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彼は6月の祭りの夜に、彼女が泣いているのを偶然見つけた。
なぜあんなに泣いていたのか?──いまだにその理由はわからない。
その時は鼻水は垂れていて、メイクなんてもうボロボロの状態で、わんわんと泣き叫ぶもんだから、こちらから声をかけるのも憚られた……なのに……ふたりは恋に落ちた……
名前はマキ──。名字は知らないし、本名なのかどうかも疑わしい。
他に知っていることといえば、携帯電話の番号と東京の学生で、こちらに夏の間だけ帰省しているということぐらいだ。
もしかしたら、夏が終わってしまうと、もう二度と会うことはないのかもしれない。
十年前のあの日から、彼はずっと玩具の手錠を持ち歩いていた。こんなものじゃあ、護身にはならないし、今ではファッションとしても相当イケていないはずだ。
だけども彼女が許してくれるなら、その両手に手錠をかけてどこまでも連れ去りたいと、そのとき彼は思っていた。
*
駅前にある中古レコード店で色々とレコードを物色した。なぜこんなデジタル化された時代にレコードなのか自分でも理由はよくわからない。
特にお目当てのものがある訳ではないが、この街で時間を潰す方法といえばこれぐらいしか彼は思いつかなかった。




