3-1
〔Side.A 一人称〕
僕はファインダー越しに彼女を見つめていた。
嘘みたいに雲一つない空だ。この夏のふたりの記憶は、手にしているデジカメのメモリーに全て記録されている。
駅から続く直線上に伸びる歩道。海辺からの吹きつける潮風が歩道沿いの木々をなでるように揺らしていた。
美樹さんはスカートを押さえながら僕の麦わら帽子を奪い取ると、坂道の頂上にむかい一気に走りだした。
思わずシャッターを押す。太陽の光が路面に反射して、身体のラインを衣服の上から微かに浮かびあがらせるようだった。
そして、平日の昼下がりを過ぎた夕暮れ前──僕はこの洞窟のなかにいる。背中越しに、美樹さんの肌の色を想像していた。
*
美樹さんは素早くボタンを外すと、ブラウスシャツをいきなり脱ぎ捨てた。
僕の見ている前なのに……なんの躊躇もなかった。
遠くから聞こえるのは波の音だけ。ひと気のない岩陰の先には、陰り始めた日差しと緑色に照り返された海がはるか遠方にまで広がっている。
手際よく夏の薄着たちは次々と彼女の手により剥ぎ取られていく。スカートが地面に落下して僕はあわてて目線を外した。
「ねえ、別に見てもいいけど、恭司くんも早く着替えてよね」
後ろの方から声がした。
「いや……その……」と、僕は歯切れの良くない返事。
鍾乳洞の窪みに着替え一式の入ったボロい紙袋を置き、上から順に脱衣していく。トラブルが起きたのは僕がトランクスを脱ごうとしていたその時だった……
「ねえ、恭司くん。ちょっとだけ手伝ってくれる」
肩に冷たい手が触れた──それは美樹さんの手──思わず振り返る──美樹さんが──
白いラップタオルを胸元に沿わしながら僕にむかってふふふと微笑みかけていた。いきなり美樹さんは背中に手をまわし……ホックを外すと……???……ブラジャーを……ケツの割れ目を無様に露出したままの僕の頭上に投げつけた……
「童貞くんにパス────」
「美樹さん……なにするんですか……」
「だから、手伝っててば」彼女は後ろをむく。タオルの分け目から背中が見える。黒色の水着──ボトムス──下にはミディアムカットの腰ひも水着を履いていた。背中。「私、身体が硬いから、こういうの苦手なんだよね──」
仕方なく僕は、美樹さんのビキニの紐を止めた。
きめの細かな肌に吸い寄せられてしまいそうだった。