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Destiny of the War  作者: 瑞玉
第一章 宿命と力
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1-8

『……選ばれし者よ』


 脳裏まではっきり届いた言葉。目を見開いたシルフィは包むような優しさを持つ穏やかな声にゆっくり顔を上げた。目には変わらない殺風景。幻聴だったのだろうか。『選ばれし者』って。でもはっきりと聞こえたのだ。


「…だ、だれ…?」


 シルフィは何もいない辺りに声を投げかける。その時、空から一筋の光が目の前に差し込み白い光が音も無く現れた。直径20㎝くらいの大きさの丸い光が姿を現し、シルフィは目を驚きに見開く。


『選ばれし者よ』



 選ばれし者……?


 オウム返しのように心の中で復唱したシルフィは不思議そうに光を見つめる。光は上下に移動する。そして光はソルフィアに近づく。途端、ソルフィアは控え目に白く光り出した。突然の光景にシルフィは止めることも言葉が出ず見守るだけだった。


 光が止む。


「……ん」


 小さな声が耳をかすった。身を乗り出すようにシルフィは近づく。何事もなかったようにソルフィアは目を開き始める。数回瞼が開眼するとはっきりソルフィアの目がシルフィを捉えた。


「……シルフィ」

「ソル姉ちゃん!!」


 顔をくしゃくしゃにさせているシルフィが映る。静かに体を起こしたソルフィアは驚いた様子を隠せず両手を見る。体に張り付いていた氷も無くなり、傷も完全に癒えていた。


「あたし…は…」


 ソルフィアは痛みも何も残っていない体に不思議に見る。再びシルフィに顔を移動した瞬間、勢い良く抱きつかれた。また地面に倒れ込む形になったソルフィアは抱きついているシルフィにビックリする。耳元で「良かった、良かった……っ!」と安堵の言葉が次々と入り込み、泣きじゃくる声さえ聞こえた。


 さっきまで氷に支配されていた腕を動かせば血の気が通っていると分かる。体が氷に侵される感覚が思い出す。全身から温かみを奪われ激痛に感覚が狂う。体の至る所が何かに覆われているかのように重く動かすことができなかった。

 

 死を覚悟していた。

 最上級魔法を唱え対価として身を犠牲にする可能性のある魔法だ。小型魔物に対し多く低級魔法を唱えていたこともあり、魔力が減ったことも要因だろう。十分な魔力が足りなく身を削ったのだ。体に感じるシルフィの体温が、生きていると実感し心から安堵した。


 ふと気がついたソルフィアは体を起こした。くっついていたシルフィも起きあがる。ソルフィアは目を見開いた。


(魔力が……)


 シルフィに魔力が宿っている。大きさが不安定だがしっかりと魔力がシルフィーに集まっている。離されたシルフィは不思議そうな顔をして見つめ返す。


「っ!」


 ソルフィアは上から下までシルフィを見るとある場所で止まった。胸元に無かったはずの物があった。


(やはりこれは……)



「ーーーあと少し遅かったら危なかったわよ、ソルフィア」


 涼風を思わせる透き通った声が耳に入る。白い光が二人の目の前に現れその場にくるりと一回転した。


「……フェン?」


 光を目にしたソルフィアは確かめるようにその名を呟く。鈴が鳴ったような小ぶりの音が広がった。その瞬間、眩しく光っていた光は丸みを変化させ始めた。人型の形を作り始める。変化を終えると光は消え変わりに小さな小さな少女が宙に浮かんでいた。


「久しぶり、ソルフィア」


 透きとおった声は前にいる小さな少女だった。

 小さいと言っても人間の子供のような小ささではない。約20㎝くらいの身長だ。ベルベットのように滑らかに滑る純白の髪。ウェーブがかかっており背中まで伸び綺麗にまとまっている。柔らかな印象を持つ目元に黒の瞳。白い素肌にベージュのローブをまとっている。鼻立ちには幼さが残っているが端麗な容姿だった。


「初めましてシルフィ、私はフェン。精霊よ」


 精霊フェンはシルフィに向き直すと礼儀正しく一礼をする。礼を終えたフェンは笑みを浮かべた。可憐を思わせる容姿だが大輪が咲いたような麗しい笑顔を見せている。


「…………」


 呆然とするシルフィ。物珍しいような表情を見せている。シルフィは精霊を目にするのは初めてである。


「フェン、どうしてここにいる?」


 ソルフィアはフェンに問いかける。シルフィはゆっくりと姉を見ると驚きを隠せない表情が見えた。精霊にビックリしたがソルフィアとフェンが面識があったことが一番疑問に思っていた。


「助けてあげたのにその言い方は無いでしょう?」


 意地悪く笑い腰に手を置くフェンは片手人差し指をソルフィアに向ける。しかし彼女は気にせずまだ驚いた表情だった。その様子にフェンは苦笑すると「まぁ驚くのも仕方ないわね」と笑う。


「私はシルフィに用があって来たの」

(………え?)


 私に用……?


 目をまん丸とさせるシルフィはフェンに視線を移す。視線が合うとフェンは優しくほほ笑んだ。



 ……何で?


 フェンはおもむろにシルフィに近づく。ビクッと体を震わせるが緊張からか動くことができない。気がつけば目の前にフェンが堂々と立っていた。フェンは口元が開くと息をひそめこう告げた。



「ーーーシルフィー、世界を救って」

「……え」


 無意識に言葉がもれた。その言葉を聞いたソルフィアは全てを理解したのか納得した表情を浮かべる。


(世界を、救う……?)


 口をポカンと開け理解不能と見れるシルフィにフェンは困ったように笑う。


「突然そんなこと言われても困るわよね」


 当たり前のことを言うフェン。フェンは肩眉を上げ苦笑を浮かべる。シルフィはやっと言葉を発する。


「……なんで?」


 絞り出した言葉。聞きたいことはもっとあるはずだが口から出たのが「なんで」の一言だった。


「……ソルフィア、さっきのが初めてなの?」


 ふいにソルフィアに尋ねる。腕を組み眉間にしわを寄せ難しそうな表情を浮かべていたソルフィアはハッと気がつく。


「……そうだ」

「じゃあ聞いても分からないかもね」


 フェンは再びシルフィに向き直る。何のやり取りをしてるのだろう。他人事のようにボケっとしていたシルフィ。


「さっきの魔物、とても強かったよね?」

「う、うん」


 フェンの問いに思い返す。今でも耳に留まる不気味な魔物の奇声。無数の魔物にとてつもなく大きな親玉と無数の魔物。命を削ってまでも唱えた魔法に立ち上がる巨体。体を這う痛み。思い出すだけで恐ろしさが蘇る。


「どうしてそれを?」

「見てたから」


 シルフィの質問にフェンはあっさりと答えた。表情一切変えずに。


(見てた…?)


 いつから?

 どこから?

 そんなこと関係ない。

 あの場所にいたなら助けてくれたって…。


「何ですぐに助けてくれなかったの……?」


 湧き上がる怒りを露わにし睨みつけるシルフィ。あんなに怖い思いをしたのは初めてだった。何もできない自分が戦うことさえできない。襲いかかってくる魔物をただ見るだけ。


 そばにいてくれたらーー



「信じていたから、可能性を」


 芯を持った言葉にシルフィの怒りに似た感情がスッと消えていく。真剣に答えたフェンの眼差しは正直だった。最後まで信じていたと言っているかのように。


「シルフィ、あなたには世界を救う宿命がある」

「……宿、命?」


 シルフィは思わず復唱した。更に困惑するシルフィにフェンは一呼吸を終えてから目を瞑り口を開いた。


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