ……」
心臓がバクバクと音を立てて鳴っている。飛びだしそうだった。きっと僕の本音は美樹さんに会いに行きたいのだ。だけど、理性が邪魔をしている。こんな関係を続けていてはいけないのだと。
沈黙。言葉が続かない。なにを喋ればいいのか。僕にはわからなかった。
そのとき厨房から──なあ、もっと、他のもんも食っていけよ──美味いもんいっぱいご馳走してやるからよ──マーコの言葉。それは、僕にとってはあまりにキラキラと輝きすぎている言葉。
美樹さんとの逃避行動から急に現実に引き戻されてしまう。
僕にはマーコの存在は重たすぎた。
「今から行きます」と、電話を切った。逃げだしたかったのかもしれない。マーコに、「すまん。野暮用ができた」
と、僕はいい放ち店を出た。
視線を感じ振り返と暖簾越しにマーコが僕の背中を見つめていた。
悲しそうな顔。きっともう少し話をしたかったのだろう。
だが僕はそんなことはお構いなしに、待ちあわせ場所に急いだ。
ただひたすら、美樹さんに会いたくて。




