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キミと生きる

掲載日:2026/05/19

五月の光は、残酷なほどに鮮やかで、それでいて瑞々しい。

意識に仲介されずとも、視界へ飛び込んでくるたくさんの緑。

自動ドアが開くとむせ返るようにわっと匂いが流れ込んでくる。


世界はいっせいに、新しい季節へと更新された。


手にしているエコバッグには「キミ」が好きだった人工的なシトラスの洗剤。

ひとりではじまった私の世界に、後からまざり込んできた「キミ」の匂い。


季節が変わっても、私の部屋の空気だけは「キミ」が決めた清潔の枠から、少しもはみ出ることはない。

それは、過去への執着ではなくて…


もうとなりにいないのに「キミ」が好きだったものばかり買い集めてしまう。


それは、いつでもキミが帰ってこられる場所を維持するため。

私にとっての、終わりきれない静謐な作業。


   ◇


街路樹がしめし合わせたようにいっせいに葉を広げ、五月の陽射しをさえぎる。

アスファルトの上には若葉の隙間から漏れた光が、ゆらゆらと複雑な模様を落としている。

その影の輪郭をなぞるように「キミ」の歩幅に合わせ、一歩、また一歩、踏み抜いていく。


「もっと早く歩かないと季節に置いてかれるよ」


凛とした記憶のあの声が、私の足を動かすたったひとつの原動力。


ひとりのときは、もっとゆるやかだったはずの私のリズム。

「キミ」とのふれあいのなかで、速度は書きかえられてしまった。

速度を落とせば、からだのバランスが崩れてしまうような、そんな怖さ。


もう、この速さを手放せない。


眩しすぎる光のなか「キミ」の速度で「キミ」のいない場所へ向かって、正しく歩き続ける。

キミに恥じることのないように。


   ◇


朝の仕事前、公園のベンチに深く腰を下ろす。

若葉がこすれ合うかすかなざわめきが、そこここで空気とともに歩き出す。


頭の上を抜けていく風の気配を、どこか他人事のように聞きながら、スマホの画面に指を這わせる。


自分とは無縁なはずの野球のスコア。

ただの数字の羅列。

「キミ」が熱狂していた夢の続き。

勝ち負けに心をゆらす感情は、とっくにどこかへ置いてきたはずなのに。


これを確認しないと、今日という一日が正しく動き出してくれない。


私にとってのニュースとは、世間の慌ただしい動向ではない。

遠くにいる「キミ」という座標を更新し、静かに、眺めるだけ…


季節がどれほど鮮やかに移ろっても、変化することはない。

私の世界の照準は「キミ」という視点を介さない限り、決して合うことはない。


   ◇


限りなく透き通って、どこまでも抜けていくような緑の季節が、街の景色をぬりかえていく。

強い光は、建物の縁を鋭く削り、すべての輪郭を白くぼやかしてしまう。


私たちはもう、あのころのようにはいかない。


この光のなかを、並んで歩くことはない。

言葉を交わすことも、視線を重ねることだって。


それでも…


朝の光のなかで、私が選ぶ服の色には「キミ」の好みが混ざり合う。

「キミ」がいまどこかで口にしているコーヒーの苦さには、私のクセが残っている。


好き、という簡単な言葉でひとまとめにするには、あまりにも日常を侵食しすぎた習慣。

「キミ」をいまもなお、消えないルールとして、抱えたままに生きている。


この眩しい世界を、それぞれに、そして、別々に。


私は、正しく「キミ」と生きていく。









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