★「ある騎士の説教」★
「このままじゃ駄目だと思いますの!」
「……何だ、いきなり」
休日に、というか連日家で引きこもって鍛錬ばかりしていた俺の元に、妹が急に訪ねて来たのは、寒さが若干和らぐ昼下がり頃であった。
慌ただしく部屋へと駆けこんで来た妹に、苦笑を覚えながらも、お茶の準備をし、いざ話を聞き出してみた矢先に言われたことが、これだ。
結婚して多少は治るかと思えた妹の直情ぶりは、二人の子をなした今でもまるで治っていなかった。夫である妹の幼馴染が、彼女を甘やかしすぎているのだろう。困るのは彼だろうに、それが彼女の魅力だからと朗らかに笑うばかりだ。何だかんだいって、お似合いの妹夫婦ではあるが。
「お兄様、いつまでこうしている気でいらっしゃいますの?」
何のことだ、と思ったが。引きこもってばかりの兄に、家の体裁が悪くなると思って、注意を促しにでも来たのだろう。直情型ではあるが、基本気回しの効く妹は、何かと俺の面倒をみたがる。迷惑と思ったことはないが、それこそ面倒をかけているなと思う。
「あぁ、すまない。しかしそう心配せんでも、あとせいぜい半月程度の我慢だ。それが過ぎればもう仕事にずっと付ける」
「何を言っていますの?私が言っていますのは、一体いつになったらお兄様のお嫁さんを、私が見られるのかという話です!」
……そっちか。
「あぁ、それもそのうちな」
「そのうちじゃありません!折角王都に来たのに、女性の一人でもひっかけないでどうしますか! お兄
様、こっちに来られたのはチャンスですのよ? かの王太子付騎士団に着任なされたのですから、女性の方々には人気が出る筈なのです! お兄様は……私は平気ですけど、女性にあまり近づき難い顔を成されているのですから、この機会を逃したら永遠に婚期を逃してしまいますわよ?」
色々ずばずば言う奴だ。
そしてこの問題もあった。妹の奴は俺の婚姻関係に関して、俺が田舎に引っ込んでいる間から、口すっぱくして言ってきていた。ここ数年少しは平穏だったのだが、俺がこっちに来たのに際し、また妙な燃料を灯火したようだ。
「それで、ですね」
妹の目に怪しい光が灯った気がして、俺はぞっとした。
「お兄様には少しは女性の扱いに慣れて頂こうと、私の友人に紹介なさることにしました。五日後に面会予定なので、それまで少しはその準備をして置いてください」
「っおい! ちょっと待て!」
「待ちません。ご安心ください。その方はとても穏やかで、お兄様のことでも恐らくは怖がらないお優しい方ですし、婚姻済なので口説く必要もありません。ただ優しく、紳士的に会話なさってエスコートすればよろしいのです。最初はこんなもので、そこから女性の交友関係を徐々に広げて頂きましょう。くれぐれも、粗相だけはないようにして下さいね?お兄様」
……こうなった妹の説得が、非常に難しいことを俺は知っていた。
とりあえず3話放出。
あとは明日からまた上げようと思います。