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〔Side.A 一人称〕
田舎の駅前にある店は思いのほか閉まるのが早い。
コンビニさえも夜はやっていない。終電が通過すると駅前にはほとんど人がいない。
僕たちがいるのは商店街前のストリート。
「ペイシエンスって知ってる?」思い出のガンズの曲が思わず彼女の唇からこぼれ落ちた。「ねえ、弾ける? 聞きたいな」
10年ぶりにその曲を演奏する。うろ覚えのコード進行を記憶を頼りに、少しずつ思いだしていく。10年前も、僕はこんな風に歌うことができたのだろうか?
「うまい、うまい、上手だね」マキちゃんがいった。
もしも、彼女がこんな風に笑ってくれなかったら、僕はもう、この曲を演奏することはなかったのかもしれない。
僕は夢見る若者を演じていた。
自分は金魚屋の二階に住むただの居候だが、ゆくゆくは有名になって世界中に知られる存在になってみせる。
自分はアーティストであり、世のなかにはまだ認めてもらっていないが、必ずその才能で世界の形を変えてみせる。そんなことをマキちゃんにいっていた。
甘い声で囁きギターをかき鳴らしてみせた。そんなもので生活ができるはずがないと自分が一番知っているにもかかわらず……
昔の僕は根拠のない自信を昔は持ちあわせていた。
自分のできないことがなんなのか知らなかったから……
でも、今はもう、根拠のない自信なんて、持ちあわせてはいない。
今の僕は目標など持たずに日々を無駄に過ごしているだけだった。
自分でも抜け殻だと思った。
それでも、マキちゃんのことをなんとか自分のものにしたくて、僕は嘘の自分を演じることにしたのだ。




