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ビースト・ザ・モダン・ソサエティ  作者: 壱味利ぼうず
2/2

いつもと変わらない素敵な日々



  運命の日の朝5時、私は目覚めた、いつもと変わらない朝



 薄暗い社宅の天井を見つつ

「おはよう」

と囁く、だがその返事に答えてくれる人はいまはもういない


誰も、大切な人はもういないんだ


寝ぼけつつ布団から起き上がり部屋の窓を開け乾いた口で一人呟く

「今日も一日晴れそうだな・・・・・・・・・さっさと準備して行くか」

そして私は今日ある計画を実行に移す、今日は仕事ではなくその準備をしに出かける身支度をする


過去の話だ


私の中学一年生のときに両親は離婚、父親は多額の借金とともに蒸発し行方不明、母親は再婚し音信不通、その際に母方の祖父母の家に預けられそこで暮らすが高校卒業前に祖父母二人とも他界


いつも優しく大切な人たちだった



 地元の高校卒業後、当時の担任のすすめで隣町の製菓工場に就職し社宅住まい・・・がそこは絵に書いたようなブラック企業であった

早朝5時に起床、6時には工場に着き着替え作業を始める、もちろんタイムカードはつかない早朝サービス出勤だ

8時半に始まり定時は17時に終わるはずだが就職してから今まで一度も定時であがったことはない

ほぼ毎日残業6時間、休みは月に日曜のみ4日だが忙しいときにはサービス出勤もある夏季休暇も正月休みもあるわけない


そして今日で就職してから4年を迎える、身長は180cmと変わらないが体重は75kgから無駄な脂肪は消え筋肉がつき62kgになっていた

転職するためのキャリアのためといえ4年間いいことなんてひとつもなかったが、無駄に鍛えられたこの体と精神力を手に入れたことが唯一の誇りとでもいおうか


趣味もあったが今やなくなり、天引きされた雀の涙にも満たない給料もたまる一方

祖父母の遺産も含め貯蓄額は600万を超えていた




・・・・・・さてこの金で何をしようか


決まっているさ、燃やすんだ


何を燃やすんだって?


会社だよ、もう疲れた、社長の息子に媚びへつらい食事にもよく連れて行ってもらったがそんあことはもういい、こんな会社なくなればいい


社長の息子も嫌いな先輩の左遷等に使わせてもらったが今回はその先輩ごときえてもらおう

私によくしてくれた同僚はあらかじめ辞めるように後押しして既に退職している


準備は出来た、奴らの逃げる出入り口は簡単に封鎖できるようにしてあるそのためにあのボンボンに好かれるようにしたんだからな



 何時ものよう出勤し、午前11時私は担当の持ち場に行くと同僚に嘘をつきあらかじめ用意していた放火の準備に取り掛かる

非常口全てに外側から施錠し作業場と更衣室や食堂とつなぐ唯一の通路も施錠

建物は四階建てで、普段使わない四階の倉庫にガソリンを撒いて火をつけすぐさま一階の倉庫と製品の出荷に使うシャッターを壊す、過去に何回も壊れているので壊すのに手間はかからない

そして何より今、一階フロアには私一人しかいない

原材料置き場にあるリット缶油を全て開封し、床一面と製品に油を撒き火をつける!

たちまち炎は燃え上がりあらゆるものに引火、火柱となる




「なんて美しいんだ」

無意識のうちに言葉に出ていた



これで誰も逃げられない完璧だ!この4年間は無駄じゃなかったんだ!

少なくとも工場はなくなる・・・それで満足だ



事務の人が昼寝しているこの時間にブレーカーを落とし内線電話から外への連絡を絶つ時間稼ぎもできる


そして全身の力を振り絞って私は逃げた



嗚咽



「俺もう充分にがんばったよね、おばあちゃん・・・」



悪いことをした自覚はあるしもうどうなっても構わない、でも私は



私はそれでいい






走って工場から逃げる途中、後ろから大勢の叫び声が聞こえた気がした



でも『それ』は、私には関係のないことだ

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