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僕はアーティストを目指す青年の役を見事に演じていた。
時間のあるときはことあるごとに閉店後の商店街通りに出むき、マキちゃんのリクエストする曲を演奏する。
彼女が聞きたがる曲は自然と古い曲ばかりで、演奏したことのあるナンバーばかりだった。
コード進行がわからない曲があっても、僕は適当に即興で演奏してみせた。
そんな僕を見て、マキちゃんはいつも喜んでくれた。
彼女の笑顔を見ると、とても愛しく感じてしまう。
同時にその存在が、自分のなかでどんどん大きくなっていくのを感じていた。それは美樹さんよりも、次第に大きな存在になっていく。
偽物の自分を演じることに、まったく罪悪感がなかったわけじゃない。
それはいつも決まって、後からゆっくりとやってくる。
だが不思議なことにマキちゃんといると、あたかも嘘つきの自分が本当のスターのようにさえ思えてしまい、まるで本当に世界を変える為に自分が存在しているかのような錯覚にすら陥っていた。
*
「警察です! ちょっとだけ、ご協力願えますか!」
ちょうど一曲終わった時だった。猫みたいに背筋をくねらせた目の前の人物が、僕たちふたりの恋の邪魔をする。
「とりあえず、身分証明書を見せてくれるかな?」
長身の警官は高圧的な態度で長い腕を折りたたみ、二つ折りの警察手帳を僕らに見せつけた。角張ったあごに一筆書きできそうな眉毛。たらこ唇。
「え…………と、僕らがなにか?」
と戸惑う僕にむかって、
「いいから、いいから、さっさとしてくれる?」流れ作業みたいな無駄のない一連の動作で、左手を差しだす。もう一方の手はベルトに。




