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坊ちゃん。心の声、モロバレです…!

作者: 宝石商人
掲載日:2026/10/14

こちらのサイトではかなり久しぶりになりますが、よろしくお願いいたします。

 東から昇る陽の光が外壁を通過し、町を照らす今朝この頃。

 俺は重たい瞼を開き、横窓から差す眩しさに息を呑む。

 三回ノックしてから何も言わず部屋に入って来た執事が、こちらの体に掛けてある方のベッドシーツを剥がし、真二つに折り畳む。

 俺が上体を起こしながら片側の肩を回すと、彼…いや、彼女は平たく口を開く。

「おはようございます。坊ちゃん」

「おう」

 この短い言葉のやり取りと共に俺、マシュ・ウォン・タミヤの朝は始まるのだ。


 バーニヤ州イルキューリア王国。

 西に行けばロコモネ州の商都。東に行けば帝都という少々位の張った位置に陣取っている国の首都。

 その中央区画の一端に、俺の家はある。

 フォリーが二つ設置されているお庭と家の中を守る青煉瓦の壁を除いたらそこらの屋敷となんら大差はない。

 噴水? 置いたら水道代が馬鹿にならないではないか。

 人として住まわせてもらっている以上、要らぬ無駄を省くのも貴族のたしなみ。お父様の言葉だ。

 部屋を出る前に、貴族の象徴たる正装に着替えるようにと教育したのもあの方。

 寝起きの見てくれがだらしないと、貴族の“貴”の部分がめっきり折れてしまうとは、よく言われたものだ。

 着替えについては、齢十二を過ぎた頃から二年前までは他の執事に手伝ってもらっていたけれど、今はその役割を持つ者を固定している。

 ――イングリット・ヴァン・コーゲ。

 長く伸びた金色の髪を大きめに束ねた頭と中性的な顔立ちもさる事ながら、体が堂々と引き締まっている外見は、一度目に入れば誰もが男と間違える面影を持つ(事実、俺も先程間違えそうになった)。

 親から代々この家に仕えているわけではなく、庶民の出自ではあるのだが、つい一年程厳しい試験を突破してこの家に採用されたので、こちらとしてもかなりの信頼は貰っている。

 イングリットがベッドシーツのしわを伸ばし終えた時、俺はドレッサーの鏡と向かい合って装備を整える。

「…よしっ、こんなものか?」

 イングリットが振り向き様に声をかける。

「お坊ちゃん。クラバットが右にそれていますよ」

「なんだ、それぐらい…」

「なんだ、ではありません。ちょっとジッとしててください」

 そう言ってイングリットは俺の背後から顎の下へと移る。

 まるで下流へと流れる小川のようになめらかで、無駄のない動き。そして、俺のクラバットに手を掛ける時の挙動に一切抵抗がない。

 出会った頃は何故か、この服に触れる事さえ触る事さえ時間が掛かったのに、この変わりよう。

 俺は、ドレッサーの方を注視する自分の顔を見ながらそっと尋ねる。

「ところでイングリット。今日の予定はなんだったかな?」

「は。今日は朝食を終えた後に馬術の教示があり、昼食前に座学。そして、昼食を終えてからはルーシア様との会談がございます」

 淡々と予定を申し上げる彼女に、俺はドレッサーに映る自分の顔を見ながら「そうか」と答える。

 イングリットの後ろ頭のせいでそれは目元から鼻の下部分しか見えていない。

 それでも俺は、イングリットの許可が下りるまでじっとそれを見続けた。

「終わりましたよ。坊ちゃん」

「あぁ、ありがとう」

 俺はイングリットに一言答えた後、視線が合いそうになって咄嗟にそれを逸らす。

 今の、不自然ではなかっただろうか?

 いや、顔までは動いていないから悟られていない筈。

 そして気になるのは、イングリットが俺の部屋に入る事に何かしら躊躇があるのかについてだ。

 貴族社会の中に置いて、使用人にお手つきする野蛮人共の話は聞く手数多にある。

 俺がもしそいつらと同じ猿ならば、イングリットはもう目を合わせてくれなくてもよかった。

 だが理解してほしいのは、俺にその気があるわけではないという事。

 俺は主として、彼女にそれなりの人権を与えてやる権利…それと義務がある。

 例え男の格好をしているとしても、イングリットが女体である事に変わりない。

 そしてこの俺、マシュには野望がある。

 今は「坊ちゃん」呼びであっても、何時か「旦那様」に昇進してやるという野望が。

 イングリットは俺が路傍で拾い、貨幣一枚で雇った。

 そして、イングリットはその貨幣一枚分の貸しを返す為に懸命に働いている。

 だから俺からすると、その貨幣を返してもらうまでは彼女は自分の手の内にあると言っても過言ではない。

 しかし、これについては思う所はある。

 イングリットは、俺に飼われた以上、どんな命令も忠実に従ってくれる。

 この前、まかないで用意したブロッコリーは残すなよと言った時は、微妙に顔をひしゃげていたが、それ以来彼女が俺の命令を拒んだ事は見受けられない。

 まぁ一緒にお風呂に入るとか、厠に連れて行くような真似はしなかった。いや、その気があるにしても口に出すわけがなかろう。

 何分、イングリットにはどんな時でさえも失望してほしくないからな。

「では、坊ちゃん。参りましょう」

「あぁ、行こう」

 俺はイングリットの開けた戸をくぐり、静かに寝室を出る。

 赤い絨毯の敷かれた長い廊下——俺には、それがチャペルのバージン・ロードに見えた。

 何時の日かイングリットもこの屋敷を出て、女の幸せを手に入れる日が来るだろう。

 その時、この道を共に歩くのは俺である事を願うばかりだ。


 …躊躇いがあるかどうかくらい。直接聞けばいいのに。

 そう思い、主人の見えない所で下唇をツン…と顎で押し上げる。

 私の名前はイングリット・ヴァン・コーゲ。

 このタミヤ侯爵家に仕える一介の執事だ。

 平民の生まれというハンデを背負っているが、今や本家直系の跡継ぎであるマシュ・ウォン・タミヤの専属を務めている。

 女の“性”を持つ以上、私はメイドエプロンを着用するべきかもしれないが、この家はその辺りは柔軟だったので大いに助かっている。

 だから、この先私が燕尾服を着ている事については触れないでいただきたい。

 まぁ、うちの後続にいる人は気にも留めていないだろう。

 何せ、専属の執事とろくに目を合わせられないどころか、身だしなみの手入れを怠るような方だもの。

 先程のクラバットの時といい、シーツのしわ部分といい、わざとやっているのではないかと疑ってしまう。

 私といる時間を増やす為、直接目を見られなくとも私の存在を近くで確かめる為に

「イングリット。どうした?」

「いえ、何もありません」

「そうか? …なんだか、邪見を向けられていると思ったのだけど」

 私は「気のせいですよ」と返し、上げた肩をストンと落とした。

 マシュ…坊ちゃんは、他人への気配りが出来る上に何故かしら勘が鋭い。

 私が彼の専属を務めるよりも前、散髪に行ったついでに前髪を5センチ切り落とした事さえ、判別出来てしまえる程。

 自分への視線に敏感という点もあげられるけれど、きっと本人にその自覚はない。

 何分、私の“秘密”には一切触れる事なく、二年も時を過ごしてきたのだもの。


 ※


 パカッ、パカッ、パカッ…!

