2-3
〔Side.A 一人称〕
「おい、あのときの悪行──覚えているか?──あれだよ、あれ」
できることなら忘れてしまいたい。
毎年恒例でくり返される変態行為のその奇行を、一番最初におこなったのはここにいる三人なのだから。
オリジナルの異常行動は非常に醜く、異様な醜態を晒すものだったのだ。
全身白塗りの謎の男──白のブリーフを履いていて、頭の上には毛が三本。その白い男をナチスの軍服が背後から追い詰める。
「助けて──殺される──」
「待て──逮捕だ!──タ・イ・ホ!!」
拳銃の発砲される音と奇声だけが街中に響き渡った。それはちょうど、お昼を少しまわった時間帯。僕らは見事にその奇行をやってのけてしまっていた。
今のドイツでこんな奇癖をやらかしたら、色んな人権団体から睨みつけられ、すぐさま刑務所に送り込まれてしまうだろう。それでもやらずにはいられなかった……
異常行動の背景に、なにか政治的意図や思想的な考え方があった訳ではない。僕らの考えはそれほどに幼く、それでいて青臭かった。
「このナチ野郎────」白い男の反撃を受け、ナチの兵士は打ち飛ばされていく。
とんだ茶番劇だった。僕らはポストモダンそのものだった。安物のビデオカメラを使いハリウッド気取りで撮影を続けた。
この時間帯の住宅地には、誰も人はいないはずだった──場所は僕らがアビィ・ロードと呼んでいた場所──ハリウッド映画に出てきそうな海岸沿いの新興住宅街には、その当時、入居者はまだ余りいなかった。
作戦は完璧に計画され、迅速に執行される手筈のはずだった……
だが僕たちは運悪く、山姥メイクの女子高生と予測不能に遭遇してしまった。僕らが悲鳴をあげようと思った次の瞬間、
先にセーラー服を着た山姥ギャルが叫び声をあげた。「キャー、変態──変態がいる────」
新聞の見出しはこんな感じ。
『謎の軍人と白塗りの男。真昼の住宅街にあらわれる』
その奇行は地方紙の一面を飾り、女子高生の証言を元に三人の変質者は、この地域の警察機構のブラックリストおよび要注意事項に強制的にノミネートされてしまった。
あることないこと週刊誌は書き立てる。
『原因不明に大量死──その影響か?』
当時、街では奇病が流行っていた。
最近わかった話なのだが、どうやら街のはずれの大工場から出される、ある科学物質がその原因であったらしい。皮肉なことに不景気のあおりを受けて工場が閉鎖されると、この街から原因不明の病気はなくなった。
僕ら三人は中学を卒業すると、それぞれ別々の高校に進学した。こんな街にはもう戻ってくるまいと、そんな風に思っていた。
だけど、この夏、この街で、また三人、この瞬間をともに過ごしている。