1-6
「クソ………ッ」
とっさに負傷している腕も使い両手を前に突き出す。その途端、負傷している腕から再び血が滲みだす。
『フローズン・コア』
両掌から大きな氷の杭が現れる。低温の冷気がまとう杭は振り落とされる斧に直撃する。途端、一瞬で斧が氷におおわれる。握っていた魔物の手までさえ凍りついた。魔物の苦しむ声が発せられる。攻撃から逃れたソルフィアはシルフィの方を向くと、彼女は自分の魔法に興奮気味で「すごいすごい!」と言っている。その後方から無数の魔物が姿を現し始める。
あっという間の事だった。小型の魔物がどこからともなくやってきてシルフィに襲いかかり始めた。どんどん山となりシルフィの姿がなくなる。
「シルフィ!!」
魔物の山が青く光り始める。囲んでいた魔物全てがソルフィアの力で吹き飛ばされ、黒い煙を放ち消え去しシルフィの姿を現す。ぐったりとし傷だらけのシルフィは力なく地面に横たわっている。駆け出しシルフィーの元へ向かう。どこから湧いて出るのか、またもや小型の魔物が二人を囲む。ケタケタと笑い斧を振り回しながら近づいてくる。
横たわるシルフィを抱き起こす。力を失ったシルフィは静かに目を閉じたまま。体中、魔物にやられたのか傷だらけで握っていた槍もカランと地面に落ちた。辺り全てが白い光に満ちる。それと反応するかのようにソルフィアの魔力が強まり始める。減っていた魔力が蘇り始め上昇し始めた。笑い続けていた魔物達は嘘のように静まり、うろたえ始める。親玉でさえ後ずさりし始める。
これから起こる魔法に魔物達は激しい恐怖感を抱いていた。あの時、押しのけさえしなければこんなことにはならなかったのか。責め始めるソルフィアは目を閉じ続けるシルフィーの頬を撫でる。上級魔法でもこの魔物は倒れないだろう。この異常な魔物を止める術は一つしかない。ソルフィアは首飾りの三つ繋がっている水晶を握りしめた。
命に代えても……
―――もう終わりにしよう
上昇しきった魔力は天まで白い光を帯びる。強大な力に辺りは白い稲妻が伸び始める。うっすらと意識が戻ったシルフィは重たい瞼を開ける。全身重い痛みに身を強張らせたが、感じたこともない莫大な魔力に目を大きく見開かせる。
この魔力はソル姉ちゃん……
目の先には無数の小型の魔物と親玉と対峙するソルフィアがいる。未だに上昇し始める魔力に声が出ない。そして何故か体が震え始める。ソルフィアが今これから何をするのか、不安と恐ろしさでいっぱいになる。
「……ソル、姉ちゃん?」
引きずるように体を動かし姉の元へ向かう。ゆっくりと振り向くとシルフィは唖然とした。
---漆黒の瞳。
「ソル姉ちゃん!!」
姉のところへ駆け出し強く抱きしめた。シルフィは痛いくらい姉を抱きしめると、答えるように片手でシルフィを抱いた。ソルフィアの体は自分が凍ってしまうんじゃないかと思うくらい冷たかった。まるで氷に変わったような。それでもシルフィは無心で抱きしめる。
今すぐ魔法を止めて。
何でそう叫びたいのか形にはならないが、ただならぬ不安がシルフィを支配していた。
力の限り叫びたいのにせき止められているのか声が出ない。だから伝わってほしい。声に出せないこの思いを。だが思いは届かず、限界まで上昇した魔力は閃光となり天を貫いた。
『アブソリュート・ゼロ』
視界も、五感すべてを奪った光が魔物達を照らす。全てが真っ白な世界へと変わる。