 大地を踏みしめ、蹴り上げる蹄の音がする。

 往生としたいななきと共に、それは空気の壁を切り裂いていく。

 見上げてみると、黒いジャケットをまとった燈色の眼の男が鞍に跨り、手綱を握り締めている。

 雄々しく伸びた黒髪は風と気流に乗り、秋雲のような形で浮かび上がっているのが分かる。

 片眼鏡をつけた茶髪の優男が亜麻色の馬に跨り、後ろから丁寧に追いかける。

「いいですよ、若様。視線は前を向き、姿勢は直立ではなく二十五度前に押し出す形で」

「あぁ」

「一々腰を揺らすのではなく、体重を支える立(りつ)を安定させるべく振動に身を預けるように、激流を受け流すどころか一体化する形で…ねぇ、お上手」

「…あぁ、うん」

 黒いジャケットの男——マシュ・ウォン・タミヤは、優男の言葉に口先と背中でそう答える。

 私、イングリットはその様子を円形の柵の向こうから伺い、ため息を一つ。

 外面(そとづら)だけは本当に立派なんだよね。あの侯爵令息。

 ベッドから起きてから朝食につく前まで、あんなに騒がしかったのに。

 馬を乗りこなすどころか、剣術もしかり、学問の位も他とは引けを取らない程の差を見せるこの男。

 侯爵の生まれという意味もさることながら、人としての隙は無いと言っていい筈。

 おかげで横目を向けば、私よりも歳上の女性…坊ちゃんと同じタイプのジャケットを着た二人が身を寄せ合いながらうっとりしている始末。

「…あの、どうかなさいまして?」

 私が声をかけると、女二人はハッと、顔を向けながら慌てて言い訳を通す。

「え…え、あ。いえ、本日も若様のお姿は様になっているな…と」

「えぇ、そうです。流石はスヴェン様のご子息。家柄を楯にふんぞり返っているそこらの貴族とは話になりませんわね…!」

 ただ一言だけ声を掛けただけなのに、要らぬ情報まで漏らす二人。

 この時点でも、他の意見が混ざっている事は明らかだった。

 私は自分の左手を手前に居る女性の方へ伸ばす。

「失礼。肘に虫が…」

 突き出した人差し指だけをすぅ…と相手の肘の方に伸ばし、優しくほじってやる。

 そうする事で、自分の頭の方に“情報”がきめ細かく流れてくる。

『――マシュ・タミヤ様。今日も美しいです。貴族の男性というだけでも申し分ないのに、何がそうさせるのかと思わせる程のあの美しさ。あぁ、一度でいいからあやかりたい…私にも縁がないものか!』

 女の肘元をほじり終わった後、私はその手をぶるんぶるんと音を立てるように振り払い、情のない面一つ変える事なく鼻息を薄く飛ばす。

 手前の女の、肩にその息は振りかかったが、当人はそんな事をお構いなしに坊ちゃんの方に目を向けている。

 自分にも縁がないものかだって?

 かの人をどなたと心得ているのかこの女流騎手。

 恐れ多くも侯爵位の家系に生まれ育った嫡男にして、自らもバロンの称号を携わっている。

 そんな彼が、一介の平民である貴方に与える隙などある筈などない。

 そう思いながらも、私は二人の騎手の傍から離れ、左側の手袋の締め具合を直しながらさっきと同じ場所に戻る。

 移動する際に横目を向いた途端、坊ちゃんと少しだけ目が合ったが、彼はすぐに視線を逸らして柵の内をあっという間に半周してみせる。

 その後ろで優男は何も気にも留める事なく笑顔で追いかける。本当に人が良いようだな、あの男性教師。

 その人の良さの為に、坊ちゃんの肝心な部分を見透かせていないのが何よりの救いだ…。


 そこから約十分後。

 授業を終えた坊ちゃんは開閉口から柵の外に出る。

 教師もそれに連なり表に出て、そっと息を漏らす。

「お疲れ様です。若様、本日は見事なものでしたよ」

「それ、最近ずっと言っていないか?」

「いえ…私は本当のことを言っているだけです」

 ははは…。

 教師の乾いた笑い声を後目に、坊ちゃんはメットを外し、手前に控えていた役員に手渡す。

 そこから首を回して音を鳴らしてから、悠々と私の方にやって来る。

「イングリット。待たせてすまない」

「いえ、私からすると待つも何もありませんよ」

「そんな能書きは要らない。従者であれ、ほったらかしにして済まん…という俺の気持ちを素直に受け取りなさいという話だ」

 そう言って坊ちゃんは、私の髪を数回撫でてくる。

 いや、撫でると言うよりは髪の天辺についた埃を掃うようなそんな仕草に見えた。

『イングリット…。今日も髪がサラサラで麗しい。出会った時は不細工な短髪にしていたけれど、長いとここまで美しいのだな。…あぁ。いっそこのまま抱きしめて、「こいつは俺のもの」と無言でアピールしたい』

 さっきの騎手と大差ない内情に、私は目を細めて苦悶というものを表情に浮かべてみる。

 ほんの少しだけ触れただけでもこの羅列とこの威力。

 いったい、この方はどれだけ私に情を入れれば気が済むのだろうか。

 そんな私個人の気持ちなど分かる筈もなく、坊ちゃんは毅然とした態度を崩さずに後ろを振り向く。

「では、シグル。また三日後に会おう」

「は」

 教師の会釈を見た後、坊ちゃんhあ足音だけを残してこの場を離れる。

 私はその背中を目で追ってやるが、本人はこちらを振り向く事なく更衣室の方へと消えて行く。

 きっと心の底では「今日の俺、かなりキマってたな。イングリットへの対応も不自然ではなかっただろう」と、思っているのだろう。

 初めて会った時はあまり読み通せなかったが、二年も同じ屋根の下に住めば嫌でもパターンは見抜けるというもの。

 そんな私の横に、先程シグルと呼ばれた男が立つ。

「そう言えば若様って、ガタイがいい上にサラシを巻いているんですよね。先程も彼が何時もの正装からジャケットに着替える時に拝見しましたが、隙間がない程に厳重にしていましたよ」

