タツヤと魔法
「お疲れ様ー。リリーさん、ビスタさん、ドリンクどうぞー」
「ありがと」
「ありがとうなのだ」
タツヤは魔法合戦を終えたリリーとビスタに大きめのカップに入れたドリンクを渡した。
「美味しい!」
「旨いのだ♪」
タツヤが渡したドリンクは好評。疲れた時のスポーツドリンクは地球もトロフも関係なかった。
「リリーさん、僕も魔法を使いたーい」
「分かったのだ、簡単な呪文を教えるのだ」
《杖はリリーの予備を使うが良い。それに炎の呪文なら失敗した時、我輩がフォロー出来る》
「どきどきするなー。炎の初級魔法ヒート・ボール……えいっ!」
タツヤは魔法合戦を見ていて、自分も魔法を使ってみたいと思った。タツヤのわくわくする顔を見たリリーとフィンネルが、簡単な魔法を放つ方法を考えてくれた。タツヤは2人に感謝しながら、炎の初級魔法を空に向かって放った。
「きゃっ!」
「おぅ!?」
《っ!?》
「うわあっ〜〜〜!?」
その瞬間、景色は真っ赤に染まった。タツヤの杖から飛び出たボール型の炎は、先ほどリリーが放った中級魔法を遥かに大きかった。幸いなことに一発のみ、空に向かって放ったので近くの草原や森林に燃え移ることは無かった。
「な、何なのよ、あの威力……!?」
「タツヤ、大丈夫か!」
「びっくりした……あれ、体が動かないー」
《これは驚いた……。我輩も約500年生きてきたが、あのような初級魔法は初めて見たぞ……》
ビスタが驚くなか、タツヤの無事を誰よりも確認するリリー。タツヤは魔法を放ってから地面に仰向けになって倒れている。フィンネルは炎の精霊だが、あれほどの初級魔法になるとは思わなかった。
「まさか……、上級魔法じゃ?」
「ちゃんと初級魔法を教えたのだ」
《我輩も確認した。しかし、杖から放たれた魔力はとんでもない量であった》
ビスタは自分達以上の実力者が使える上級魔法を真っ先に考えた。しかし、リリーとフィンネルが否定した。2人とも炎の魔法を扱うので、タツヤの魔法が初級であると理解している。それでも驚きを隠せてはいない。
「杖……あっ、リリーさんの杖が!」
「嘘っ、折れてる!?」
《信じられん。リリーの杖はハーリング商店で頑丈なのが有名なはずだ》
タツヤは右手に持っていたリリーの予備の杖を見てみると、半分に折れていた。ビスタとフィンネルが驚く。リリーの両親が運営しているハーリング商店の杖は、魔法使いが使用している杖でトップ3に入る品物だ。
「リリーさん、ごめんなさい……」
「タツヤは気にすることないのだ」
「ちゃんと弁償します。いっぱいポイント稼ぎます!」
《リリー、ここは男の申し出を受けておけ。タツヤは責任を感じているからな》
「分かったのだ…」
唯一、リリーは驚いていない。顔には出ていないが、目はとても哀しそうだった。タツヤは動きにくい体を動かして謝る。フィンネルのフォローもあって、何とかリリーに聞いてもらった。
「湿っぽい話はここまで。タツヤの魔力量を確認しない?」
《ギルドだな。あそこなら確認しやすい》
「リリーさん。ギルドって?」
「ギルドは様々な人が活用する場所。それから、タツヤが安心して生活出来るようにギルドカードを作るのだ」
「ありがとうー」
ビスタが空気を変えて、新たな話題を用意する。タツヤの魔力量が気になるのは全員同じで、フィンネルがギルドを勧める。例によって、タツヤがリリーに尋ねて教えている。杖の件は落ち着いて元通りになった。
「リリー、ごめん。午後から用事があるの」
「分かったのだ。ビスタ、さよならなのだ」
《ビスタ、いつもありがとうな》
「タツヤ、この子をよろしくね」
「分かったー」
ビスタはギルドに行けないようで、リリーのことをフィンネルではなく、何故かタツヤに任せた。ビスタが箒に乗って去るのを3人は見届けるのであった。