泥だらけのアリスは追放されたので、隣国の食料自給率を回復させます
貴族や王族達が色彩を放つ華やかな舞踏会。
貴族子弟が集う大広間は、祝福と期待に満ちていた。
第二王子レオンハルトは、グラスを掲げながら満足げに笑う。
今夜、彼は人生を“正しい形”へ戻すつもりだった。
「――諸君、聞いてほしい」
楽団の音が止まり、視線が集まる。
「私は本日をもって、アリス・グレイフォードとの婚約を破棄する!」
ざわめきが広がった。
そして人々の視線は、会場の端へ向かう。
そこに立っていたのは――
淡い茶色のドレスの令嬢。
だが裾には乾ききらない土の跡。
指先には落としきれなかった黒土。
舞踏会に似つかわしくない姿だった。
「王族の婚約者でありながら畑に籠もり、社交もせず、淑女の務めを放棄した!」
レオンハルトは続ける。
「私は王妃にふさわしい女性を選ぶ!」
彼の腕に寄り添うのは、華やかな笑顔の令嬢。
会場から同意の笑いが漏れる。
「まあ……あの泥だらけの令嬢が?」
「噂通りね。土遊びが好きなのだとか」
アリスは静かに瞬きをした。
怒りも、悲しみも見せない。
ただ小さく頭を下げる。
「……承知いたしました、殿下」
その声は驚くほど落ち着いていた。
宰相が一歩前へ出る。
「殿下、しかしアリス嬢は王立農政魔導官として――」
「農業だろう?」
レオンハルトは鼻で笑う。
「優秀な魔導士を採用したと思ったら、土遊びが好きなだけの娘だった」
会場に失笑が広がった。
アリスは否定しない。
ただ、少しだけドレスの裾についた土を払った。
「では、王国農政局との契約も本日で終了いたします」
その言葉に、宰相の顔色が変わる。
「……アリス嬢、それは」
「問題ありません」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「私がいなくても、作物は育つのでしょう?」
誰も答えなかった。
そして誰もまだ知らない。
王国の野菜自給率七割。
痩せた大地の再生計画。
次の収穫期から始まるはずだった土壌改良。
――そのすべてが、彼女一人によって成り立っていたことを。
アリスは背を向ける。
舞踏会の光から離れ、静かに扉を出た。
その夜。
王国は、未来の収穫を失った。
それは三年前のことだった。
王城の中庭に、ひとりの令嬢が案内された。
「王立魔導院首席卒業、アリス・グレイフォード嬢をお連れしました」
宰相の声に、第二王子レオンハルトは期待を隠さなかった。
王国は慢性的な食料不足に悩んでいる。
土壌は痩せ、収穫量は年々減少。
このままでは十年以内に飢饉が来る――そう報告されていた。
だからこそ呼び寄せたのだ。
天才魔導士を。
だが。
「……何をしている?」
王子の声が低くなる。
紹介された令嬢は挨拶もそこそこに、庭園の花壇へしゃがみ込んでいた。
手袋もせず、指先で土を崩し、匂いを確かめている。
さらさらと土を落としながら、彼女は呟いた。
「魔力循環が詰まっていますね。この土、もう三年も疲労しています」
ドレスの裾が土に触れる。
侍女が青ざめた。
「お嬢様、汚れます!」
「あとで払えば大丈夫です」
気にも留めない。
レオンハルトは眉をひそめた。
(優秀な魔導士を採用したと聞いたが……)
どう見ても。
土遊びに夢中な娘だった。
「アリス嬢は植物魔導学の第一人者です」
宰相が説明する。
「枯死寸前だった北部農地を、彼女が再生させました」
「偶然では?」
王子の問いに、アリスは首を傾げた。
「偶然ではありません。土は生きていますから」
彼女は立ち上がり、手についた土を軽く払った。
「栄養ではなく、“魔力の流れ”が死んでいるんです。そこを整えれば作物は自然に育ちます」
理解できない言葉だった。
だが宰相は真剣な顔で頷いている。
「王国全土の土壌改良計画を、彼女に一任したいと考えております」
王子はしばらく沈黙した。