「単に物理的な保身の為にやっているのかと」

「だからって、細布をあんな二重に巻きます…?」

 この人の言っている事も一応頷ける。

 でも、それに深く共感してやる事は出来ない。

 何せ、私も細布を三重に巻いているのだから。

 つまるところあの方は、私と同じ部分を少しでも体につけたいからやっているだけで、他に深い意味はない。

 ここまで来ると、坊ちゃんの尊厳と威風を変えてしまった影響に自分が立っているのではないかという印象を感じてしまう。

 それでも、それでもあの人の中には変わっていない所もあると信じたい。

 かつて私を拾ってくれた時の、過激な傍若無人さのようなものが…。


 ※


 私の実家は、王国の西南地区の街路沿いにあった。

 実家と言ってもとある宿屋の上階の部屋を間借りし、母と一緒に細々と住んでいた。

 父の顔は知らない。

 どうやら私を産む前に何かしらトラブルがあったらしく、あちらから逃げてそれっきりらしい。

 母が宿に泊まる男の相手をしている間、私は宿の主人と女将夫婦の手伝いをするというもの。

 皿を洗ったり、配膳をしたり厨房に立たされる事が屡々で、ろくに母と顔を合わせて話し合う事は無かった。

 齢八つを越えた頃から階段を下りてくる男の顔が昇る時と比べて毒気が抜けているのを見て、母の「客の相手する」という事がどのようなものかを理解するようになった。

 今にしても思えば、それだけで済めばどれだけ幸せだっただろう。


 十一歳の誕生日が過ぎた頃。

 私は、人手不足を理由に厨房から食事運びを担う日があった。

 いきなり厨房の外に出て、いきなり知らない顔の人間を相手にするなんてどうかしている。

 そう思いながらも胸の苦しさを押し殺してトレーの上に皿を載せた手であちらそちらと回っていくだけの仕事をこなしていった。

 そして昼下がりのピーク時、ある端の席のカップルの喧嘩を仲裁しようとして前に出た時、それは起きた。

 表向きに言えは、女の方が相手方の男の浮気疑惑を追及した事で発生したよくある事例であった。

 しかし私がその男の胸元を押し退け、それから女の話を聞こうとした矢先、自分の頭によぎるものが。

『僕は不倫なんかしていない。あの日は姪の面倒を見ていて、偶々それを誰かに見られていただけ…』

 最初は幻聴かと思った。

 慣れない仕事で疲弊していき、その中で男に少しでも同情した事でこの身に起きたもの…そう思った。

 けれど、目の前の女の激昂ぶりに苛まれていく内、聞かずはいられなかった。

 すると男はハッと見張る程に目を丸くし、「どうしてわかったの?」と聞き返す。

 周りの空気が冷める中、男は女が落ち着いてきた事を頃合いと見て事実を打ち明ける。

 女は懸命に弁論する恋人に心許したのか、そこから一分程で落ち着きを取り戻していった。


 それからというもの、私は宿屋の表の職場を切り盛りしながらもこの能力で人の心にあてがう道を選んだ。

 宿屋で喧嘩が起きれば真っ先に駆けつけ、厨房の方が揉め出したら間に入る。

 どうしても些細な程度で収まらないのなら、相手の心を読み、解決の穴を見つけるのも厭わなかった。

 能力の事を疑われたら、「顔を見れば分かる」とかわすことなんてザラ。

 そんな生活をしていく内、また時間だけが去っていく。

 気づけば私は、自分を産んだ頃の母と相違ない歳まで上がっていた。


 ——母が死んだ。

 理由は誰も話してくれなかったが、客に取った男に何か悪いものを移されたのは誰かに聞かずとも、触れずとも明白だった。

 母という支柱がなくなった事で、私は物心つく前から住んでいた宿からノミのように弾かれ、路傍で夜を明かす生活に切り替わった。

 手切れ金代わりに受け取ったなけなしの金も、一カ月もすればすぐに空になり、職場をあたろうにも身元保証人となる相手がいないとまかないのついた仕事もろくに貰えやしない。

