和解と最北端
「ポポ姉! 皆!」
「リリー、良かった〜。父さん、母さんも無事よ〜」
「心配な気持ちは分かるけど、飛び出したら危険じゃない!」
「ごめんなのだ」
《我輩も注意しようしたが、面目ない》
リリーはトドに指示されたキングタウンの南西端に来る。そこは小さな広場になっており、ポポやビスタ達がいた。ビスタがリリーを注意して、フィンネルも謝っている。
「しっかし、あのドラゴン強えな」
「当然だ。ブラックドラゴンはメガモンスター級だ。しかも、群れなど体験したことない」
「倒すのは至難の業……」
「どうやって追いかえそうかしら〜?」
コッドンが遠くにいるブラックドラゴンの戦いに興味。トドも一旦退却して、避難所に来て説明する。太刀打ち出来ないと分かっていても、メガモンスター級の相手に対策を練るビスタとポポ。
「あれ、そういえばタツヤは?」
「居ないのだ」
「逃げたか」
「トド兄、タツヤは逃げるような男じゃないのだ!」
「す、すまん……リリー」
いつもならリリーと一緒にいるタツヤがいない。トドは馬鹿にしたように言うが、リリーは物凄く怒る。妹の珍しい姿に戸惑いながら謝る。
「たっくんなら、あそこよ〜」
「えっほ、えっほ」
「何これ?」
「おにぎりー」
ポポが示した場所は休憩所。タツヤはそこで料理を作っていた。しかし、その料理はとても簡単かつシンプル。日本の料理おにぎりだ。もちろん、トロフの人間は知らない。
「ただ米を丸めているだけ?」
「いや……全部味が違う……」
「「「!?」」」
「塩・昆布・鮭・カツオ・ふりかけ・焼き・ツナマヨ・醤油・梅干し・海苔・その他色々ー」
タツヤは炊事道具を全部出して、ドラゴンとの長期戦を考え、おばちゃん軍団におにぎりを教えて飯炊きをしていた。
米はトロフにもあるが、様々な味を付けるという発想が無くて、色んなおにぎりに驚いている。
「作るの速いな……」
「負けないわよ!」
「戦って足を引っ張るより、いっぱいご飯を作って支援ー」
「待てよ!? これで前線が生き返るぞ。魔法使い達に報告!」
タツヤはおばちゃん軍団の3倍のスピードで、おにぎりを作っている。負けじと作って、どんどん増える。タツヤの言い分に、トドは最初呆れていたが、重要性に気づいて戦う魔法使い達に報告する。
「おにぎり、ください!」
「はい、どーぞ」
「ギルドチームに飯を頼む!」
「はい、どーぞ」
『腹が減った、おにぎり食わせろ』
「はい、どーぞ」
1人の魔法使いが腹ごしらえに、おにぎりを貰っていく。タツヤが渡す。
ギルドチームがおにぎり大量を要求する。タツヤが渡す。
ブラックドラゴンがおにぎりを見て興味を示す。タツヤが渡す。
「ん? 今の誰?」
「ドラゴンー」
「ああ、ドラゴンか……。ドラゴン……? ドラゴン!?」
隣の男が今渡した存在が誰かタツヤに尋ねる。何とブラックドラゴンだった。この戦い、誰もが予想しなかった方法で終戦に向かっていく。
『くそ、魔力が足りん。そこの人間、飯をよこせ!』
「はい、どーぞ」
『美味い!? おかわりだ!』
「はい、どーぞ」
魔力を消費することは、体に負担が起こって腹が減りやすくなる。それは人間もモンスターも同じ。いつの間にか戦っていた人間達とドラゴン達が、タツヤの飯に夢中になって戦いが止まっていた。
『お前達、人間の料理に餌付けされるとは、それでも誇り高き黒魔竜か!』
『お父ちゃん!』
『テムザ!?』
『もう良いよ! 今、誰も戦いを望んでいない!』
『むぅ……』
ブラックドラゴンのリーダー格グレンセルは怒鳴っていた。攻撃しようとすると、あるブラックドラゴンが止める。それは最近探しても見つからなかったテムザ。グレンセルの娘だ。
「戦いが終わった……何だ、この終わりかた……」
「流石、若旦那!」
「はい、どーぞ」
『美味い! 人間がこれほど美味い飯を作れるとは……』
「こんな美味しい料理を作れるのは、タツヤだけなのだ。本当にすごいのだ……」
トドが不完全燃焼、ハンドルスが感動する。結局、グレンセルもご馳走になった。ドラゴンも認める料理を作るタツヤ。ますますリリーは自分の中でタツヤが大きくなっていくのを感じる。
「もう少し大きく作れたら、ドラゴンさんにもお腹いっぱい食べてもらえるのにー」
「たっくん。これは、アリスと作った魔道具が使えるかも〜」
「何なのだ?」
「物質を巨大化させる魔道具よ」
「おおー! このおにぎり大きくしてー」
タツヤは人間が作るおにぎりが、ドラゴンの小腹ぐらいしか食べれないことに、がっかり。しかし、ポポが作った魔道具によって問題解決。戦いがいつの間にか大宴会になる。
「行ってくるのだ!」
「出発ー!」
『もう、今回だけだからね!』
あの後、全部が上手くノリで解決出来る訳もなく、キングタウンで数日間、色んな後始末を終えた。ビスタとコッドンとは、ここでお別れ。
タツヤとリリーはブラックドラゴンことテムザに乗って、一気に最北端へ。旅がいよいよ終わる。