そして視線をアリスへ向ける。
日焼けした頬。
飾り気のない髪。
貴族令嬢とは思えない落ち着き。
華やかさがない。
王妃教育を受けてきた令嬢たちとは、あまりにも違った。
「……君は舞踏会や社交にも出るのか?」
「研究が優先になりますので、最低限になるかと」
即答だった。
王子の胸に小さな違和感が芽生える。
王族の婚約者になる者が、社交を軽んじるなど。
だが宰相は続けた。
「彼女の試算では――」
「一年以内に収穫量三割増。五年で食料自給を達成可能とのことです」
王子は目を見開いた。
「本当か?」
アリスは少し考え、控えめに言った。
「順調に進めば……あと一年で、王国の土は完全に蘇ります」
その言葉は静かだった。
誇りも誇張もない。
ただ事実を述べているだけの声。
その日から。
アリスは王城よりも畑にいる時間の方が長くなった。
泥に触れ、土を調べ、農民と語り、雨の中でも作業を続けた。
翌年。
北部の収穫量が倍増。
さらに翌年。
凶作が予測された地域で豊作が報告される。
貴族たちは歓喜した。
「王家の政策が成功した!」
誰も、土に膝をついていた令嬢の名を口にしなかった。
そしてレオンハルトの中で、評価だけが固まっていく。
――有能なのだろう。
だが。
「……どうにも、王族の婚約者らしくない」
その小さな不満が。
やがて取り返しのつかない選択へと繋がることを、彼はまだ知らなかった。
それは、婚約破棄の一年前。
王国南部の試験農地に、珍しい客が訪れていた。
隣国ヴァルハイン王国第一王子、ルシアス・ヴァルハイン。
表向きは友好視察。
だが実際には――
食料不足に悩む自国の打開策を探すためだった。
「こちらが王国農政魔導官の研究区画です」
案内役の貴族が誇らしげに言う。
広大な畑。
青々とした作物。
だがルシアスの視線は、畑ではなく“中央”へ向かった。
そこにいたのは。
帽子を被り、膝をつき、黙々と土を掘る女性。
手は泥だらけ。
頬にも土が付いている。
護衛が小声で囁く。
「……あれが責任者ですか?」
貴族は苦笑した。
「ええ。少々……変わり者でして」
ルシアスは答えなかった。
代わりに、ゆっくりと歩み寄る。
女性は気づかない。
完全に土へ意識を向けている。
「失礼」
声をかけると、彼女は顔を上げた。
澄んだ灰色の瞳。
「……あ」
ようやく来客に気づいたらしい。
慌てて立ち上がるが、土の付いた手を見て止まる。
「申し訳ありません、手が……」
「そのままで構わない」
ルシアスは即座に言った。
「あなたが、この畑を?」
「はい。アリス・グレイフォードと申します」
彼は畑を見渡す。
作物の高さが均一。
葉の色が異常なほど健康的。
軍事訓練で見てきた補給地とは明らかに違う。
「肥料は?」
「最低限です」
「では水管理か」
「半分正解です」
アリスは少しだけ嬉しそうに笑った。
「土の魔力循環を調整しています。作物ではなく、大地そのものを治療しているんです」
同行していた貴族たちは理解できず黙っている。
だがルシアスはしゃがみ込み、土を手に取った。
護衛が息を呑んだ。
王子が自ら土に触れるなどあり得ない。
「……温かいな」
「はい。生きていますから」
その瞬間。
ルシアスの表情が変わった。
視察対象を見る顔ではない。
価値ある人材を見つけた指揮官の目だった。
「この土地、以前は痩せていたはずだ」
「三年前はほぼ死んでいました」
「回復率は?」
「六十八%。あと一年で完全再生します」
迷いのない答え。
誇張が一切ない。
ルシアスは確信した。
――この女は、本物だ。
彼は静かに言った。
「あなた一人で国が変わる」
アリスは困ったように首を振る。
「いいえ。私は土を少し手伝っているだけです」
謙遜ではない。
本気でそう思っている顔だった。
ルシアスは小さく笑った。
「……あなたの国は、あなたの価値を理解しているのか?」
一瞬だけ。
アリスの視線が揺れた。
