PLG1-1
〔Side.A 一人称〕
リノリウムの床をスニーカーの踵を蹴りながら進んだ。耳障りなその音が病院の音に馴染むのが不思議だった。
イメージのなかでまた、あの忌々しい電波ノイズを拾う。
それは酷い頭痛の種でもあった──高圧電線──雷が落ちる──次に誰かが──すぐ隣で──彼らが誰なのか──僕にはよくわからない。
「────さん。診察室へどうぞ」医者が僕の名前を呼ぶ。どうやら、僕の順番のようだ。
ドアとカーテンを開け、真っ暗な診察室へ。まるで他人事だった。自分のことのように認識できない。その場所では暗闇のなかで断面図が何層にも重なり、レントゲン撮影された脳のフィルムを薄い灯りが側面から照らしあげていた。
「はい、楽にしてください────」
記号はドイツ語──医者は専門用語を用いて症状を入念に紙のカルテに記録していく。
僕は意味もなく指先を追っていた。この難解な病状はいまだに原因不明であり、発祥する為の論理は解明されないままで、この肉体は悪魔に憑かれているかのような状態をくり返す。
最近では薬の作用の所為で躁鬱状態を行ったり来たりしている。
彼らは両手に手錠を、頭にはフードをかぶらされ、パトカーのなかに連行されて、僕は雨に打たれ、涙が頬を伝っていくのだけれども、雨水が冷たすぎてそれが雨なのか涙なのか、その時にはもうわからなかった。
サイレンの音がしてその方向から死神が舞い降りる、流れ作業のように彼は護送され、まわりには野次馬たち、遺体はもう黒焦げで、意味のわからない科白のような言葉、救急車のサイレンが遠ざかっていく、その車体は霊柩車のようにも見えた、僕の気持ちは不安定で、箱のなかで押しつぶされたように現象は自分自身の理解する為のキャパシティを優に超え、つまり理解するのは非常に困難であり緻密に計画を成し考慮してみても実は穴だらけだった。
本当は間違いだらけで既に壊れ始めている。
僕は椅子に腰をおろしたままで、その医者の反応を待った。