★「ある騎士のふがいない努力」★
どうしようか、これは。
案の定怖がられている俺は、近寄ることすら出来ずに、ただ気まずげに時間が流れていくだけであった。
このまま時間が過ぎるのを待っても良いが、流石にこのまま何もしないのは、騎士として、男としてあまりにも情けない。
盗賊団に突っ込む方が余程楽だと思いながらも、俺はなけなしの勇気を振り絞って、少女へと話かけた。
「――リアミール嬢、といったかな」
「……はい。リアミール・クロアールと言います、騎士様」
「俺は騎士様と呼ばれる程に大層なものではない。アルフルド・リンデッド。アルでいい」
「……はい、アル様」
「うむ。……」
「……。……」
無理だ。
今までのように、向こうが気を使って話しかけてくる場合なら兎も角、今回のように俺から話かけなければいけない場合、否が応でも俺の口下手ぶりが目立ってしまう。
妹よ、すまん。やはり俺には当分こういうのは無理のようだ。
元から期待はするなと言っておいたが、やはり夫人に少しは申し訳なく感じつつも、最早長いをしても無意味だと諦めかけたところで――。
「アル様は、騎士に何故なったのですか?」
ふっと唐突に、少女からそんな問いが発せられた。
少女から話かけられたことに、少し意外を感じたが、問いかけ自体は素朴なものだったので、特に不思議に思うこともなく俺は答えた。
「俺は餓鬼の頃から身体がデカくてな。それでよく妹を守っていたりしていたんだが、その内他の餓鬼どもにも頼られるようになってな。気付いたらそのまま騎士になってた。それ以外、出来ることが無かったとも言えるがな」
動機はシンプルで、そしてまた気付いたらこんな所にいる。そう考えると俺の人生は流されてばかりで、デカいくせにふよふよとしているとも、言えるかもしれない。他の騎士たちのように、正義感にかられてなったのとは違う、偉くもしっかりともしていない騎士だ。
「ここにも配任されたばかりでな。今まではずっと田舎でのんびりと過ごしてた。何でこんな俺が王都の騎士に任命されたのかは、俺が一番分からん。まだ正式に着任した訳でもないし、まだここに馴染んでもいないしな」
と、気付けば面白くもない身の上話を語っていた。
これはまたやらかしたかなと、少女の反応を見ると……驚いたことに、じっとこちらを見ているではないか。よく見ると、綺麗な金色の目をしている少女の瞳が、考えをまるで読み取らせない程に、透き通っている。
「……アル様」
「ん?」
手招き。そして近づくと、片方の手は本のページを抑えているが、もう片方の手は上げられたままだ。
「ちょっと、手、握ってみて」
「んん?手を、か?」
「うん」
「……ほい」
まるで催眠術でもかけられてるみたいだな、と思いながらも、差し出された手を、握ってみた。
小さく、温かい、子供の手である。
「……大きい」
「そりゃ、そうだ」
「強そうだね」
「まぁ、そりゃ多分お前よりはな」
「……リル」
「……ん?」
「リル、ってお姉さまとかには呼ばれてる。だからリルでいい」
「……良いのか?」
「……うん、いい……」
「……そうか、じゃあそう呼ばせて貰うぞ、リル」
こくん、と頷いた後にリルはまた本読みに戻った。
何だか不思議な子だ。
しかし何となくノルマはこなした気がする俺は、リルに別れの挨拶をした後に、部屋の扉を後にする。
別れ際、リルが微かに手を振ったのが、何となく嬉しかった。
活動報告にも書きましたが、パソコンの調子が悪く、投稿ができませんでした。
今話から、また通常通り投稿しようと思います。
お待たせして本当に申し訳ございませんでした(汗)