表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Destiny of the War  作者: 瑞玉
第一章 宿命と力
2/109

1-2

 奇声に近い悲鳴、悲痛な叫びが絶え間なく聞こえる。あらゆる魔法の光が起こっている。シルフィとソルフィアは街に着くと絶句した。街の建物よりも巨大な人型の魔物が大きな斧を振り回している。それを応戦する街の住民達は様々な魔法を放ち攻撃し続けている。


「……大き、い」


 見たこともない大きさの魔物にシルフィは言葉を紡ぎながら発する。こんなにも巨大な魔物を見たことが無い。魔物は冷酷に住民達の魔法をかき消している。そして大きな斧を一振り横に振ると猛烈な風が吹き荒れる。その風をバリアーを張って受け止めるが次々と跳ね飛ばされる。


 恐怖が体を走る。必死に守ろうとする住民に対し魔物はそれを無下にする。シルフィが恐怖で足がすくんでいると横にいたソルフィアは駆け出した。人々を縫うように走り魔物へと近づく。


「ソルフィアが来た!」と見つけた人は喜ぶ様子を見せる。

彼女はお構いなく魔物との距離を縮めると高々と跳躍した。空高く飛びあがるとソルフィアは片手から広げる。掌に青白い光が集まると白銀の刃を持つ長剣を出す。 


 魔物はソルフィアを見つけると雄たけびを上げた。街をも振動する雄たけびに住民達は思わず耳を塞ぐ。この雄たけびで魔物に近づくことができなかったのだろう。武器で攻撃しようとすると魔物は雄たけびで動きを止めるのだ。


「耳が……っ」


 シルフィもきつく目を閉じ両耳を塞ぐ。しかしソルフィアだけは魔物に集中し、すぐ傍まで近づく。狙いを定め長剣を振る。氷属性付与の長剣が鋭く光り、魔物を腕を斬りつけた。悲痛な魔物の奇声が発せられる。斬りつけた部位から真っ赤な鮮血が吹き出し、ぱっくりと傷口が開いた。歓声が沸き起こる。やっと一発魔物に攻撃を与えることができたのだ。


「すごいソル姉ちゃん!」


 ソルフィアの雄姿に興奮気味のシルフィ。まるで光のように目にもとまらぬ速さで魔物をかく乱している。凶悪な魔物と対等に、いや優勢に戦っている姉に目を輝かせている。こんなにも強い人を見たことはない。それが姉。シルフィは誇らしく思えた。


 かく乱させているソルフィアは次々と魔物を攻撃する。後方や頭上、足元など電光石火で攻撃する。ソルフィアを応援する声が大きく鳴る。シルフィも負けじと「お姉ちゃん頑張れー!!」と声を張らせる。

 その時、全身を走るようにシルフィは何かを感じた。思わず声援を止める。家を出た時の嫌な胸騒ぎ、嫌な予感が再び感じたのだ。


(……な、に……?)


 刹那、魔物が天を見上げると聞いたこともない咆哮上げた。空気、大地、全てを震え上がらせるような咆哮に一族達は一瞬で戦意をそがれる。雄たけびが聞かなかったソルフィアさえ、その咆哮に吹き飛ばされる。回転しながら地面に着地したソルフィアは様子がおかしい魔物を窺う。


 さっきの予知はこれのことだろうか。そんなことさえも頭が回らなくなったシルフィは茫然と魔物を見つめる。街をも覆った闇のオーラが一層強まる。まるで様子がおかしい魔物と同調しているかのように。オーラが深まる中心、魔物は禍々しい瞳が更に怪しく歪んだ。

 物凄い速さで魔物は斧をソルフィアに振り回した。


「っ!」


 反射的に避け斧は建物を崩壊させる。明らかに様子が変わった魔物。スピードも更に上がり、破壊力も増している。魔物は奇声を上げると口から放つ。氷の砲撃が一直線に伸び街を凍らせる。一族は逃げたり、バリアーを張って守った。


『アイシクル・ニードル』 


 ソルフィアは目を閉じ詠唱すると、彼女の周りから鋭い氷の針が無数に現れる。何本の針が魔物に突き刺さる。が魔物の動きは止まらない。依然、魔物はソルフィアを狙いながらも街を破壊し、一族を攻撃していた。


「ちっ………」


 あまり攻撃が効いていないと分かったソルフィアは軽く舌打ちすると再び詠唱する。


『フリーズ・ランサー』


 ソルフィアの目の前に魔法陣が現れその円から無数の氷の剣が放たれる。ほぼ剣が魔物を直撃するが魔物の勢いが止まらない。我を忘れたように魔物は暴れまくる。尋常では無い強さに化した魔物にソルフィアは疑問に満ちる。理性を無くした魔物に一族達も応戦する。雄たけびをしなくなったから、魔法も当たるようになったが全く効いていないようだ。


