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夏の或る夜の夢の続き  作者: 横滑り木偶臣
第2章(15歳の夏に三人が仕出かしたこと、そして……)
17/84

2-8

〔Side.B 三人称〕


「なんだよ、レスポールカスタムって?」祐介がいった。「それより、大学の追いコンでやった曲はオリジナル曲じゃないぞ……アナーキー・イン・ザ・UKだ。覚えてないのか?」


 それはピストルズの曲だった。祐介が写真を取りだす。破壊されたギター。


 スティーブ・ジョーンズのギターを模倣したもの──ホワイトのレスポール。


 彼は祐介の後輩が貸しだしたギターを破壊したのだった。本物のセックスピストルズのギターのようにテールピースのあたりにそれっぽい女性のシールが二枚貼られていた。


「あの曲は、お前が走り過ぎて……テンポが滅茶苦茶になった……」祐介がいった。「お前だけ、変に熱くなってパンクな演奏をしてたっけな」


 隣で学がポカンとしながら、ピーナッツを口のなかに放り込んでいた。


「嗚呼……なんであんなにイラついていたのか、今はまったく覚えていないんだ」


 人間の記憶はとても曖昧なものだ。自分勝手に嫌な思い出を、記憶回路のなかで改竄してしまったのかもしれない。目線を送ると祐介がいった。


「お前が破壊したギターはカスタムじゃない。白のレスポールスタジオだよ」


     *


 アンプにむかって一直線上に投げつけられたレスポールは、廉価モデルのスタジオをスティーブ・ジョーンズ使用にリペア&モデェファイしたものだった。


 ギターはアンプに打つかり、地面に落下するとヘットの先から二つに砕けた。


 そのギターは祐介の後輩のお気に入りのギターだった。


 狂気じみた演出と勘違いした観客席からは歓声があがっていた。


 ライブの演出だと勘違いした客が、スタンディングオベーションでメンバーたちに拍手を送っていたというのが祐介から聞かされた後日談だった──数日後、後輩に泣きつかれ、リペアショップにギターの修理を依頼した話も……


 祐介がレスポールスタジオのモデル名にこだわるのはその為だ。


 社会人一年目の夏のボーナスの大部分が、ギターの修理代にあてられたそうだ。


 祐介の後輩はプロのギタリストとして活躍し、今でもピストルズ使用のレスポールスタジオを思い出のギターとして愛用しているらしい。


「寄せ集めのメンバーだったし、うちのサークルは……ソウルミュージックとかフュージョンが得意分野だったからな……」


「東京の大学生はオシャレだね」学が豪快に大声で笑いながらいった。「俺はやっぱりビートルズ。未だにビートルズだね」


 昔から、学が口を開くとビートルズのメンバーの名前しか出てこない。


「まあ、恭司以外のメンバーは全然パンクじゃなかった」苦笑いをして祐介はいった。「あっ、そうだ。後輩のそいつ、今じゃ売れっ子のスタジオミュージシャンやってんだ」


「そうなのか…………」


「凄いじゃんか、それ」学は驚きながらそういった。


 少しだけ祐介の後輩のことが羨ましかった。

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