だがすぐに微笑む。
「評価していただいております。研究も自由にさせていただいていますし」
それ以上は言わなかった。
だがルシアスには十分だった。
王族として長く人を見てきた。
評価されている者の目ではない。
使われている者の目だ。
彼は立ち上がる。
「覚えておこう、アリス・グレイフォード」
そして穏やかに続けた。
「もし、あなたが働く場所を選び直す日が来たなら」
一瞬の沈黙。
「我が国は、いつでも歓迎する」
風が畑を揺らした。
アリスは少し驚いた顔をして、それから小さく笑った。
「そのような日は来ないと思います」
――その言葉が、後に覆されることになる。
婚約破棄から三日後。
アリスは王都を離れていた。
持ち出したのは研究資料と、使い慣れた農具だけ。
行き先も決めていない。
ただ――土の状態が気になった。
王都近郊の試験農地。
かつて自分が改良を始めた場所だった。
膝をつき、土をすくう。
指の間から崩れ落ちる感触に、胸が少し痛む。
「……早いですね」
魔力の流れが乱れ始めている。
管理が止まった証拠だった。
あと半年。
あと半年あれば、完全に安定したのに。
小さく息を吐く。
その時だった。
「やはり、ここにいたか」
聞き覚えのある声。
振り向くと、畑の入口に一人の青年が立っていた。
陽光を背にしたその姿。
隣国ヴァルハイン王国第一王子――ルシアス。
アリスは目を見開く。
「……殿下?」
護衛も従者もいない。
彼は一人で畑へ歩いてきた。
そして迷いなく、アリスの隣にしゃがみ込む。
躊躇なく土を手に取った。
「王都は大騒ぎだ」
穏やかな声だった。
「婚約破棄されたそうだな」
噂はもう国境を越えているらしい。
アリスは苦笑した。
「お恥ずかしい話です」
「いいや」
即座に否定される。
ルシアスは土を握り、静かに言った。
「恥なのは、宝を捨てた側だ」
言葉がまっすぐすぎて、アリスは返事に困った。
風が畑を揺らす。
沈黙のあと、彼は続けた。
「土が弱っているな」
「管理が止まったのでしょう。予想より早いです」
「完成まで、あとどれくらいだった?」
少し迷ってから答える。
「……半年です」
ルシアスは小さく息を吐いた。
まるで確信していた答えを聞いたように。
「ならば――」
彼はアリスへ向き直る。
王子としてではなく、一人の人間として。
「続きを、我が国でやらないか」
アリスの思考が止まる。
「我が国も土が死にかけている。君の力が必要だ」
命令ではない。
同情でもない。
ただ純粋な評価。
「研究環境、資金、人員、すべて用意する」
一拍置いて。
「泥だらけになっても、誰も笑わない」
その言葉に。
アリスの胸の奥が、わずかに熱くなった。
王国では何度も笑われた。
土の匂い。
荒れた手。
社交に出ない令嬢。
けれど目の前の王子は――最初に会った日から、一度も笑わなかった。
「……本当に、よろしいのですか?」
「むしろ遅すぎた」
ルシアスは微笑む。
「私はずっと、君を招きたかった」
風が吹き抜ける。
アリスはもう一度、足元の土を見る。
ここはもう、自分の場所ではない。
ゆっくり立ち上がった。
「では――」
顔を上げる。
「土の続きを、やらせていただきます」
ルシアスは満足そうに頷いた。
その日。
王国は一人の令嬢を失い。
隣国は、未来の豊穣を手に入れた。
王国を出る馬車は、驚くほど静かだった。
見送りは誰もいない。
当然だろう。
泥だらけの農政魔導官がいなくなったところで、王都の誰も困らないと思っているのだから。
アリスは膝の上の研究資料をそっと撫でた。
「……本当に、連れて行っていただいてよろしかったのでしょうか」
向かいに座るルシアスは肩をすくめる。
「こちらが頼んだのだ。遠慮される方が困る」
彼の言葉は終始変わらない。
同情ではなく、必要だから呼ぶ。
それがアリスには何より救いだった。
国境を越えた瞬間、空気が変わった。
