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リリーとフィンネル

「おはようー」


「ふわぁ〜〜おはよう、なのだ……」


 タツヤが地球に似た惑星トロフに来た翌日。お世話になっているリリーの家の朝は、タツヤとリリーの挨拶から始まった。


「朝ごはん、もうすぐ出来るからねー」


「タツヤは……早起き……なのだ」


「今日の朝ごはんは、お味噌汁だよー」


「はふ〜、美味しいのだ……。昨日の料理と違って落ち着くのだ……」


 タツヤは食材の良さを確認するために朝が早い。これは地球での生活習慣でもある。少し眠気が残るリリーに対して、出来上がった味噌汁を渡す。

 リリーは地球の料理について全く知らない。それでも目の前にある味噌汁の暖かさに負けて、ゆっくりと飲み込む。その暖かさは体に染み込んだ。


《リリー、起きたか》


「フィンネル、おはようなのだ」


「リリーさん、誰かいるのー?」


 タツヤが自らの朝御飯をちゃぶ台に置いた時、聞き慣れない声がした。リリーは隣に向かって挨拶しているが、そこには誰も居ない。そこでタツヤはリリーに尋ねてみる。


《ふっ、どこにいるか分かるかな》


「誰ー?」


「フィンネル、さっさと姿を見せるのだ」


《了解した、リリー》


「わーっ!?」


 タツヤの周りから声が聞こえてくるが、全く見えなく分からない。からかっているフィンネルに対して、リリーが言う。すると、何もないタツヤの目の前に、いきなりそれは現れた。


「私と一緒に住んでいる精霊なのだ」


「せい、れい?」


《我輩はフィンネル。炎の精霊だ、よろしくな》


「よ、よろしくー」


 姿を現したフィンネル。その姿は真っ赤で半透明。しかも、浮いている。これらの見た目に、タツヤは驚きを隠せない。流石に地球の神様と出会った時とは違い、いきなりドアップの顔が現れると誰だって驚く。


「フィンネル、昨日は何で現れなかったのだ?」


《最初はタツヤを怪しんでいた。400年以上生きる我輩も知らない魔法陣から現れたからな。しかし、観察した結論はリリーが笑顔だったから無害と判断した》


 リリーはフィンネルに尋ねる。神様の魔法陣は精霊さえ知らなかった。そんな魔法陣から現れたタツヤは、怪しさ満点。フィンネルは戦闘準備をしたが、リリーがタツヤの料理に笑顔であったため、のんびり見守ることにした。


「今年で500歳なのだ」


「すっごい長生きおじいさんー」


《じいさんではない。精霊で500年は人間でいう成人のようなものだ》


 精霊は人間とは違う存在。想像を越える長寿でフィンネル自身499歳ですら、精霊の世界から見ると青年である。




「リリーさん、お世話になりました」


「タツヤはこれからどうするのだ?」


「トロフを旅するー。美味しい料理を作ったり食べたりするー」


 タツヤは朝御飯の食器をきちんと洗ってから、リリーの家から出て行くことにした。リリーに尋ねられたタツヤは、トロフでやりたいことを言う。


「タツヤ、お願いがあるのだ」


「何ー?」


「私も一緒に旅がしたいのだ。小さい時からの夢だったのだ!」


 リリーはタツヤに夢を語る。タツヤとは昨日出会ったばかりだが、まるで昔からの友人だと思わせる感覚があった。


「ん? どうしてリリーさんは今まで旅をしなかったのー?」


「そ、それは……」


《リリーは自炊が出来ないからな。旅に出ても3日で餓死すると我輩が説得していた》


 タツヤはリリーが未だに夢を叶えていないことに、ちょっと疑問に思った。昨日話した時、同い年だと知ったのだ。言いづらそうなリリーに代わって、フィンネルが答える。リリーは調理が苦手であった。


「タツヤと一緒なら大丈夫なのだ、フィンネルお願いなのだ!」


「フィンネルさん、リリーさんの食べている表情は作る側から見たら幸せだよー」


《…………仕方ない、タツヤの料理の腕は本物だからな。許可する》


「やったのだ!」


《ただし! 我輩も一緒に行く。2人だけだと心配だからな。タツヤの料理、リリーの成長を見届けたい》


 フィンネルはリリーの夢には賛成していたが、実際に旅立つことは反対していた。自炊出来ないことには、絶対に旅先で生きてはいけない。

 今まで言われ続けていたリリーは、タツヤと一緒なら旅が出来ると懇願する。タツヤも後ろからフォローしている。2人から頼まれたフィンネルは、ため息を出しながらも許可した。しかし、喜ぶリリーに対して自身も行くことを条件にした。


「良いよー、3人で頑張ろー」


「タツヤ、目標はヴァルラスの最北端に行きたいのだ」


「バルラス?」


「ヴァ・ル・ラ・ス。この細長い国のことなのだ」


 タツヤはフィンネルの条件をあっさりと飲んだ。リリーは夢の目的地を話すが、タツヤにとって国の名前自体が初めて聞く名前だった。リリーは言い直して説明する。


《ここはヴァルラスの最南端だからな。最北端などの情報はめったに来ない》


「最北端がどんな場所なのか、自分の眼で見たいのだ」


「かっこいいー。僕もトロフの世界を周りたかったから、リリーさんの夢に参加しまーす」


《見知らぬ土地を巡る旅。長生きしてきたが、心が踊るな》


 タツヤ達がいる現在地はヴァルラスの最南端の街スペードタウン。最北端の情報は街の名前すら分からない。だからこそ、リリーの中で知りたいという欲望が生まれた。それを実行する前向きさにタツヤも共感する。フィンネルもやる気充分である。


「とりあえず、スペードタウンの中心街で色んな準備をするのだ」


「出発進行ー!」


「《「おおぉーーっ!」》」


 リリーの家はスペードタウンの最南端。まずは旅の準備を整えるため、気合いを入れた3人は中心街に向かうのであった。




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