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Destiny of the War  作者: 瑞玉
第一章 宿命と力
3/109

1-3

***


 日が沈み夜が深まった頃、丘に佇む一件の家は明かりが灯され、明るい声が外にもれていた。まるで昼に起こった魔物の件などなかったかのように。


「うわぁ! すごい!!」


 感動の声を上げ目を光らせるシルフィの前には、彼女の誕生日を祝うご馳走が並んでいた。腕をふるったソルフィアはどこか満足そうに腰に手を置き、喜ぶシルフィーを見つめていた。


「さすがソルお姉ちゃん!! どれも美味しそう!!」


 涎を溢れるのを押さえ目移りするシルフィにソルフィアは「さぁ食べよう」と声をかける。チキンやサラダ、スープ、ケーキをも放り投げるように次々とシルフィは口に入れる。


「うーん! 美味しい!」


 ほっぺが落ちそうと絶賛しながら食べる彼女に「落ち着いて食べな」と注意する。


「本当に行儀悪い」

「だって美味しいんだもん」


 ぶぅっと膨れるシルフィに呆れたように肩をすくめる。だがシルフィの幸せそうに食べる顔を見て暗くなっていた心が晴れていくのが分かる。


「……ミュリエル姉さんもシルフィの事祝ってるよ」


 途端、静寂が流れる。勢いよく動いていたシルフィの手が嘘のように固まっている。しまった、というような顔をしたソルフィア。思わず口にしてしまった。



「…そうだよね! お姉ちゃんも喜んでるよね!!」


 何事も無かったようにシルフィは満面の笑みで喜ぶ。ぱぁっと明るくなった彼女に面を食らった感覚を覚えたソルフィアは目を見開く。


「私17歳になったこと分かってるかなぁ、強くなったし!」

「…姉さんなら分かってるよ、きっと」

「そうだよね!」


 あ、ご馳走冷めちゃうとまた勢いよく食べ始めたシルフィ。


 

「……今度はお姉ちゃんも一緒に誕生日迎えられたら良いなぁ」


 いつもの、普段の様子だ。でも一瞬、妹の顔が無に近い表情になったことをソルフィアは見抜いていた。そしてその理由も良く知っている。



 ――この場にいるはずの長女の姿が無い


「……無事に帰ってくる」


 この言葉を何回言い聞かせたのだろうか。同じ言葉にシルフィはいつも疑わず「うん!」と元気よく頷く。今も、だ。太陽のように明るい笑顔をこちらに向ける妹に心が痛くなる。


「そういえばソル姉ちゃん、今日の魔物さ明らかにおかしかったよね?」


 ぴたりと止まったシルフィは思い出したように尋ねる。巨大な魔物、途中から異常に高まったパワーとスピード。そして不気味な闇のオーラ。ソルフィア自身も見たことがない魔物だった。

 

 まさか……と心のどこかで何か予感が浮かびソルフィアは黙り込んでしまった。ソルフィアは横目でシルフィを見やる。吸いこむように食べ物を平らげるシルフィ。晴れていた気持ちが再び曇り始める。



 ――――もうすぐなのかもしれない


***


 夕飯を食べ終わり入浴も澄ましたシルフィ。頭にタオルを乗せ長い髪に滴る水を拭く。自室に戻ろうと階段を上り廊下を進むと、ソルフィアの自室のドアが少し開いている。


(……ソル姉ちゃん?)


 ドアからぼんやりと光が漏れていることで姉がいるのだと気がつく。何をしているのだろうとこっそり近づき、中を覗いた。

 清潔にされた部屋。必要最低限の物しか置いていないソルフィアの部屋。部屋の主である本人は月明かりがそそぐ窓辺に立っていた。小さな明かりしか着いていないが月の光で部屋は十分に明るくなっている。

 月夜に照らされる姉の横顔。凛々しく飄々とした顔が光で更に艶やかにシルフィの目に映る。妹ながら息をするのも忘れるくらいだと感じた時、形の良い姉の口が動いた。


「……姉さん、今日シルフィの誕生日だよ」


 ぽつりと言葉をもらした姉にシルフィは声が出そうになったのを堪えた。思わず目を大きく見開き耳を傾ける。


(姉さん? お姉ちゃんがいるの!?)


 長女がミュリエルに言ってると気付き部屋を見回したがその姿が無い。これは独り言なのだろうか。そう思うと再び聞こえてきた。


「あの子、相変わらず馬鹿力で大食いで、無鉄砲で危なっかしくて、全く成長してない」


 うっ、とグサグサと突き刺さるような言葉を並べられシルフィは少々傷つく。身に覚えのある単語ばかりで心の中でさえも反論できない。しかしソルフィアは言葉とは裏腹に表情は優しくてどこか笑ってるようだった。


 「姉さんの帰り、ずっと待ってるよ。ずっと、ずっと……」

 (…………)


「姉さんの約束通り、あの子を、シルフィを守ってきた。

―――そして今日、17歳になった」


 …………え?


「もうそろそろだと思う。この世界、何かが動き始めるのは」

(………ソル姉ちゃん?)

「今から迎えるであろう運命にシルフィは受け入れてくれるか不安なんだ、あの太陽の笑顔が失う日が来るんじゃないかと」


 ………なに、を


 物音が静かな廊下に無情に響く。


「っ!」


 思わず後ずさりをしたシルフィの足元にあった本が音を立て落ちてしまったのだ。ドアの先には弾かれるようにこちらを向いたソルフィア。目をまん丸にしているシルフィと視線が交わった。


「………シルフィ」


 理解しきれていないシルフィは頭の中が真っ白だった。姉は何を言っているのだろう。聞いていたとは分からなかったソルフィアも言葉が出ない。


「……何を言ってるの? ソル姉ちゃん」


 掠れ気味の声で紡ぐ言葉。ソルフィアは何か知っているのか。そう思っても思考がついて回らない。


「…………」


 声が無くなった。黙ってしまったソルフィアはシルフィに視線を合わせない。答えてくれないソルフィアにますます疑問が深まる。


「……ねぇ、なにを…」


 巨大な衝撃音が轟いた。それと同時に大きな揺れを感じ思わず床に座り込む。


「な、なに……?」


 突然の音に驚き戸惑う二人。ソルフィアは揺れがおさまるとドアを飛び出し玄関へと向かう。


「ま、待って!」


 高まる心臓を押さえソルフィアの後を追い家でと出る。自宅を出てソルフィアの隣へ立つ。そこから臨む光景に絶句した。

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