平和の魔王
現代視覚文化研究会で書いた最初の小説作品です。
勇者は、いよいよ魔王の城の前に立っていた。
勇者は、もうこれ以上無いくらいの自信に満ち溢れた表情である。
(ここで魔王を倒し、僕は真の勇者になるのだ。世界の民を助けるんだ。)
勇者は、仲間に一声掛け、4人で揃って魔王城の中に入っていくのだった。
魔王城の中は薄暗かった。
「【ライト】…はい、明るくなった」
以心伝心のようなタイミングで、魔術師が部屋を明るくした。
魔法【ライト】は、戦闘時には暗闇状態を解除するだけの、たいした効果を持たない魔法であるが、フィールドやダンジョンが暗い場合は明るくして進みやすくできる、微妙に便利な魔法である。
勇者たちは、明るくなった城の中をゆっくりと用心深く歩き続けた。
しかし、モンスターも特に出ることはなく、あっさりと魔王の部屋についてしまった。
拍子抜けしたようであったが、それでも勇者たちは帰らないし、特に目標が変わるわけでもない。
無論、鍵はかかっていなかった。勇者たちはノックした後、ゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋は理路整然と、かなり丁寧に整えてあり、人間界の応接室を彷彿とさせた。
その中央奥の机に、魔王は仕事中という雰囲気を漂わせつつ、座っていた。
「貴様が魔王かぁ!いざ勝負!」
勇者は魔王のデスクに突っ込んでいったが、魔王は見かけによらないスピードで回避した。
見かけ速度、勇者の倍。普通の人間なら逃げるであろう。
しかし4人は逃げるどころか、武器を構えなおし、息を整えた。
魔王は、少し乱れた服装を、几帳面に直し、4人を見つめた。
二手に分かれた5人は、火花でも飛ばすかのような鋭い目つきでにらみ合い、そして戦闘がスタートした。
勇者はいきなりSPを使う「正義の一撃」を繰り出した。魔王は回避したが、その表情からは先ほどの余裕が消えている。
魔王は、とりあえず回復系を先につぶそうと思い、僧侶に大ダメージの個人用魔法【レーザーショット】を繰り出した。
僧侶は瀕死の状態になり、まともに立つことすらできない状態になった。システム的な言い方をすると、残りHP=1みたいなものだ。
魔王はその【レーザーショット】を連投し、とりあえず僧侶を倒した。
「おい…ずるいぞ!」
「倒されにきたのはおまえらだろ!不法侵入もしやがって!
ゲームだとでも思ったか!」
魔王は健気にがんばる自称勇者を嗤った。
(俺こそが最強なんだ。世界を支配できるのも、俺なんだ!)
魔王は自分の意思と決意を再確認した。
それから5分。
魔王の集中僧侶狙い撃ち作戦により、いよいよ復活アイテムもそこを突いたころである。
勇者は体力よりも精神力を消耗していた。
(あの魔王…何かが今までと違う…)
勇者は異変を感じた。
(なんか……頭がよくなった?)
今までも十分魔王は強かった。
でも今の魔王は少し違う。その能力を、いかに効率よく繰り出すか。それを心得ているような感じである。
勇者は初めて敗北を認識した。そして、退却を考えた。
確かに、この世界はゲームではない。戦闘中に抜けることも可能である。
勇者は「一時退却!」と叫んだ。
結論、扉は魔王が閉めていた。
勇者はもはや涙目になっていた。
今の勇者にはもはや、戦う【勇気】なんてなかった。
でも魔王には逃がす気はない。
魔王はここで勇者を倒すつもりなのだ。
それは互いの心理からいうと当然のことであり、事前に予想できるものである。
魔王は、残ったパーティーを次々と倒していった。
……
……………………
いつまで寝ていたろう、
勇者は目覚めると、
ベッドの上だった。
勇者は起き上がり、周囲の様子を確認した。
他に3つのベッドがあり、そこに他のメンバーが寝ている。
そして、部屋の真ん中に魔王が佇んでいた。
「魔王…っ」
勇者はベッドから出て、剣を構えようとしたら、剣を失っていることに気がついた。
勇者は真っ青になった。完全に世界が支配される、そう思った。
呆然と立ち尽くすしかなかった。
魔王は初めて会った時と変わらない、笑い顔でもなければ戦いの顔でもなく、真面目な表情であった。
しかしどこか、和んだような表情である。
勇者はパクパクと口を動かす。
「すまない…」
その一言、それは勇者から放たれた言葉ではなかった。
「すこし熱くなりすぎた…」
魔王は勇者に向けて言葉を選んだ。
無論、勇者にとっては不意打ち過ぎる行動であった。
「すまないで済むかよ…こっちは殺されかけたんだぞ!?
悔いろ!そして自分を封印するんだ!」
魔王は表情のひとつも変えずに彼の話を聞いていたが、聞き終わるとおもむろに口を開いた。
「勇者、あんたは偏見を持ってるよ……」
魔王は寂しそうに、少し笑った。
「なにが偏見だというのだ。魔王が世界を支配しようとしているのを阻止する、それの何が悪いのだ!」
勇者は、自身の信念を声高に宣言した。
「それだよ…魔王を悪いと思っていることだよ。」
勇者は愕然とした。勇者の行動理念は悪を制覇することだ。
「そもそも、勇者のやろうとしていることだって同じじゃないか」
「違う!僕のしようとしていることは、世の中を平和にすることだ!」
「暴力でか?」
勇者は足の力が抜け、倒れこんだ。
その勇者を、危険も顧みず抱きとめ、ベッドに戻す魔王。
「暴力で世界を平和にするなら、俺も勇者もやっていることは同じじゃないか。
ただ、世間でのイメージがいいか悪いか。それだけの話だ…」
勇者は、何か気づいたような表情になったが、認めたくない様子であった。
「だから、協力しないか?」
勇者は顔を上げた。
「魔物だって出てくるのに、ここで強い人同士が戦っていても、戦力の無駄だろ?」
勇者は魔王を見つめた。
しかし睨んでいない。勇者は真の目的を思い出した。
そして勇者は魔王と協力することが最善であることを理解した。
「魔王…長い間誤解していてすまない。
お詫びといっては何だが、世界中の人々に説明して回るよ。
魔王は敵なんかじゃない…
ただ、世界をを平和にしたかっただけなのだ。」
魔王は、わかってくれてうれしい、といわんばかりにゆっくりと頷き、扉を開けた。
吹き抜ける風が、今では清清しい。
魔王と勇者は共に外に出た。
日光が眩しい。
魔王と勇者は、仲良く歩いて魔王城を外出した。
後ろに、魔王を理解しない3人を置いて。
続編は書きますが、一話完結作品に近いため、書きあがりましたらURLを貼ります。