 能力を使って強引にでも付け入ろうとも考えたが、カウンターを恐れて一歩踏みとどまるしかなかった。

 …私は、独りになった。

 同じ背丈の女が集まる半グレに属し、強盗や暴漢狩りを行う事もあった。

 盗った金をあてにして飯にありつく事も少なくはなかった。

 しかし、それでも中身は独りだった。

 立場上では組織の上位に入っていたものの、誰も私を心から慕う奴はいなかった。

 表向きはなんぼでも言うけど、私の力の前には反吐に近しいもの。

 頃合いを見て手を切る他なかった。


 移っては手を切り、移っては手を切る行動を繰り返す内、私は心身共に『孤独』を表すようになった。

 もう誰も相手してくれない。誰も自分に情をうつしてはもらえない。

 助けを呼んだってきっと誰も来やしない。

 そんな情が当たり前に溶け込んでくる所まできてしまったある日。

 私の目に、ある男の背中が映った。

 黒いジレに身を包み、長い髪をわらわみたいに扇状に伸ばしたその男。

 理由は定かではないが、私はその男の背中にはっきりと興味が沸いた。

 最初はどこかの令息気取りの坊ちゃんが護衛もつけずに歩いているものかと思ったが、背中にくくりつけられた短剣を見て、爵位を持った手練れだと気づいた。

 風貌を見るに年の頃は自分と相違ない。

 それでもこの王国としてそれなりの位を持ち、悠々と歩いているその様は目障りだった。

 だから遂に魔が差した。

 男が露店のアイス屋の手前で止まり、財布を取り出したところを見計らい、短剣もろもろそれを奪ってやった。

 元々、物覚えがいい方なので窃盗に手を染めてからその技をものにするのなんて朝飯前。

 男がどんなに手練れだったとしても逃げられる余裕はあった。

 …やけに余裕があった。そしてそれが仇となるまでそう時間が掛からなかった。

 露店のある位置から二、三メートル離れたところ。走り疲れて荒げた息を整える為に路地裏に回る。

 あの男が追って来ているかの確認の為に振り向いた後、私の後頭部に硬いものがぶち当たる。

 その衝撃自体は大した事無かったが、気がつけば自分は有無も言わさず地面に突っ伏してしまい、動けなくなる始末。

「おやおや、坊ちゃん。こんなところでどうしたの?」

 声がしたので後ろを振り返ると、カチャリ…、という音と共ににやけた髭面が見えた。

 青い帽子を被り、薄手のチョッキを着こなしたその男。

 王立の警官隊に相違なかった。

 私が顎を上げようとすると、そいつとは違う足に押さえつけられる。

 その間、私を押さえつけている側の人間が、私の手元から財布を取り上げる。

「見ろよ、こいつ盗人だぜ。休憩がてらにこりゃたまげたな」

「あぁ。しかもそっちは短剣か? 見た所、国王から授与される品のように見えるが」

「…という事はだ。こいつ、貴族に喧嘩を売った馬鹿に等しいわけだな」

 髭面の警官は相方とお揃いでゲラゲラと笑う。

 そのあくどい動きに嫌悪感はしなかったが、革靴の裏を嗅がされている状況は悪いに等しかった。

 それから髭面が私の肩から脇…尻の方へとくまなく手をつけると、何かに気づいたように声をあげる。

「んん?」

「あ…どうした?」

「いやね。こいつ坊ちゃんにしてはやけに尻が丸いなぁ…と」

 その言葉を聞いた時、私の目が大きく開いた。

 見てくれでは性別が分からぬよう、本来の体格よりワンランク上のジャケットとボトムスを着ていたので、グループに露呈する事は殆どなかった。

 胸元には古びた薄い布を巻いていたので、それに触れればいずれ分かると思ったが、よりにもよってこんな野郎に悟られるなんて…。

「おい。お前もしかして女か?」

「そんな事…あんたに関係ある?」

「お。顔に似合わず、綺麗な声。こりゃ『当たり』だな」

 髭面の顔は見えなかったが、自然と相方の足が私の顔から遠のいていく。

 それからすぐに髭面の方が私の顔を踏みつけていた方に指示をやる。

「おい。これからこいつの触診をするから、お前は街路の方を見張っていろ」

「いいのか? こんな昼前だってのに堂々と…」

「お前が前に立っていれば、誰にだって割り込められねぇ。いいから、さっさとそこに突っ立ってろや」

 相方に言われた垂れ目の景観は不服の顔を浮かべると、嘆息を吐きながら路上の方に移る。

 それから髭面は私の短い髪を引っ張りながらその顔を壁際に押し付けると、こっちの頭を掴んでいる方とは反対の手を自分の腰に当てる。

「暴れるなよ? 大人しくしていればすぐに終わる」

「あんた…何をする気!?」

「俺と言うお巡りさんがお前に教えてやるのよ。お前みたいなやつには勿体ねぇ、貴重な経験ってやつを」

 髭面はそう言って金属音を鳴らしてから布が擦れる音を漏らす。

 振り返らずとも、そいつが何をしてるのかは素直に把握出来た。

 先程も言った通り、私は物覚えが良い。

 自分を産んだ母の“仕事”だって幼いながらに把握出来た。その人の子に生まれた以上、やがては同じ穴に入る事は分かっていた。

 少し予想外だったのは、その時が来るのは予想よりも早まった事だ。

「活きは良いようだが、こっちの方はどうかな?」

「一々喋っていないで、さっさと進めたらどう?」

「おぉ? 焦らされるのは嫌いってわけか?」

 髭面の右手が私の後頭部から離れ、今度は私の腰の留め具にそれが触れる。

 隙だらけだが、腰に収めている得物を前にしては女一人にはどうする事もままならない。

 …いいんだ。私には、どの道選択肢なんてない。

 髭面の手によってベルトが解かれる時、私はこれも魔が差して自分に罪を被せた制裁だろう。と位置づけ、考えるのを止めた。

 その時、何処かしらから声がかかる。

「あのぅ、ちょっといいですか?」

「あ?」

 私と髭面は同じ方面を向いた。

 見るとそこには一人の青年が不思議そうな顔立ちを浮かべてこちらを見ている。

 着ている服の色と形からして、さっきの露店に居た男に違いない。

「さっき、俺…いや、私。財布をすられまして…ここら辺を通ったと思うのですが、知りませんか?」

 慌てて垂れ目の警官が割って入る。

「お、お兄さん。今、俺ら仕事中でございましてね。警官なら他を当たってくれませんか?」

「そういう訳にも行きませんよ。早くしないと完全に逃げられて…しま、う?」

 小首を傾げた男の顔が私と向き合う。

 こっちは片目だけ壁に打ちつけられていたので全体像は見えなかったが、その顔つきはあからさまに呆けていたのは明らかだった。

 そこからどれくらい時間が経っただろう?

 ――ブッ!

 太い縄が切れた音が鳴った…そんな気がした。

「何を晒しとるんじゃ。この、税金の無駄共がぁぁぁっ!!」

 その男は手で空気を握りしめると、一番前にいた垂れ目の警官に繰り出す。

 道路側の警官は有無も言えぬままそれをくらい、こちらの方へ吹き飛と、暗がりにある樽に頭から突っ込んでしまった。

「あ、あぁ…えっ!?」

 私はあまりの変化に言葉がつっかえてしまう。

 正確には、今にお楽しみに入ろうとしていた髭面もそれは一緒だった。

 男は鼻息を噴射すると、ズカズカと音を立てるように歩を進めながらこちらを見る。

 私の傍に居た髭面は、体の芯が異変に追いついたと思うと、切羽詰まった顔つきで腰のベルトを締め直す。

 しかし、男はそのベルトが完璧に絞まるまで待てなかったらしい。

「おい…」

 男は髭面の着ているチョッキの隙間から見える肌着を掴み上げると、そのまま、反対の手で大きく空気を掴む。

 持ち上げられた髭面の体が死角となり、男の顔は見えなかった。

 しかし当人の慌てようからして相当頭に来ているのは間違いない。

「ま、待ってください! 俺は、俺はただ、泥棒をひっ捕らえてケジメをつけようとしていただけで」

「泥棒にケジメをつけるのと、腰のベルトを緩んでいる事とどんな繋がりがあるの?」

「それは、こちらなりの――ぎゃふっ!?」

 警官の顔面に拳が飛ぶ。

 その動きは一度だけではない。

 打ち込まれる回数は二発、三発と続き、打つ速度はやがて燃料が入った機関車のように上がっていった。


 ガッ! ボガッ! ガスッ!


 一分後、男は気が済んだのか、髭面の胸元を解放する。

 さっきまで顔にぶつけていた手の甲を見せると、また強く鼻息を噴射して冷ややかに告げる。

「お前らは道で転んで鼻を打った。それで血が出た…そうだよね?」

「は、はいぃぃぃっ! 申し訳ありませんでした!!」

 その警官は、鼻から血をだらだらと流しながら相方を一人残して姿を消す。

 男はその背中を視線で追いかけた後、血濡れた手を拭う事無く立ち去ろうとする。

 気づけば、私はその男に声をあげていた。

「ま、待って…!」

 男の足が止まったのを見て、しきりに体を起こす。

 初めて重力を感じた四つ足動物の赤子ように体が重かったけど、そんな事を気にしている余裕はない。

 目の前に落ちている鞘に収まった短剣を手に取ったところでようやく足の裏が地に着いた。

「これ、あんたのだろ? …返すよ」

「いいのか? その体を見るにろくに飯も食っていないんじゃ…」

「金なら兎も角、剣はねぇと困るだろ! こっちが返すって言ってんだ。さっさと受け取りな!」

 私は三つ足の姿勢で、息苦しいのを我慢して手にしていた剣を掲げる。

 男は数瞬の間だけあらぬ方を見た後、先程とは打って変わるように、足音を消すようにこちらに動く。

 私から短剣を取り上げ、それと同じ手で私の肘元を引っ張り上げた後、私はやっとの思いで荒げていた息を整えていく。

 それから男は短剣の鍔の方をジッ…と見つめて黙り込み、そのまま足元に転がっている金の詰まっている小袋も拾い上げる。

 その紐を緩めて中を確認した後、何かに気づいたように大きく両目を開く。

「…あれ? かっしーな?」

「なんだよ?」

「貨幣が一枚足りない」

「! …外に出さなくても分かるのか?」

 私がそう聞くと、男はこちらを見下ろしながら返す。

「生憎、出掛ける前に持ち物を確認するたちでね…。おたく、返すと言っておきながらまだどこかに隠しているんじゃないの?」

 男に言われた後、私は慌てて首を横に振る。

 すると男ははぁ、と一息ついてから陽光の通っている方に顔を向ける。

「もしかしてさっき逃げた方にしてやられたのかねぇ? ま、これくらい誤差だからどうでもいいのだけど…」

「まだ私が隠していると思わないのか?」

「なんで? そっちがかぶりを振ったのだから、まずはそれを信じないと…あ」

 男は、目を丸めたままの顔つきをこちらに向ける。

「ところで君、名前は?」

「…イングリット」

 私がそう答えると、男は数秒経ってから口角を限界まで上げて白い前歯を見せつける。

「イングリット…イングリット。ね」

「なんだよ? これは嘘じゃねぇぞ」

「いや、偽名かなんてこの際どうでもいい…そして俺は、今、心に決めた事がある」

 心に決めた事…?

