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料理包丁と精霊

「うわ〜〜〜〜っ、人がいっぱいだー!」


《タツヤ、驚いているな》


「最南端では一番人が集まる所なのだ」


 最南端の街スペードタウン。ここはレインボーマウンテンから採れる果物、近辺の海から釣り上げられる魚などが市場に並んでいる。


「リリーさん、色んな場所を案内してほしいー」


「任せるのだ!」


《あまり駆け込むと周りの人間に当たるぞ》


 タツヤとリリーは、スペードタウンを散歩する。フィンネルは人間達の真上を移動しながら2人を見守っている。


「あれは何ー?」


「あれはプルーティ、美味しいスイーツなのだ」


「オススメですよ」


 タツヤが見つけたのは小さな屋台。良い匂いが流れており、行列が出来始めている。地球での食べ物で例えるとクレープみたいなものだ。女性店員も勧めてくる。


「美味しいー♪」


「うまいのだ♪」


 プルーティは甘くて美味しい。その後も買い食いをしながら、2人は笑顔になっていく。それはとても温かい光景。


「賑やかな市場だ、色々な物が売ってるー」


「むむむ、この箒とっても高いのだ……」


《ほう、精霊が売店をしている所もあるのか。知らなかったな》


 3人はバラバラにならない程度の距離感を保ちながら、自分の興味があるものを見ている。


「んー?」


「タツヤ、どうしたのだ?」


「んーー」


《ここは調理器具コーナーか》


「んっ! この包丁ください!」


 ふと、タツヤが街角を曲がった時、気になる所を見つけた。リリーとフィンネルが待つなか、突然タツヤの目付きが変わった。いつものように語尾を伸ばしていないなど、雰囲気も変わっている。


「タ、タツヤ!?」


《どうやら料理人魂が燃え上がっているな》


「300ポイントになります」


「ポイント?」


 タツヤの変貌に驚くリリー、昨日の料理を見て納得するフィンネル。店員に出すと、ポイントという言葉が帰ってきた。タツヤは聞き覚えのある言葉に地球を思い出した。


「タツヤ、私が買ってあげるのだ」


「ありがとうー、リリーさん」


「喜んでもらえて嬉しいのだ」


 リリーは困っているタツヤから交代して、ポイントが記録されているカードを店員に渡した。包丁を買ってもらえて感謝して笑顔になったタツヤを見て、役立ったのが嬉しい。


《ところでリリー、スイーツや包丁を買ったのは良いが、ポイントは大丈夫か?》


「あっ………、マズイのだ〜〜っ!」


 フィンネルの言う通り、リリーのカードにはポイントが二桁になっており、不足している。ポイントを手に入れる方法は様々あるが、これでは最北端への旅に影響が出る。


《魔力変換システムは使わないのか?》


「あれは魔力が一気に吸い取られて疲れるから苦手なのだ」


《便利だが、体に影響が出るのは難点だな》


 フィンネルの言う魔力によるポイントの手に入れる方法『魔力変換システム』。

 ヴァルラスの国では人々の体内にある魔力を魔導械に取り入れることで、生活に必要なポイントを貰うことが出来る。欠点として体への負担が大きいが、魔法の惑星トロフならではのシステムである。


「タツヤ、私は友達に会いに行ってくるのだ」


「分かったー。僕は外を散歩してるねー」


《タツヤの護衛は任せろ。我輩もここの精霊達に旅立つことを伝えてくる》


「分かったのだ。後で迎えに来るのだ」


 友達からポイントを借りるため、リリーは包丁を確認しているタツヤから離れた。フィンネルはタツヤと一緒にスペードタウンを東から一度出て、近くの草原に向かう。




「フィンネルさんは何の料理が好みですかー?」


《ふむ。残念ながら我々精霊は、大気にある魔力の欠片を吸収しているだけでな。料理など食べない》


「う〜ん、僕の料理を食べてもらいたかったけど………あれー、すごく眠たくなって〜きたー」


《この辺りは草原から流れる風通しが良いからな。ここなら誰も来ないぞ》


「ふわぁ……おやすみー」


《おやすみ》


「ぐぅ……」


 ぽかぽか天気の東の台地。フィンネルと話していたタツヤは、何故か眠気が襲いかかって、直ぐに眠りについた。


《フィンネルよ、久しいぞ。こやつがお前の話していた人間か》


《はい、サラマンダー様。チキュウという惑星から来たという少年です》


「ん〜〜、タイムセールが……むにゃむにゃー」


 フィンネルが空を見上げると、一般の人間には見えない赤い精霊が次々と現れる。中でも一際大きい肉体で立派なあごひげが特徴、火の上位精霊サラマンダーである。ちなみにフィンネルは下位精霊。一方、眠らされたタツヤは寝言を言いながら、ぐっすり寝ている。


《この人間から我々精霊に害意を感じるか?》


《全く無いです。むしろ、精霊の存在を受け入れて自分の料理を食べて欲しいという変わり者。私の契約者にも親しみを持っています》


《ハッハッハ! こやつは大丈夫そうか。異様な魔力を感じた時は何事かと警戒したがな》


《チキュウの神という存在の力で、このトロフに来たそうです。………おや?》


 フィンネル。


「キィ?」


「むにゃむにゃ…」


 精霊達が話していると、ぐっすり眠っているタツヤへ野生のリスが来る。少し観察した後、リスは気持ちよさそうに寝転んだ。しかも、山に住んでいる動物が続々とタツヤの周りに集まり始めた。


「ぐぅ……………」


「キィ〜〜」


《これは驚いた、よっしゃ我も》


《サラマンダー様!?》


 サラマンダーもタツヤの側で動物と同じように寝転ぶ。それに驚くフィンネル。


「えへへ〜〜……」


「キィ……」


《良い時間だ。たまには悪くないな、フィンネルよ》


《はい、平和が一番ですな》


 人間と動物と精霊が仲良く並んで寝ている。魔法使い達が見れば驚くような光景がそこにはあった。柔らかい微笑みの寝顔をするタツヤは、リリーが来るまで昼寝を続けるのであった。




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