 ソルフィアは逃げながら氷の魔法を唱え続ける。氷魔法は魔力消費が大きいため体の負担も大きい。唱え続けているソルフィアも疲労の色が見えてきた。魔物は一撃、大きく斧を振るった。爆風が吹き荒れ、一族達を吹き飛ばす。


「きゃああ!」


 爆風に巻き込まれたシルフィは吹き飛ばされてしまう。それに気がついたソルフィアは光のように向かい抱きとめる。魔物は容赦なく再びこちら斧を振りおろした。


「っ!」


 シルフィを空中で抱きとめているため逃げることが出来ない。しかも狙ったのはソルフィアでは無くシルフィー。上手く体制を動かした時、斧がソルフィアの肩をかする。服が斬り裂かれ、肩から血が流れる。シルフィは目の前で姉の肩を斬られ目を見開いた。そのまま二人は地面に転がる。守られたシルフィはとっさに起き上がる。



「ソル姉ちゃん!?」


 肩を押さえうずくまるソルフィア。斬られた肩は血が流れ、押さえている手からも滲んでいる。傍らにいるシルフィーは全身の血が引いたような感覚に襲われ、目の前の姉の姿に言葉を失う。


「……平気」


 不安に包まれたシルフィに気がついたソルフィアは一言そう言うと微笑を浮かべる。しかし鋭い痛みにこらえる表情は消えず更に不安に襲われる。こんな時、なんて自分は無力なんだろうと思い知らされる。凶悪な魔物を前に戦うこともできない。武術も力にならない、魔法も使えない。姉の傷を癒すこともできない。一族の苦しんでいる顔を見ているだけなのか、ソルフィアの力になれないのか。


 ゆっくりとソルフィアが立ちあがり始めた。よろけるソルフィアにシルフィは体を押さえる。



「……お姉ちゃん?」

「そろそろ終わらせないとな」


 痛みを堪え笑みを向けるソルフィアは暴れ狂う魔物を見つめる。


「……早く帰ろう。今日はシルフィの誕生日、だろ?」


 そうだ。今日は自分の誕生日。ソルフィアに言われ気がついた彼女はただただ姉を見つめる。


 ソルフィアはシルフィから離れるように数歩前に出る。動くたびに傷の痛みが彼女を走る。目を閉じ大きく深呼吸する。ソルフィアを包むように彼女の周りから風が吹き始める。魔力が上昇し始める。更に更に上がりその度にソルフィアを包む風が強くなる。近づくことさえもできないシルフィは踏ん張りながらもこれから起こるであろう魔法を待っていた。


 限界まで高まった魔力が放たれる。一瞬、真っ白な光が全てを包み視界を奪う。視力が戻ると巨大な魔物の周りに薄青のバリアーが張られている。魔物はそこから動けないようだ。



『フォース・ブリザード』


 バリアーの内のみ、猛烈な吹雪が巻き起こった。光に反射して輝く吹雪が容赦なく魔物を襲い体を凍らせていく。吹雪から逃れようとひたすら暴れまくるがビクともしないバリアーから脱出することは不可能。あっという間に魔物は氷に包まれ動きが止まる。大きな大きな歓声が上がる。魔物を倒したことに喜ぶ一族達。

 

「やったー! ソル姉ちゃん!」


 大興奮のシルフィはソルフィアの元へ駆け寄る。肩で大きく息をし、乱れる呼吸を整えようとするソルフィアに我に返った。ソルフィアの魔力が大きく消耗している。低級魔法、中級魔法を唱え続け、今上級魔法を唱え、さすがのソルフィアも魔力が激しく消耗していた。

 

 突然、地鳴りが鳴り始める。徐々に大地も揺れ始める。一族はどよめきを上げ始めた途端魔物を覆っている分厚い氷がミシミシと音を立て始めた。


「ま、まさか……」


 シルフィとソルフィアの目の前で分厚い氷は音を立てて崩れ始めた。魔物の姿が氷から現れる。再び一族の恐怖の悲鳴が上がる。


(そんなお姉ちゃんの魔法を受けてまだ動けるなんて……)


 茫然とほぼ氷が無くなった魔物を見つめる。苦い顔をするソルフィア。何故ここまで立ち上がるのか。皆、魔物に身構える。が、魔物は背を向け高速で街から離れて行った。一体何が起きたのか。一族、二人が茫然としていたが、一人の男が声を発した。


「ま、魔物を撃退したんだ!」


 その瞬間、再び歓声が起きる。悪夢は去ったと喜ぶ一族。


「ソル姉ちゃん撃退したって! やったね!」

「……そうだな」


 飛び跳ね、体全体で喜びを表すシルフィに姉はうっすら笑みを向ける。しかしその笑みは途端に消え暗い表情へと変わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