2-7
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曲は簡単なスリーコードのオリジナルソングで、キーはAmだった。ユースケは他のメンバーたちと先にステージにあがっていた。
ベースとボーカルがスタンバイしていた。舞台の袖からギターアンプの前に移動すると、ローディーの奴が僕にギターを手渡した。
照明が落ちていよいよライブが始まろうとしていた。アットホームな雰囲気。拍手喝采に包まれバンドの演奏がスタートした。
だが、なぜか──
僕とユースケとの間にちょっとした緊張と微かな亀裂が走り始めていた。久しぶりに一緒に演奏するということが原因ではなかった──どんどんおかしなことになっていく──突き刺さるような緊張感──舞台の至るところに──導火線が──張りめぐらされいるようだ。演奏が進むにつれ、違和感のような感覚──ドンドン膨らむ──ステージの上を覆い隠す──軽いビート──お気楽でC調な感じの演奏──僕のギターだけがうるさい音を奏でてる──身体が凄い熱を帯びていた──ユースケに目線を送る──あいつは目を細めていた。ステージが終われば国に帰るつもりでいた。最後ぐらい親友に花を持たせ思い出を作ろうと考えていた。だけどステージにあがったとたん、社会に対する怒りやプロになるのを諦めた自分への憤り、様々な感情がふつふつと外側に漏れだしていく──それは──とてもどす黒い感情──自分でも──止めることができそうになかった──痛みを伴う──ユースケは僕の事態になにも気づかない──そして、もうなにも応えることはできない。残念ながら昔のユースケは、もうドラムセットの奥にはいなかった。もう、あいつは僕の為にドラムを叩いてくれはしない。ユースケの座っていたその席に──その人間の皮を被った得体の知れないなにかが今は座っている──奴は一体誰だ?!──緊張が一気に高まった──やけに照明が熱い──張りつめていた緊張の糸──切断され、その事態は突然に──
まず、
ドーン
次に、
ガチャーン
と、いう音。
そして、ベキ・ミシ・ミシミシシシシシシシ
ネックがへし折れた──
ギー・ギー・ガー・キ──ÊÊÊÊÊĘĘĘĘĘÊÊÊÊÊŃと、
ノイズ……
僕はギターを叩き毀した。轟音とノイズが交互に混ざりあう。
客席からは悲鳴と歓声が奇妙な声の束になって複雑に交錯し続ける。
そのギターはヘットの先から二つに裂け、狂気じみた騒音を発し続けた。地獄絵図のようだ。まるでなにかが狂っている。
「……おい……恭司……」
駆け寄ってきたユースケをおもいっきり睨みつけ、僕は現実逃避。殴りつける。手の先がじんじんと痺れ続けた。そのまま客席の方角へ逃亡していく。
客の流れをかきわけ逆方向に進む。ひたすら出口を目指した。波に逆らいながら海辺から漕ぎだすイメージ。振り返った。祭りの後の寂しさだけがステージの上には残されていた。
そして僕は東京に負けて国に帰ってきた。
ユースケと会うのは、その事件から3年ぶりだった。