タツヤとリリー
「申し訳ないのだぁぁぁっ!」
その謝罪は突然だった。日本人もびっくり、見事な土下座。
「何で謝っているか、よく分からないけど、あなたは誰?」
「私はリリーなのだ」
「僕はタツヤ、よろしくねー。リリーさん、ここはどこ?」
地球から転移してきたタツヤが最初に見たのは、赤い髪をした女の子。身長はタツヤと同じくくらい小さい。しかし、女性の象徴である胸の膨らみはかなり大きい。顔立ちは美しいより可愛い系。お互いに自己紹介を終えて、タツヤはリリーに現在地を尋ねる。
「私の家なのだ」
「ごめんなさい。すぐに出ていきまーす」
「違うのだ、私が召喚したから大丈夫なのだ」
「召喚?」
ここはリリーの家でタツヤがいる場所はリリーの部屋。女の子の部屋にしては、少し狭く何やら魔法陣が描かれている紙が散らばっている。出て行こうとしたタツヤだが、リリーが引き止めた。
「ここはレインボーマウンテンが有名なスペードタウンなのだ。あなたの街はどこなのだ? 場所さえ分かれば送り返すことが出来るのだ」
「レインボーマウンテン? スペードタウン? 聞いたことないよー」
「聞いたことない? トロフの中では有名な場所なのだ」
リリーはタツヤを呼びよせる時に居た街に送ると言う。しかし、タツヤには初めて聞く場所であり首を傾げ、そのような反応を返すとは思わなかったリリーも同じように首を傾げる。
「あっ、トロフには来れたのか。僕、地球から来ましたー」
「おおっ、チキュウ知ってるのだ! 最近、発見された惑星のことなのだ!」
タツヤは、リリーの会話の中にトロフの言葉が出て初めてトロフに来たと実感する。タツヤの疑問が分からなかったリリーも、やっと分かって笑顔になる。
「地球、知ってるんだー」
「このトロフから一番遠い惑星として、ニュースになったばかりなのだ」
リリーは召喚魔法を練習していると、突然目の前に見たことない魔法陣が発生して、そこにタツヤが現れたと言っている。
「チキュウについて聞きたいのだ。今日は、ここで寝泊まりするのだ」
「いいのー?」
「もちろんなのだ!」
リリーは地球という最近の話題を知っているタツヤに興味津々。むしろ、お互いに仲良くなれると通じあっている。
「あの、リリーさん。魔法って何ー?」
「タツヤ、チキュウには魔法は無いのか?」
「無いよー。想像のお話。箒で空を飛ぶとか杖から炎を放つとかは有名だけどねー」
「どっちもあるのだ。タツヤを喚んだのも召喚魔法っていう魔法の1つなのだ」
タツヤは魔法について興味津々だった。地球では有名な額に傷がある少年が、悪の帝王と戦うシリーズ小説を読んでいたぐらい。その話をしながらも、リリーと長く会話していた。
「リリーさん、実はお腹が……」
「わ、私もお腹が空いたのだ。そういえば、夕御飯がまだなのだ。い、急いで買ってこないと」
余程長く話していたのか、家の外はすっかり太陽が沈んでいた。お互いに腹の虫が鳴ったのか、特にリリーは恥ずかしがっている。
「僕、作ろっか?」
「タツヤ、作れるのか!?」
「うん。リュックサックに食材があるから」
「よろしくなのだ。火の魔法については横から教えるのだ」
「ありがとう、頑張って作るからー」
神様から貰ったリュックサックから食材を取り出すタツヤ。リリーがあまり驚かない様子なので、似たようなものがトロフにもあるようだ。タツヤとリリーは台所に向かって行き準備完了。
「早く食べたいから短くて簡単に作れる料理にしまーす」
「楽しみなのだ」
「卵を4つ取り出してー、フライパンに乗せまーす。温めながら魚肉ソーセージを切りまーす。牛乳を加えた卵と一緒にくるくるかき混ぜてー、塩をパパッと振りかけまーす。これで完成、魚肉ソーセージ入りスクランブルエッグ♪」
タツヤは余程機嫌が良かったのか歌いながら作った。新しい世界やまだ見ぬ食材への楽しみに興奮していた。
「す、すごいのだ……」
「何が?」
「こんな豪勢な料理、初めてなのだ!」
目の前にある夕御飯にリリーが驚く。今回は時間が無かったため、既に完成しているご飯やオカズをリュックサックから取り出して置いてある。時間があれば、タツヤはそれらも1から作れる。
「いただきまーす」
「イタダキマス、って何なのだ?」
「食材に感謝する言葉ー。食べ終わったら、ごちそうさま、だよー」
「良い言葉なのだ、いただきます」
タツヤとリリーはテーブルに料理を置く。ただし、テーブルというより昔の日本人が使っていたちゃぶ台に近いもの。リリーは手を合わせて独自の言葉を言うタツヤに疑問を尋ねた。その答えに納得して自分も同じように言ってから食べ始める。
「…………………」
「あれ?」
もぐもぐ。
「…………………」
「リリーさん?」
もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
「美味しいのだ〜〜〜〜〜〜っ!」
「びっくりしたー」
何故か無言のリリーに、タツヤは味が合わなかったのかな、と心配。しかし、予想に反して美味し過ぎてリアクションが遅れていただけだった。
「ゴチソウサマなのだ!」
「お粗末さまー」
タツヤとリリーは満足して夕御飯を終えた。
「タツヤは私の隣にあるベッドで寝るのだ」
「ありがとう、リリーさん」
夕御飯が終わって一息ついた後、さっそく寝る準備をするリリー。タツヤはお風呂のことを尋ねたかったが、地球からの転移で疲れが溜まっていたのか、いつの間にか忘れる。
「フィンネル、明かりを消すのだ」
「………フィンネル? 何だろう、あの明かりのことかな。まっ、いっかー?」
リリーが頼むと、炎が勝手に消えて真っ暗になる。タツヤは気になったが、眠気に負ける。
「おやすみなのだ」
「おやすみー」
リリーとタツヤは、ぐっすり寝るのであった。