 私がそう問い質すと、男は目の形が上半月模様になるまで押し上げる。

「イングリット…君(きみ)、今日からうちの子になりなさい」

「は?」

 男の発現を前に、私は即座に小首を傾げる。

 それがこの男――マシュ・ウォン・タミヤ――とのファーストセッションだった。


 ※


 あれから私はマシュに手を引かれるまま侯爵邸へと赴き、当主のスヴェンと顔合わせに入る。

 初め、握手もされないまま五分ほど面接を受けたが、そこからマシュが「回りくどいですよ」と言い放って介入。

 そこから自分が席を外す事になり、そこからメイド達によって洗体を受ける事五分。

 侯爵親子の審議の結果、私は家令の英才教育を二年受ける代わりに、この家に籍を置く事になる。

 私としては風呂場に行っている内に、話がトントン拍子に事が進んだ事に驚きが隠せなかったが、スヴェン侯爵が頭を抱えて嘆息をついていたのを見て、大体の事は察した。

 この家の家令のガープルの指導は、以前住んでいた我が家よりも甘えが許されず、一切の穴も見えない程にあれやこれやと縫いつけられた。

 それは齢二十も過ぎれば当然…などという規模を超えていただろう。

 しかし貴族でなければまともに苗字を賜れないこの世の中でコーゲなんていう大層な物を頂いた他、寒空の下でよそ様と一緒に練る必要のない空間に身を置けるなんて何時ぶりか分からない。それが何時までも続く保証がない。

 永いこと孤独を経験した過去が、それにしがみつく理由に当てはまってしまえる。

 ふと気づいた頃。私は、親も身元保証人も居ない“沼”に浸かった貧民から、マシュ…坊ちゃんの執事へと上り詰める事になる。

 坊ちゃんの専属となった経緯はよく覚えていない。

 二年という短期に自分を追い込んだ後、上からのお達しがあった所までは把握しているし、それに付き従った自分も覚えている。

 しかし、専属としてあの寝室に参った時に見せた坊ちゃんの顔は、何故か記憶に遺らなかった。

 覚えたくても覚えられなかったわけではない。

 それでも、脳の何処かに引っ掛かっているものは未だに取れないでいる。

 それから半年。私は今もこうしてタミヤ侯爵のお庭に籍を置き、坊ちゃんの譲れない煩悩に頭を悩ませている。


 馬舎から侯爵邸に戻って暫く。

 食事を終え、歯磨きを済ませた坊ちゃんは、瞼をパチパチと瞬かせる。

 紅い絨毯の敷かれた廊下を歩く中、私の前を歩いたままこう呟く。

「えぇ…と、この後は誰と会うんだったか?」

 私は何の脈絡もないまま平然と答える。

「ルーシア王女との会談ですよ。お忘れになられましたか」

「…忘れるわけがないだろう。ちょっと確認を取っただけだ」

 坊ちゃんは、そこからしばらく口を開く事はなかった。

 ため息一つ漏らさずに平静を装っているが、妙に歩の感覚が大きくなった気がする。

 足音は荒くないが、まるで、何かから逃げ出したいと訴えかけているかのように見えた。

 その理由は明白。

 坊ちゃんは、ルーシア姫の事をよく思っていない。かくいう彼女とは婚約という契りを交わしている以上、それが表に出せない事を嘆いているからだ。

 先に述べた通り、言葉や振る舞いではなんぼでも言えても、私の前には差ほど脅威にはならない。

 私がこの屋敷に居た頃。一度だけ今日と同じ会合が敷かれ、それが終わった後、坊ちゃんの脳内は酷く臭っていた。

 顔の表面は何も変わらず凛々しい事この上ない。

 しかし残念な事に、私の能力を前にするとその仮面もないに等しい。

 今だって、こうして毅然と前を歩いていても、心苦しい思いを乗せているのは分かる。

 絶対に『嫌だ。今すぐに逃げ出したい…』だとか、『どうせならイングリットと…あぁでも、執事を逃げ道に使う俺ってなんなの?』とか考えては勝手に苦しんでいる事だろう。

 目の前が曲がり角に差し掛かった時、坊ちゃんは振り向き様にこう言いつける。

「イングリット。私は先に客室に居る。姫が来たらすぐに教えろ」

 私は呼吸を合わせるようにすぐに頭を下げる。

「かしこまりました」

 私の一言を聞いた後、坊ちゃんは何も言わずに角を曲がってその奥へと消える。

 顔色一つ変えなかったところは立派だったが、きっと侯爵家の生まれとして…そして背の下に添えたバロンの証を持つ者としての矜持があったからだろう。

 どういう時であれ、あの人の表情は変わらないのだな。

 いっそ、私の秘密を暴露して、あの人がどのような反応を示すのか試す?

