PLG1-2
「うーん、なんといいますかね────」
ペン先がゆれてインクがカルテに染みていた。不均一な染み。医師の指先は細かく痙攣していた。そのことが余計に僕の神経をイラつかせた。
「先生……夜、眠れないんです。それに、なんだか……」
不安でいっぱいになります──僕がそういうと、
ギョロ目のその医者は不気味な顔つきで視線をむける。
「うーん、そういわれましてもね。あなたの場合、症状がなにもないわけですから、これじゃあ、ちょっとね……」
医師の言葉を遮るように僕はいった。「取り留めもないことなんですが、僕は呪われているんですよ」
「考えすぎなのでは?──脅迫概念ですよ、それ──誰があなたのことを呪うんです?」
医者はカルテを凝視しながら僕には反応にを示さない。
訳のわからない記号──文字はドイツ語から古代ゲルマン語に変わり最後にはバビロン語に収まった。医者は細かな数値が記入されたグラフを端から端まで目で追っていた。
「うーん、脳波のデーターを見ても特に異常があるわけではないんだよね。君の場合、自分で自分自身に暗示をかけているのかもしれないね」
「……暗示ですか……?」と僕はいった。
思い当たる節はなにもなかった。また、この前のように有耶無耶な状態にされてしまう。異物が僕の身体の節々まで浸食するようだった。
「うーん、何度もいうようだけど」怪訝そうに医者は眉毛を吊りあげる。「君は病気でもなんでもないんだよ」
「症状がなくても、僕は苦しいんです……」
「ただ単に、病人のフリをしているだけとか思えない……」
「意味がわからない。なんの意味があるんですか、そんなこと……」