表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の或る夜の夢の続き  作者: 横滑り木偶臣
第4章(ストリートから愛を込めて)
35/84

4-7

「バカバカしい──」と、一笑されてしまう。


 だけど、この民間伝承を元ネタにして、僕たちの奇行は実行されたわけだった。いわばオマージュならぬパロディ作品。呆れ顔で警官がいった。


「この街の一年間の災難を、巫女に全て請け負わしたって話だよな。昔は儀式の終わった後、巫女の衣装は薪を重ねて燃やされたそうだ。でも、そんなのは、おとぎ話で、今回の事件とはなんの関係もないよ」


     *


 三つの犯行現場は直線上に繋がってはいるが、もしかすると、犯行は別々の人間の手により行われたのかもしれない。


 バイト先のシフトに穴が開くと困るので、三人の人物のうちのひとりが必ずバイトに出勤する。残りのふたりが変態奇行を行うのだ……僕は警官の取り調べに対して、すっかり思考停止の状態に陥っていた。


 早く、取り調べが終わって欲しい。


「それじゃあ──」警官がいった。やっとの解放。「なんかあったら、警察の方へよろしく。早く帰んなよ。近所迷惑だからさあ」


 安堵の気持ち、だけど、その日はとことんついてなかった……


「あ──もしかして、恭司なのか」


 デブの男が突然いった。暴力的な肉の塊。男は隣に女を連れていた。


「やだ、本当だ!」女がいった。「電気・眼鏡・土佐錦の恭司くんだ!」


 それは、僕の、中学時代のあだ名……高知県土佐発祥の琉金の突然変異種に由来する。寸詰まりの丸形体型。尖った口先。反転する大きな平付け尾。今はコンタクトだが、当時は黒縁眼鏡。体型もずんぐりしていた。


「おい、え──、マジで久しぶりじゃないか!」


 一瞬、本気で誰なのか迷った……女はタイトすぎる服装……場末のスナックにでもいそう……男は愛人連れのヤクザって感じだ……


「本当に懐かしいな。何年ぶりぐらいだ!」男が僕の手を握りしめる。


「たぶん10年ぶりとかじゃな──い」と、隣の女。


 僕は適当に愛想笑い。


 マキちゃんは下をむいてモジモジしてしまっている。


 男は女と薄ら笑いを浮かべながら、さらに一方的にお喋りを続ける。


 ハゲはじめた頭皮と黒く日焼けし過ぎた皮膚。踏みつけられた蜥蜴みたいな人相。名前は口元まで出かかっているのに、思いだすには決定打を欠いていた。


「おい、恭司。まさか俺様のこと覚えてないんじゃないだろうな」


「いや……覚えてるよ……みしま……剣道部の三島圭吾だろ」


 10年前の演奏風景──こいつに歌わせた『サマータイムブルース』は最悪の出来ばえだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