広がる農地。
だが土の色が悪い。
乾き、硬く、生命力が弱い。
アリスは思わず身を乗り出した。
「……かなり進行していますね」
「やはり分かるか」
ルシアスは苦笑する。
「三年以内に飢饉と予測されている」
アリスの目が真剣になる。
「すぐ調査を始めます」
「もう仕事の話か?」
「時間がありませんから」
その答えに、ルシアスは静かに笑った。
――やはり、この人だ。
一ヶ月後。
隣国王城。
王立農政局は騒然としていた。
「南部試験農地、発芽率九十七%!?」
「去年の倍以上だぞ!」
「土壌魔力濃度が回復している……!」
次々と上がる報告。
老臣たちは信じられない顔でアリスを見る。
泥の付いた作業着のまま立つ令嬢。
だが今や、誰も笑わない。
敬意しかなかった。
ルシアスは玉座横からその光景を見ていた。
確信する。
――国が生き返り始めている。
半年後。
枯れかけていた農地は緑に覆われた。
一年後。
隣国の食料自給率は回復。
二年後。
輸入国だったヴァルハインは、穀物輸出国へ変わった。
人々は彼女をこう呼び始めた。
「大地の魔導士」
収穫祭の日。
黄金色の畑を前に、ルシアスはアリスを呼び止めた。
「少し時間をくれるか」
夕焼けが大地を染める。
風が穂を揺らす。
彼はしばらく畑を見渡してから言った。
「君が来てから、この国は変わった」
「皆さんが努力された結果です」
「違う」
静かな否定。
「君がいたから、人が努力できた」
そして向き直る。
王子ではなく、一人の男として。
「アリス・グレイフォード」
彼は跪いた。
「我が国の王妃として、共に未来を作ってくれないか」
言葉を失う。
かつて婚約は“義務”だった。
だが今差し出されているのは――選択。
「……私で、よろしいのですか?」
「君以外は考えたことがない」
迷いのない答え。
アリスは畑を見た。
泥に触れ続けた日々。
笑われた時間。
捨てられた場所。
そして今。
自分を必要としてくれる国。
小さく息を吸い、微笑んだ。
「はい。喜んで」
風が強く吹いた。
黄金の穂が一斉に揺れる。
その年。
隣国は史上最大の豊作を迎え。
同時に――
泥だらけだった令嬢は、王妃となった。
――婚約破棄から半年後。
王城の会議室は重苦しい空気に包まれていた。
「南部農地、収穫量二割減です」
「西部も同様。原因不明の生育不良」
「市場価格が急騰しています」
報告が続く。
第二王子レオンハルトは苛立ったように机を叩いた。
「たまたまの不作だろう」
誰も即答できない。
宰相が慎重に口を開く。
「……例年との比較では、異常な速度で土壌状態が悪化しています」
「農政局は何をしている!」
「担当官が不足しております」
沈黙。
誰も名前を言わない。
だが全員の頭に同じ人物が浮かんでいた。
レオンハルトは顔をしかめる。
「まさか、あの女がいなくなった程度で国が傾くと?」
誰も否定しなかった。
さらに一ヶ月後。
王都の市場。
「野菜が高すぎる!」
「先月の倍だぞ!」
「庶民が買えない!」
怒号が響く。
貴族ですら食卓の品目が減り始めていた。
王城へ緊急報告が届く。
「地方で食料暴動の兆候あり!」
「備蓄量、想定の六割を下回りました!」
レオンハルトの表情が初めて揺らぐ。
「原因を突き止めろ!」
宰相は静かに書類を差し出した。
そこには過去三年分の農地データ。
そして一つの線。
アリス・グレイフォードが管理していた期間だけ、収穫量が異常に安定している。
彼女が去った瞬間。
数字は崩落していた。
「……偶然ではありません」
宰相の声は低い。
「アルヴィス嬢――いえ、アリス嬢は土壌魔力劣化を抑制していました」
「そんな話は聞いていない!」
「彼女は何度も報告しております」
レオンハルトの手が止まる。
思い出す。
泥だらけで説明していた姿。
専門用語ばかりで退屈だった報告。
――聞き流した。
追い打ちの報告が入る。
