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〔Side.B 三人称〕
その日は、夕方までずっと雨だった。
寝たり起きたりを晩ごろまでくり返し、もうすっかり飽きた頃にさっさと夕食を済ませると、彼は出かける準備を始めた。
夜の8時をまわった頃には、雨もすっかり止んでいて街は静寂に包まれていた。彼は庭先から自転車を持ちだし、ペダルに足を乗せた。
田舎の私道というのは砂利や砂やが所々に混ざりあい、なかなか自転車では走りにくい。そんなところをトラックや農業用のトラクターが通る所為で至るところに凹凸の窪みがあり、デコボコ道が簡単に出来あがる。
案の定、何度か転倒しそうになる。
そんな状況でも今日はなにか約束があるらしく、彼は足早に自転車を走らせた。街の灯りはもうこの辺りにはない。
街の中央──繁華街の飲食通り。その辺りを真っ直ぐに進んでいくと端にポツンとある建物の二階。
その店は昼は軽食を出し、夜になるとバーとかスナックまがいの営業をその場所でやっていた。ビアガーデンといった気の利いた施設はこの街にはないので、酒を飲もうと思うとこんな店に行くはめになってしまう。
ココナッツという名前を聞くと南国の島国を思い描いてしまうが、残念なことにまったくといっていいほど、そんな雰囲気はこの店にはない。