3-10
あまりに近い距離にいる。
不思議と重力を感じない。
それは非日常的な光景だった。
とても官能的なのだが、
同時に他人事のような感じにさえ思える。
彼女の唇が重なる。
頭上には海底があり、
足元から陽の光が差し込んでる。
そして、
僕は、
美樹さんを吸った。
肺に美樹さんの空気が押し込まれてくる。僕は生きている。青くはない緑色。海の色に。溶けてしまいそうだった。唇が離れる。瞳。美樹さんの瞳。ただそれだけ。なにもしない。僕たちはなにもしない。時間は止まっていたし、呼吸をしていない僕たちはある意味において仮死状態だった。
やがて苦しくなる。僕も美樹さんも空気が必要だった。美樹さんが手をまわし合図を送る。浮きあがった。誰もいない。さいわい、その時にはもう、不良グループどもは崖から立ち去っていた。
だけど厄介なことにふたりの水着は跡形もなく消え去っていた。美樹さんの水着を持ち帰るのはわからなくもないが、僕の水着はなんに使う気なのだろう……
仕方がないので、洞窟まで泳ぐことになった。
泳げない僕は、情けないことにぴったりと美樹さんに身体を寄せなければならなかった。ある意味情けなかったが、今回だけは特別よと美樹さんは笑って許してくれた。
着衣を済ませて帰り際、崖の樹洞からデジカメを回収すると、その奥から古びれたネガフィルムが出てきた。なぜ、最初にこのフィルムに気がつかなかったのだろうか……