 そんな黒いものが浮かび上がった時、背後から忍び寄る影――

「あら、これは誰かと思えば…貴方だったの?」

「んっ?」

 私が後ろを振り向くと、そこには袖の長い薄水色のジャケットと膝下まで垂らしたスカートに身を包んだ女性がいる。

 銀色の髪をロール状に巻いたその人の顔は、えらく上品を象った笑みが浮かび上がっている。

「お久しぶりね。イングリット。三ヶ月ぶりかしら?」

 二ヶ月と二十日です。

 そんな言葉が出かかった口を閉じながら、私はその人に体を向けて頭を下げる。

「お久しぶりです。ルーシア殿下」

「あらあら、そんなかしこまった態度はよしなさい。前みたいに『ルーシー』とお呼び」

「何時言ったのですか、私が。差し出がましいですが、それだけで簡単に私の首が跳ぶ事を分かっていますよね?」

 私がルーシアと呼んだその人は、一つムスッとした顔つきを浮かべるが、すぐに持ち直して腰元に手を当てる。

 ルーシア・フォン・イルキューリア殿下。

 この王国を統べる国王の実の娘であり、次期女王の第二候補の座につくその人を目の前に、私はどう受け応えしていいものか悩んでしまう。

 今の今まで選択肢などない生活を送っていたものだから、そんな時間など与えられる筈がないと思っていた。

 しかし、今にして悠々と直立している殿下を前にすると、どうしてもそれが見えてしまう。

 その理由を考える暇もなく、殿下は静かに言う。

「ところで、私(わたくし)のフィアンセは何処?」

「客室で先に待つ…との事」

「あら、そうなの。以前はよくお庭にいらっしゃったのに。今日は随分と勝手が違うのね?」

「よろしければお呼びしましょうか?」

「いえ、その必要はありません」

 殿下は、背後に控えていたメイド二人に席を外すように指示。

 その後、何も言わず悠々とこちらの方へ歩み寄る。

 目と鼻の先まで迫って来た彼女から放たれる次の言葉は、心を読まずとも理解出来た。

「イングリット・ヴァン・コーゲ。私の専属となってくださいませんこと?」

「…お返事は前回も仰った筈ですが?」

「はて、なんの事かしら?」

 殿下はこちらの顎の下からその目元を覗き見るように顔を下げる。

 私は即座に睨みをきかせた不満を表してみたが、殿下はかえってそれを面白がるようにくすり…と、微笑んでみせた。

「相変わらずガードが堅いようで。まぁ、それくらいに張りが無いと手に入れる程の価値が無いというものかしら?」

「人を物のあれこれみたいに言うのは止めてください」

「今日は随分と小言が多いのね。あなた、自分の立場を弁えているの?」

 殿下は上体の姿勢を縦に戻した後、手袋で覆われた自分の手を自分の頬に当ててみせる。

「貴方も分かっていますよね? 私とマシュ様の婚約がいかに重大かつ神秘的な意味を兼ねているのかを」

「重大かつ神秘…」

 殿下は「えぇ」と韻を踏みながら話を続ける。

「この縁談はそれぞれの未来を考慮しての縁談なのです。我がイルキューリア側にしてみれば侯爵との繋がりを持てる他、そちら側からすればロイヤルとの太いパイプを築く事が容易に出来るわけ」

「お互いにメリットがある以上、切る事は出来ないわけですか」

「その通り!」

 殿下は頬から手を離すなり、傾げていた顔の向きを縦に向き直す。

 そこから不吉を誘う笑みが見えたのは気のせいではない筈。

「しかしまあ、この婚約は国民の方にはまだ向けられていないわけで。もしもの事があれば困るのは双方だけとなります。もしもここで、私が機嫌を損ね、そちらのスヴェン侯爵の顔に泥を塗る事になると…どうなるかお分かりですよね?」

「私はその責任を取らざるを得ないというわけですか?」

「またまた、その通り!」

 殿下は朱色に染まった唇をねじ開き、白い歯をむき出しにしてこびへつらうような表情を浮かべる。

「…それで。今にある状況と起こりうる未来が理解出来たところで、考え直してもらえたかしら? ま、ざっくり申し上げると、私はマシュ様と結婚する事で貴方を自動的に捕獲でき、貴方は私の要求を呑む事でこの家の未来を保証される他、悠々と執事を続けられるわけ」

 腰元に添えられた小刀のホルスターに左手を置き、そちら側の目を大きく開く。

「あの方に嫌われたくはないし、離れるのも嫌ですわよね?」

「それは…」

「早く決めてくれませんこと? 私。これ以上、マシュ様を待たせるわけにはいきませんので」

 殿下の口元から笑いが消える。

 それと同時に、内外の空気が凍りつき、窓に白いものが生えていくのが見える。

 カッ! ゴロゴロゴロ…。

 稲光が空気を裂き、裂かれた空気はまた外傷を受けた皮膚細胞のようにひっついていく。

 殿下は表情を変えないまま、こちらをじっと見据えている。

 多分、こちらが頭を動かすまでそうしてるつもりなのだろう。

 私が頷きさえすれば、この人は笑顔で坊ちゃんに会いに行く。

 そして流れる形で表面上の夫婦となり、間接的に私を手中に収められてご満悦になるという流れだ。

 このまま私がこの受け応えを認可してしまえば、きっとそれで収まる。

 そして、私の答えは既に決まっていた。

「…お断りします」

「えっ?」

「私は、坊ちゃんに…マシュ・ウォン・タミヤに無類なき忠誠を誓っておりますから」

 視線が合った直後、殿下の顔色が赤く染まる。

 上げた右手が空気を切らんと振り下ろされる。

 しかし放たれた手が私の頬に当たる前、誰かに掴まれてその勢いが止まってしまう。

「ルーシー。もうその辺で」

 殿下が背後を見上げると、そこには馬の背から生えているような黒髪を垂らした男が立っていた。

「ま、マシュ様!?」

 殿下は片目のみならず、右目までも強く押し上げ、閉じていた口を大きく開く。

 私は、同じ方角を見上げ、その人に対して平然と訊ねる。

「坊ちゃん。何時からそこにいらして?」

「ルーシーが腰のホルスターに手を当てるところから」

「…客室で待っていたのではないのですか?」

「ソファに座ってはいたが、ガープルから馬車が来たと通達が入ってね」

 私は、「そうですか」と坊ちゃんに返した後、バレない程度に鼻息を漏らす。

 何故、鼻息が零れたのかは知らない。でも、坊ちゃんの様子が不機嫌がましい事は明らかだった。

 だって、何時かの警官を痛めつけた時と同じく、下唇が微妙に吊り上がっているのだもの。

「マシュ様。手を離してくださいません?」

「それはお前の勝手次第だ」

「はぁ?」

「取り敢えずは力を抜け…と言っている」

 坊ちゃんから受けた一言を受け、殿下は視線を外しながら肘を下げる。

 坊ちゃんは彼女の手首を解いた後、流れる川の水のように殿下の左側を回り込む。

 私の前に立ちその体半分を隠すと、本人は変わらず毅然とした態度で殿下に向き合う。

「ルーシー。君は頭の回転は人並みよりもいい。だが、時折躍起になって顔をしかめる癖はどうにもならないものか?」

「どういう意味です?」

「君が一番分かっているのではないのか? 機嫌を損ねられて困るのは、そっちも同じだという事を…」

「なぁっ!」

 坊ちゃんの言葉を耳にした殿下は、両側の瞼が見え無くなる程に白目を浮かべる。

 言葉こそ優しかったが、そこに連なる意志はそうではない。

 何より、これで形勢がひっくり返ったのは傍から見て明らかだった。

 殿下は何も言えないまま、開いていた両目を瞼で覆う。

 坊ちゃんは、それを見越してから背中を向けると、私に向かって言う。

「イングリット」

「はい?」

「お前は俺の僕(しもべ)だ。今後、俺の傍を離れる事など許さん」

 近日稀に見る程の強い鼻息が出た。

 これは後から説教が飛んでくるかと身構え、そのまま肩に手を乗せられる事を許す。

 不意に入って来た彼の感情はというと――

「(『無類なき忠誠』…『忠誠』の前に『無類なき』を付ける程に俺の事を…イングリット。俺もお前に無類なき愛を感じているよ)」

 何時も通りだった。

 こんな局面に対しても物動じせずにいられる。それどころか、私への気持ちを踏み消す事がないなんて…。

 ここまで来ると芸術の域だな。

「ルーシー。今日は席を外してもらえないか?」

「…何?」

「俺はお父様と話が出来た。だから帰ってくれ」

 坊ちゃんは相手の顔を見る間もなく私と体を寄せ合い、また流れるような動きで奥へと去っていく。

 私は、坊ちゃんの顔を見上げて問い質す。

「坊ちゃん。正気なのですか?」

「何が?」

「ルーシア殿下とのご縁を切るなんて、我が侯爵家にどのような箔が取れるか分かったものではありませんよ」

 坊ちゃんはこちらを見下ろす事無く角に差し掛かる。

「王族とのパイプを失ったところで家の未来が傾くとしたら、とっくにそうなっている。それにこの契りはまだ公にしていないし、第三者に置いてもなんの弊害もないと言えよう」

「そういうものなのですか?」

「あぁ、そういうものだ」

 坊ちゃんは依然として毅然とした顔つきで歩く。

 私はその時、彼の意見が腑に落ち、納得してしまった。

 だから、そこであらぬ隙が生まれた。

 坊ちゃんの体から赤い滴が飛び散るまで、それ程の時間は掛からなかった。

 ドブシッ!

