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「バカバカしい──」と、一笑されてしまう。
だけど、この民間伝承を元ネタにして、僕たちの奇行は実行されたわけだった。いわばオマージュならぬパロディ作品。呆れ顔で警官がいった。
「この街の一年間の災難を、巫女に全て請け負わしたって話だよな。昔は儀式の終わった後、巫女の衣装は薪を重ねて燃やされたそうだ。でも、そんなのは、おとぎ話で、今回の事件とはなんの関係もないよ」
*
三つの犯行現場は直線上に繋がってはいるが、もしかすると、犯行は別々の人間の手により行われたのかもしれない。
バイト先のシフトに穴が開くと困るので、三人の人物のうちのひとりが必ずバイトに出勤する。残りのふたりが変態奇行を行うのだ……僕は警官の取り調べに対して、すっかり思考停止の状態に陥っていた。
早く、取り調べが終わって欲しい。
「それじゃあ──」警官がいった。やっとの解放。「なんかあったら、警察の方へよろしく。早く帰んなよ。近所迷惑だからさあ」
安堵の気持ち、だけど、その日はとことんついてなかった……
「あ──もしかして、恭司なのか」
デブの男が突然いった。暴力的な肉の塊。男は隣に女を連れていた。
「やだ、本当だ!」女がいった。「電気・眼鏡・土佐錦の恭司くんだ!」
それは、僕の、中学時代のあだ名……高知県土佐発祥の琉金の突然変異種に由来する。寸詰まりの丸形体型。尖った口先。反転する大きな平付け尾。今はコンタクトだが、当時は黒縁眼鏡。体型もずんぐりしていた。
「おい、え──、マジで久しぶりじゃないか!」
一瞬、本気で誰なのか迷った……女はタイトすぎる服装……場末のスナックにでもいそう……男は愛人連れのヤクザって感じだ……
「本当に懐かしいな。何年ぶりぐらいだ!」男が僕の手を握りしめる。
「たぶん10年ぶりとかじゃな──い」と、隣の女。
僕は適当に愛想笑い。
マキちゃんは下をむいてモジモジしてしまっている。
男は女と薄ら笑いを浮かべながら、さらに一方的にお喋りを続ける。
ハゲはじめた頭皮と黒く日焼けし過ぎた皮膚。踏みつけられた蜥蜴みたいな人相。名前は口元まで出かかっているのに、思いだすには決定打を欠いていた。
「おい、恭司。まさか俺様のこと覚えてないんじゃないだろうな」
「いや……覚えてるよ……みしま……剣道部の三島圭吾だろ」
10年前の演奏風景──こいつに歌わせた『サマータイムブルース』は最悪の出来ばえだった。




