ビスタと魔法合戦
「こんにちはなのだ、ビスタ!」
「リリー、何か用?」
「ビスタのポイントを貸してほしいのだ!」
リリーが来たのはスペードタウンの中心街から西に移動した高級住宅街。中心街の賑わいは収まり、静かな場所。友人のビスタを呼んで、さっそくポイントを借りることにする。
「また!? あんた、ポイント使ってロクなことしかしてないでしょう!」
「今回は本気なのだ!」
「そう言って、私から何度借りたのか忘れたわけないでしょう!」
しかし、息つく間もなくビスタに怒られた。実はリリー、ビスタからポイントを借りては返すことを繰り返していた。しかも、使う目的が空飛ぶ高級箒のレンタルで毎回である。
「今日は高級箒じゃないのだ! この通りなのだ、ビスタ!」
「ちょ、ちょっと、あんたが頭を下げるなんて……、や、やめなさい! 恥ずかしいって!」
見たことの無いリリーに焦るビスタ。いつもは貸してくれるまで、しつこく追いかけてくるだけだが、頭を下げるのは長い間一緒にいたが初めてであった。
「頼むのだ、ビスタ!」
「待って待って、フィンネルはどこ! あの人から聞いて考えるから!」
「街の外、東に行くと言っていたのだ」
「フィンネルの所に行くから頭を上げなさい!」
リリーが頭を下げるなか、ビスタは炎の精霊フィンネルを探す。父親代わりのフィンネルなら、事情を知っていると考えて、リリーを連れて東へ向かうのだった。
「う〜〜〜ん、よく寝たーー」
《起きたか、タツヤ。む、あれは》
「タツヤ〜〜、フィンネル〜〜」
東の台地でサラマンダー達に眠らされていたタツヤは、フィンネルが挨拶を終えてサラマンダーが消えた後に、ゆっくり起きた。
フィンネルはタツヤを確認して、ふと空を見ると二つの箒が見えてきた。どちらも知っている箒だった。
「ほへ? リリーさん、どうしたのー?」
「お、男!?」
「タツヤ、すまないのだ」
《相変わらず、騒がしいなビスタ》
タツヤがリリーに尋ねると、隣にいたビスタが驚いている。何故驚いているか分からないタツヤに対して、リリーは謝り、フィンネルは笑っている。
「リリー、あんた男が出来たの!?」
「違うのだ。チキュウから来たタツヤなのだ」
「僕はタツヤ、ビスタさんよろしくー」
「よ、よろしく」
ビスタがリリーに詰め寄るなか、タツヤは挨拶した。リリーの話に気になることはあったが、それ以上にビスタは直感した。タツヤがリリーに似ていると。見た目以上に中身が、である。
「それより、フィンネルどういうこと? リリーが頭を下げてまでポイントを借りたいって」
《リリーから聞いていないのか。ヴァルラスの最北端を目指すための資金を借りたいそうだ》
「最北端!?」
ビスタはフィンネルにリリーの行動を尋ねた。その答えに驚く。
「リリーさんの長年の夢だよー」
「事情は分かったわ。旅立つ前に今回こそ勝たせて貰うわよ!」
「リリーさんに勝つって何?」
「魔法合戦よ!」
タツヤが夢について話しているが、タツヤ以上にビスタはリリーの夢について知っていたので、あっさりと納得した。しかし、ビスタにはやるべきことがあった。魔法の勝負、魔法合戦だ。
「フィンネルさん、魔法合戦って何ー?」
《簡単に言えば、魔法による決闘だな。一対一のタイマンバトル、相手の杖を地面に落とせば勝ちだ》
タツヤはフィンネルに魔法合戦の説明を聞く。ルールはシンプルで魔法使いの中では知れ渡っている。
「いざ、勝負!」
「負けないのだ!」
リリーとビスタ、同時に動き始めた。
「水の初級魔法ウォーター・アロー」
「炎の初級魔法ヒート・ボール」
水と炎の魔法がぶつかり合う。アロー型は威力は弱いが、たくさん放てる。ボール型は威力は強いが、少ししか放てない。
「くっ!」
「ひゃわぁ〜〜」
「やるわね、絶対勝つ!」
「タツヤの前で負けたくないのだ。……ん、何で?」
リリーとビスタが白い煙から飛び出して相手から距離をとる。勝つ気満々のビスタに対して、何故かタツヤを考えるリリー。良く分からず首を傾げる。
「胸の大きさは負けるけど、魔法合戦には負けないからね!」
「胸は関係ないのだ。そんなこと言われても困るのだ」
戦闘中に毎回揺れるリリーの胸。リリーの胸は大きく、ビスタは悔しがる。リリーは毎回言われており、返答に困っている。
「リリーさん、ビスタさん、どっちも頑張れーっ!」
《胸などに拘る人間の思考が全く理解出来ん》
離れて見るタツヤは2人の会話は聞こえていないが、どっちも応援している。
一方、聞こえているフィンネルは、ビスタの言動を理解出来ていない。
「これで決めるわ!」
「負けないのだ!」
「水の中級魔法レイン・キャノン」
「炎の中級魔法フレイム・キャノン」
魔力というのは体内にあって、無限に利用出来るものではない。基本中の基本の初級魔法と言えど、魔力は消費される。リリーとビスタは自身が覚えた最も強い魔法を打ち出した。それが中級魔法。
中級魔法は初級魔法以上に魔力消費が激しく、その分威力が高い。お互いに放ったキャノン型は一発限りの大きなボール型である。
「すごい威力ー」
《勝者はどっちだ!?》
水と炎の大きな球体同士がぶつかり合い、離れて見ていたタツヤは飛ばされかける。しかし、フィンネルが作り出した炎のバリアに助けられる。
「も〜〜〜〜う!」
「やったのだ!」
ビスタの杖が地面に落ちていた。勝者はリリーだった。