 一瞬…ほんの一瞬の間、この音が何を表すものなのか。理解出来なかった。

 何処から音が鳴ったのか、何処から赤いのが飛び出したのか。まるで分からない。見当つかない。

 それでも、坊ちゃんの目の焦点が天に定まっているのを見定め、ようやく理解が追いついてしまう。

 坊ちゃんの鎖骨の左裏に刺さった細い金属。

 それにより、本人の体から力が抜けていく。

「あ…イングリット?」

「坊ちゃん!」

 私は、両膝をつき、そこから横転して地に伏せる坊ちゃんを目の前に荒げた声をあげる。

 そして、気づけば体を揺さぶり、顔色をうかがった。

 奥を見れば、殿下が青ざめた顔ぶりで引きつった笑みを浮かべる。

 その右手には刃を失った柄が握りしめられている。

 スペツナズナイフ――柄の中に火薬を積み、スイッチ式で刃を飛ばす軍人用の暗器。

 帝都の片手持ちの銃に対抗して創造されていると聞いたが、まさか王女が所持しているとはだれが考えつこうか。

「あ、貴方が悪いのよ。貴方が…っ!」

 殿下は握っていた柄を落とし、来た道を戻りながら駆けていく。

 私は本能的に追いかけようとしたが、顎の下から聞こえた声によって遮られる。

「イングリット…」

「坊ちゃん?」

「お前、怪我はしていないか?」

 その言葉に、私は声を失った。

 自分が急所を撃たれたというのに、他人の心配だって?

 なんて人だ。

 この期に及んで、私を気遣うだけの元気があるとは。

「坊ちゃん…。坊ちゃんの方こそ…ぁ…」

 私は再度跪き、そこから四つん這いになって坊ちゃんの体を抱き起こす。

 本来ならこのまま運んで差し上げるべきかもしれない。

 でも、片側の膝が起き上がる事ままならない。

 息が荒い。生というものを体に実感していた中でずっと…。

 今すぐに落ち着きなさいと脳に働きかけても、肺が言う事を聞かない。

 二十三年間と少しの間、私はずっと誰かの為に生きてきた。

 この二年だって、生き延びる為に色々な事を体に取り入れ、吸い取っていった。

 動揺する…ましてや胸が抑えつけられる程に辛い事なんてなかった。

 それなのに、今の私は。

「落ち着け。揺さぶると余計に響くだろう?」

「で、でも!」

「いいから、抱っこしたまま。そのままの姿勢で聞いてくれ」

「え?」

 坊ちゃんは、横抱きにされた状態で懸命に片腕を動かし、その手で私の肩を掴む。

 掴んだ方の手に力を入れ、顔と上体の向きをこちらに合わせると、

「お前。俺と初めて会った時、俺が財布を取り返した時、なんて言ったか覚えている?」

「『今日からうちの子になりなさい』?」

「もっと前だ。その、お前が財布を返した辺り」

 私は少しだけ坊ちゃんから視線を逸らし、また彼に戻す。

「貨幣が一枚足りない…ですか」

「そうだ」

 坊ちゃんは喉を鳴らし、眉に力を入れる。

「実を言うと…俺はあの時、財布の中なんてまともに数えちゃいなかったんだ」

「…え?」

「財布の中身を出さずにそれを数える程に暇じゃなかった。どうしてだか分かるか?」

 私は答えようがなかった。

 坊ちゃんは、そんな私を見て気が抜けたように笑う。

「お前の目にその答えはある」

「目?」

「あぁ、その目だ」

 坊ちゃんは私の肩に置いた手の力を強めながら、小さく咳き込む。

「…イングリット。お前の目は、はっきりに言って美しい。お前は俺が自分の金髪や顔に惚れたと思っているかもしれないが。それは大きな間違いだ」

「なんですか。それ…?」

「朝、起きて俺に挨拶しに来た時も、飯を食べている時も、お前の目は何時も優しかった。俺の乗馬の一幕を眺めている時だってそうだった…。お前は、俺の執事になる前も後も、何も変わっちゃいない」