「隣国ヴァルハイン王国、今年度収穫量三倍増を発表」
部屋が凍りつく。
「食料自給率、九十五%到達。余剰穀物の輸出を開始したとのことです」
宰相が続けた。
「……輸出責任者は」
紙をめくる音。
「王立農政顧問、アリス・グレイフォード」
沈黙。
長い沈黙。
レオンハルトの喉が乾く。
「……輸入量は?」
「このままでは、来年より我が国は隣国からの食料輸入が不可欠になります」
つまり。
自分が捨てた女の国に、頭を下げることになる。
窓の外では、冬の風が吹いていた。
王子の脳裏に浮かぶ。
畑で膝をつき、土を触っていた婚約者。
泥で汚れた手。
静かな声。
『あと一年で、王国の土は完全に蘇ります』
胸の奥が締め付けられる。
もし。
もしあの時――。
「あいつが……いれば」
言葉が漏れた。
誰も否定しない。
否定できない。
宰相は目を伏せた。
「殿下」
静かな宣告。
「我々は、未来を自ら手放しました」
その日。
王国は初めて。
自分たちが何を失ったのかを理解した。
そして経済崩壊は、静かに始まっていた。
王城の大広間。
かつてアリスを「土遊びの女」と嘲笑った第二王子は、膝をついていた。
豪奢だった衣装はくたびれ、顔色は悪い。
半年で、この国は変わり果てていた。
食料自給率は崩壊。
農地は痩せ、収穫量は激減。
隣国からの輸入なしでは冬を越せない。
そして――
その隣国の使節として現れたのが。
白銀のドレスを纏った、一人の女性だった。
「……アリス……?」
王妃アリス。
かつて泥だらけだった少女は、堂々と玉座の前に立っていた。
だがその瞳は、あの日と同じ。
静かで、強い土の色。
隣には第一王子――いや、今は隣国の王が立っている。
第二王子は震える声で言った。
「戻ってきてくれ……!」
「お前がいなくなってから国が……農地が……!」
「頼む、もう一度、俺のもとに――」
大広間が静まり返る。
全員がアリスの言葉を待った。
アリスは少し首を傾げる。
そして。
にこりともせず、はっきり言った。
「嫌です」
一瞬で空気が凍った。
「……な、なぜだ……」
「あなたは覚えていますか?」
アリスは静かに歩み寄る。
「泥だらけで汚いと言ったこと」
「王族に相応しくないと笑ったこと」
「成果を報告しても、一度も畑を見に来なかったこと」
第二王子は言葉を失う。
アリスは続けた。
「私は国のために働いていました」
「でもあなたは、私を見ませんでした」
少しだけ微笑む。
今度は、柔らかい笑顔だった。
「――でも、この人は違いました」
隣の王がそっとアリスの手を取る。
「泥だらけでも綺麗だと言ってくれました」
「畑に一緒に立ってくれました」
「私の研究を、国の未来だと言ってくれました」
王は優しく肩を抱く。
「妻を困らせるな」
低く穏やかな声。
だが完全な拒絶だった。
第二王子は崩れ落ちる。
「……あいつがいれば……」
「全部、違ったのに……」
アリスは振り返らない。
もう、過去だから。
城を出た後。
王都の庭園。
夕陽に染まる畑を見ながら、アリスは息を吐いた。
「少し、すっきりしました」
王が笑う。
「復讐としては可愛いものだな」
「復讐じゃありません」
アリスは照れながら言う。
「ただ、本音を言っただけです」
王は彼女の額に口づけた。
「では王妃殿。次の計画は?」
アリスの目が輝く。
「土壌改良第二段階です!」
「隣国全土の食料自給率、100%を目指します!」
王は苦笑する。
「結婚しても畑か」
「当然です」
少しだけ頬を染めて。
「……あなたが一緒なら、どこでも楽しいので」
王は思わず笑い、彼女を抱き寄せた。
夕焼けの畑。
泥だらけだった少女は、国を救う王妃になった。
そして今日も。
愛する人と、未来を育てていく。
面白いと思っていただけたら、
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