PLG1-3
医者はとっくにさじを投げている。つまり僕にとって絶望的な状況が、このまま続いていくということだった。
「君はとにかく病人じゃない」センスの悪い冗談を付け加える。「少なくとも頭蓋骨を開閉して、直接脳に電極を差し込むなんて心配をする必要はないからね」
笑いながら医者はペン先を走らせる。どうしようもなくて、僕は頭を抱えた。医者の顔は曲線的に捩じれていく。怒りのあまり、なんの解決にもならないことを僕はいった。
「救えないなら、僕のことをひと思いに殺してくれませんか。どうせ、僕は助からないんだ。あなたもどうせ、あの組織とぐるなんでしょう?」
ほほう、と医者は目を見開いた。受け入れるように僕に目をむける。視界がいびつな形に歪んでいく。そこにいるのは獰猛な猛禽類──白衣を着た動物は鷹なのか鷲なのかよくわからない鳥だった。薬の副作用だと自分に言い聞かせる。いつものことなので特に驚きはしない。
「なるほど、あなたはどうやら自分自身のなかでそのストーリーを完結してしまっているようだね。いうなればこれはあなたの小説なのですよ。いっけんフィクションと思わせておいて、実は自分自身の事柄を扱った小説の類いだ。つまりは私小説というわけだ」
「小説?──僕自身の私小説?」
「そう、小説です」空間がさらに歪む。だが、医者の目は僕の瞳の奥を覗いたままだった。「じゃあ、そろそろ、あなたの物語を詳しく聞かせてもらおうかな────」