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また大きな揺れが起き始める。今度は巨大な足音とも一緒に揺れが起きる。何かが近づいてくるのか足音がどんどん近付く。音をする方へ向いていた顔をソルフィアは振り返り、シルフィの手を掴む。そして逃げるように後方へ走った。
「この音って……」
「あいつだ」
高速で走るソルフィアの背に問うたシルフィにソルフィアは険しい顔で答える。それを確認知るかのようにシルフィは後ろを向くと空を遮るかのように木々が茂っている。その合間に姿が見え隠れしている。親玉の巨大な魔物だ。
街から遠ざけるように魔物をおびき寄せるソルフィアとシルフィ。目の前から追ってきた小型の魔物が無数に現れる。行く手を塞がれた二人。立ち止り魔物に構える。
前には小型の魔物。後方には巨大な魔物。じりじりと迫りくる魔物にシルフィは思わずソルフィアの背にしがみつく。
「……ソルお姉ちゃん」
不安に支配されたシルフィの声が不気味な笑い声の中にかき消されそうだ。
「……離れるなよ」
今から家に戻れと言ってももう遅い。完全にシルフィも狙われてしまった。ソルフィアの言葉に応えるようにシルフィは強く服を掴む。
巨大な魔物が一つ大きな雄たけびを上げた。周りにいるもの全てをひるませる雄たけびにシルフィは耳を押さえ目を瞑る。
ソルフィアは固唾を飲んで次の行動に備えていた。一斉に小型の魔物が飛びかかる。空に飛びあがった魔物達は鋭い斧を光らせた。目を開けたシルフィは襲いかかる魔物達の光景に息が止まる思いだった。
ソルフィアは長剣を出し魔力を高める。それに反応した長剣は刃を青白く光らせ冷気を帯びる。シルフィを離れさせないように引き寄せると一気にその場で一振り払った。その瞬間、二人を包むように冷気の風が巻き起こり魔物の突進を防ぐ。冷気の風に弾かれた魔物は地面に戻される。弱い魔物はその魔法だけで消えていくものもいた。
再び多勢の魔物が突進し始める。今度は複数の魔物が魔法を唱え始める。水の弾を四方八方から二人へ襲いかかる。たくさんの水弾が迫り、シルフィは姉にしがみつく。刹那、目の前に迫っていた水弾が全て弾け消えた。水の霧があたりに散らばる。ソルフィアは魔力で水弾をかき消したのだ。茫然と姉の横顔を見つめるシルフィだが、やはり気づいてしまった。
昼間の腕の負傷。今でもその腕は動かしていない。そして昼間も、今も多く魔法を唱えたからか魔力が目に見えて減っている。
「ソル姉ちゃん、魔力が……」
後方から足音が轟く。親玉も動き出したのか巨大な斧が天へと上げられる。苦い顔をしたソルフィアは片手を真上に上げる。すると二人を守るように分厚い氷のバリアーが現れる。振り下ろされた巨大な斧が氷のバリアーとぶつかり、衝撃音が辺り一面に木霊した。振り下ろした後も斧はバリアーを押している。それを耐えるようにソルフィアは耐え続ける。
攻防が続く。異常な魔物のパワーにソルフィアは全身全霊耐える。少し苦しむソルフィアの顔を何もできないシルフィーは見ているだけ。不安いっぱいで声を出さず見守っている。
しかし魔力の減りは痛手だったか、パワーに負け始め氷のバリアーに亀裂が入り始める。音を立てヒビが入るのを二人は焦りを見せる。バリアーが大きな音を立て粉々に崩れ落ちた。押しつけていた斧が二人に近づく。
「っ!」
迫る斧の刃に動けなくなってしまったシルフィ。それを押したソルフィアはシルフィを離れさせる。地面へと転がったシルフィーは斧から免れた。が、押しのけたソルフィアは斧の攻撃に迫りくる。