 流れる血がとめどなくカーペットを汚す中、坊ちゃんは毅然として語る。

 それを私は、ただ耳に入れるしか出来なかった。

 本当ならもっと他にやる事があった筈なのに、自然とそれが頭から離れていた。

 この人の事だから、もっと他にドきついものをしょいこんでいるのではないかという疑いさえあった。

 けれど今、それが頭に入ってこない。何故だ。

 何故、こんなにも体が震えるのか。

 何故、喉から息が出続けるのか。

 何故、こんなにも目頭が熱いのだろうか。

 私は、こんなにも嘘つきだったのか。今、その惨めさがようやく身に染みてわかった。

 すると坊ちゃんは、しきりに口角を上げる。

「こいつは傑作だな。お前の涙を初めて見たのがこんな時になるとは」

 瞳孔が合っていないように見えるが、かろうじてこちらの方は見えていたのだろう。

 それでも、徐々に肩を握り締める力が弱まっていくのが分かる。

「…坊ちゃん」

 やっとこさ声が出たというのに、その先がつっかえて取れない。

 どうして加工してかこうしてか考察していく内、不思議と息が落ち着いてきた。

「イングリット…。黄泉にて待ち焦がれている、ぞ」

 …。

 坊ちゃんの手が、私の肩から離れた。

 左後背部に刺さっていた得物が抜け落ち、地に落ちた音を聞いた時、、私はふと気づく。

 あぁ、そうだ。この顔だ。

 私が従属の座位に就いた時、この人はこんなにも笑顔だった。

 私はこの人のこの顔を忘れたかったんじゃない。

 私はただ、この顔は本人のそれらしくないと勝手に決めつけて、勝手に見過ごしていただけだった。

 こんな時、よりによってこんな瞬間になって気づくなんて…馬鹿だ。

 近年稀に見る大馬鹿者だ。

 元々、この人が私に見せる様に、表も裏も無いと分かっていたのに。


 ※


 ルーシア殿下がマシュ男爵を手に掛けた事件は、瞬く間に国中に轟いた。

 二人の婚約は各々意思が通るまで隠されていたが、此度の件を受けて初めて公になっていったという話。

 隣国の帝都や他州に話が広がっていくのも時間の問題。

 大きな反発を危惧した王族側は、被害者側へ急ぎ謝礼を踏む事に決める。

 タミヤ侯爵夫婦も交えて、議論を重ねた結果、爵位の昇格に紐づけられる事となった。

 二十五歳にして伯爵位の授与。

 それは、王国設立以来でも一人か二人いるかの大快挙だった。

 謝礼代わりと言ってしまえば聞こえはいいが、結論から考えてみると、それは何かの免罪符に掛けているのは明らかだろう。

 けれど、私はその事に対して怒ったり悲しんだりする事はない。

 その理由と答えは簡単だ。

 当事者の一人が今、目の前にいるのだから。

「見事に死に損ないましたね。坊ちゃん」

「そのようだな」

「…どうしてこちらに顔を向かれないのですか?」

「起きてから日の光を拝めていないものでね。どうもそれが気掛かりで」

 窓を覗き込むように眺める主人に、私は白い眼を浮かべた。

 ここは、王立病棟の内科部にある個室。

 内外来の急患を安静にさせる為のベッドが用意されていて、今しがたその役目を果たしつつある。

「では坊ちゃん。伯爵位の授与。誠におめでとうございます」

「改まって言う事か? それに、ここは病院だぞ」

「申し訳ありません。沸き立つ気持ちが抑えきれないもので」

「なんだ、お前にしては珍しい」

 こちらに視線が合いそうになり、またあらぬ方角にそれを向ける坊ちゃん。

 私はそんな彼の心を探ろうと肩に触れようとしたが、寸での所で止めた。

 今の自分にはわかる。

 坊ちゃんの心には今、私に見せたくない情報で埋めつくされている事を。

 私がそれを見てしまった所で、何も得をしない事を。

 そして何より、顔を合わせられない程に羞恥心をさらけ出している相手の肩に触れるなんて、不自然且つ不誠実極まりない行動。

 ここは出した手を膝元に戻し、直接本人に聞きだすのが一番。

 そう思ったら、その意志を覆うように声が掛かる。

「失礼するよ。二人共」

 アコーディオンカーテンを畳みながら、入って来る人影一つ。

 灰色のフェードカットと薄いシミのついたこめかみ。

 喉に何かつっかえたような濁声のその人を前に、私は浮いた肩が下げる。

「旦那様。いらしていたのですか」

「今しがた、受付を通してもらったところでね。…なに、すぐに去るからそう身構えないでおくれ」

「そういうわけにはまいりません。私には、タミヤ家に仕える者としての流儀があります」

「そうか。…まぁ、その意志は汲むとしよう」

 スヴェン侯爵…旦那様は傍に置いてあった円形の椅子に跨り、そっと一息。

「マシュよ。傷の方はどうだ?」

「縫われた事によるかゆみはありますが、痛みは完全に引きました」

「そうか。まぁ、大事にならなくて何よりと言ったところだな」

 そう言って旦那様は咳を一つ漏らすと、眉に力を入れて静かに言う。

「さてと、儂が今日ここに来たのは理由があってな。マシュ、お前に引き受けてほしい事があって」

「引き受けてほしい…こと?」

「あぁ」

 旦那様は懐から用紙を取り出し、四つ折りにされていたそれをはらり…と、開く。

 そこに写っているのはバーニヤ州とロコモネ州の境界線を真ん中に置いた地図だった。

「此度、お前は伯爵位を委ねられただろう。それで成人して尚の事九、十年経過する。そこで、儂とお母様はそろそろ巣立ちの頃であると見なした次第だ」

「お父様。それはどういう?」

「順を追って説明しよう。イングリット、お前もこれをよく見ておくんだ」

 旦那様は自分が広げた地図を坊ちゃんの膝元に載せると、それを持っていない方の手を開き、地図のある箇所にその指を当てる。

「儂が侯爵家に籍を置いている以上、国王からある程度土地の管理下を任されている事は知っておるな? 一つは王国の西北、もう一つは王国と帝都との街道沿いにある宿町。そしてもう一つは――」

「ロコモネとバーニヤの境目辺り、ですね」

「そうだ」

 旦那様は頷きながら話を続ける。

「儂はこの三つの内の一つ目と二つ目の管理を重点的に敷いてて、残りは他の縁者を経由しながらそれを担っていた。ところが最近になってその縁者と折り合いどころか連絡がつかなくなってな」

「失踪した理由は把握していないのですか?」

「あぁ。それにこの二つの州の境目に位置する為、野放しにする事は出来ない。いっそガープルに任せようと思ったのだが、彼はまだ家令を引退する程に衰えていないと話す始末で」

「そこで坊ちゃんの昇級の話が持ち上がり、彼にそこを委ねたいと申すのですね」

「流石はイングリット。話が早くて助かる」

 旦那様の返事を聞いた後、坊ちゃんはベッドから体を起こし、顔を静かに強張らせる。

「正気ですか? 俺はこの二十五年、まともに領地開拓に手を付けた事は無い素人でございますよ。そんな者に境界の土地を任せるなど…」

「そうは言うが、お前には、王女に対して反発の意を示すだけの肝っ玉が備わっているであろう? それに儂としては、自分からよそ者を我が家に引き入れ、従属に仕立て上げた清算を付けようと思っていた所でもあったのでね」

 旦那様は一度唇をすぼめ、その力を緩める。

「それにルーシア王女の一件で騒がしい今のこの町に居ては息が詰まるだろう?」

「何も言い返せません」

「儂とて全てをお前に委ねるとは言っていない。お前の政務を観察し、儂に対して定期的にそこの様子を送る役人を付ける予定だ」

「はぁ…?」

 坊ちゃんは旦那様から視線を逸らし、膝元の地図をそっと眺める。

 それから程なくして父の方に顔を向けると、話は次の方針に進む事になる。

「役人の事だが、誰にそれを託すかはお前に任せる」

「えっ?」

「サラシ一つ巻いたお陰で拾えた命だ。そろそろ自分の為に素直になったらどうだ?」

 それだけを言い残すと、旦那様は椅子から立ち上がり、踵を返して部屋を出る。

 残された私と坊ちゃんはその背中が見えなくなるまで見据えた後、静かにため息をつく。

 それから坊ちゃんは、私の横顔を何度も横目で見た後に、大きなため息をつく。

「なぁ、イングリット」

「はい」

「…お前はこの件、どう思う?」

「どう思う、とは?」

「だから、役人があれこれっていう話…。それで、誰にするかっていうのだけど」

 坊ちゃんは体を起こしたままじっと地図を見つめ、それから私の顔の方を見る。

 それで私と視線が合いそうになればまた地図を向く。

 それを三度繰り返されていく中、今度は私が大きなため息を零す。

「折角、侯爵家に生まれた大義を果たせるというのに、なんですかその言い草は?」

「な、なんだと?」

「元より自分の傍を離れるのは許さないと申しつけたのは貴方ではありませんか。今更、取り繕った所で無駄ですよ」

 私はそう言いながら、こっちに近い方の坊っちゃんの手を握りしめる。

 彼はしゃっくりでもしたように体を跳ねたが、そんな仕草は構う事なく目を伏せる。

「私は坊ちゃんの…マシュ様の専属です。貴方の向かう先は私の向かう先でもあります。その意志に嘘偽りがあろう筈ありません」

「イングリット…」

 この日、私は人前に成って初めて目元を緩めた。

 それと同時に、あの人の“声”がまた聞こえなくなってしまう。

 これから先、私はまた自由のない生活を強いられるだろう。

 少し違うのは、自分から望んでその道を選び、真っすぐとそれに向かう事だ。

 私は、両目を開き、顔は坊ちゃんの方をしっかりと向き、空いていた手を自分の胸に当てる。

「どうか貴方の向かう先に、私を導いてくださいませ。若旦那様」

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