第3話:出会い
幾度となく繰り返すセミの声が僕の耳をふさぐ。
ただ、彼女の声はそんな僕の前にまっすぐ届いたんだ。
今でも僕はその時を思い出しては、笑いながら泣いている。
「ヨシ!頑張ってる?」
目を細める僕に彼女は優しく微笑んだ。空気は静かに流れながらも、彼女の長い髪をゆっくりとなびかせる。太陽の眩しさがその顔を反射させて、僕はさらに目を細めた。
だがいくら考えても僕の頭の中に彼女の記憶がない。
一気に僕のこれまでの人生をフラッシュバックしたが、まるで彼女の顔は出てくる兆しはなかった。そんな状態をリセットできない僕に、彼女は言葉を続けた。
「ヨシ?顔が歪んでる。そんなにぶさいくだったけ?」
けして穏やかな気持ちになれることはない言葉を僕に投げかけた彼女は、ゆっくりと僕の方へと足を進める。
「その顔は昔から変わってないなぁ。太陽にあたるとそうやってすぐ目を細めてた。まぁ居眠りの常習犯だったし、太陽が苦手なのはしょうがないか。」
彼女の声が僕へと確実に近づいてくる。
なぜだろう…あの時僕は、君のその笑顔を当たり前に待っていた。
「ねぇヨシ!?聞こえてるの?」
彼女の声は僕の目の前に到着し、その表情はしかめっ面に変わっていた。
「そんな大きな声出さなくてもちゃんと聞こえてる。」
僕は想像以上に静かに答えていた。
ただそれができたのは、君が僕の前に現れてくれたから。
あの時君の顔さえ分からなかった僕は、僕の言葉を聞いた瞬間の君の笑顔を一生忘れないと思った。そんな思いに理由はなくて…。
彼女は今日の太陽の下、なんの迷いもなく確かにそこにまっすぐと立っていた。
透き通るような真っ白なスカートをなびかせながら。