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第1話











 この世界の人間は、古くから妖魔の脅威に晒されてきた。”妖魔”とは、異界より現れ人間を喰らう化け物の総称である。その恐ろしさは文明が発達した現代においても変わらず、人間の恐怖の対象であり続けている。


「う、うわぁ! 妖魔だ!」

「逃げろぉ!」


 今日もまた、その妖魔が出現した。ビルが立ち並び人々が行き交うオフィス街の真ん中に、黒い渦のような歪な空間の穴が発生し、そこから魑魅魍魎が這い出てきたのだ。

 ”異界の扉(アナザーズゲート)”である。地球の時間で約1000年前に遠く離れた異世界の誰かが発明した技術で、これによって様々な世界が繋がれ、行き来が可能となった。その恩恵は地球にも齎されている。しかし、その技術は決して良いことばかりではなく、こうして人々を脅かす脅威も呼び寄せてしまっているのだ。


「ブモォォッ!!」


 今回やって来たのはオークの群れだ。形こそ人型だが、できものだらけの不潔な肌に豚の頭、贅肉の溜まった腹に腰みのという何とも醜悪な見た目。しかしこれでも成人男性の頭くらい軽く捻り潰してしまう程の腕力を持っている。中でもそのオークの群れの中心で雄叫びを上げているオークキングは脅威だ。他のオークよりも体格が一際大きく、4m近い。大木をそのまま引き抜いたような巨大な棍棒を肩に担ぎ、ズシン、ズシンと重い足音を立てて歩く。


「ひ、ひっ……」


 その通り道にオフィススーツに身を包んだ女性がへたり込んでいた。突然の妖魔襲来とオーク達に威圧されたことで腰を抜かしてしまい、逃げ遅れてしまったのだ。ズリズリと地面に尻を擦りつけながら後退し、何とかオークから逃げようとする。


「ブヒヒ……」


 その姿を見てオークキングがニヤリと笑った。昔から妖魔が人間に対して行うことは決まっている。喰らうか、犯すかだ。妖魔は何故か人間を襲って子孫を残すことに固執している部分がある。特に女性は昔からその被害に遭ってきた。

 異界にやって来たばかりで精気が高ぶっているオークキングは目の前の女に狙いを定めたようだ。下卑た笑みを浮かべてゆっくりと女性に手を伸ばす。


「ひっ……いやっ、誰かっ」


 自分の身に何が起きるのか勘付いたのだろう。女性は必死にオーク達から距離を取って助けを求めた。恐怖からスラックスの股間部分がにじみ、失禁してしまっている。その様子もオーク達を悦ばせる要素にしかなっていない。


「ゲギャギャ……ギャ?」

「ブヒヒ……ヒ……」


 あと少しでオークキングの手が女性に届く、その瞬間オーク達の間に一筋の白銀の光が走った。その通過点上にいたオーク達は身体が両断され、絶命してしまう。運良く逃れたオーク達も、少しでも光に触れたものは腕や足が斬り飛ばされてしまい、悲鳴を上げている。群れは大混乱だ。


「おーおー、相変わらず昼間から盛ってますね。元気が良くて何よりです」


 オークキングが状況を把握しようと辺りを見回していると、可憐な少女の声が響いた。今さっき襲おうとしていた女性の近くからだ。オークキングがそちらを向くといつの間にか一人の少女が現れていた。


 セミロングのブロンドの髪を持った小柄な少女だ。黒いセーラー服に身を包み、胸元に赤いリボンを結んでいる。下半身の肉付きがかなり良く、はち切れそうな筋肉を黒いタイツが締め付けている。宝石のような翆眼でオークキングを見上げ、手には鈍く銀色に輝く日本刀を握っている。どうやらこの少女がオーク達を斬ったらしい。


「あ、あなたは……」

「通りすがりの退魔士、神楽坂ミオです。さ、避難誘導しますので貴女は逃げてください」


 チャキ、と音を鳴らして刀を肩に担ぎ、ミオは女性に声をかけた。するともう一人、ミオと同じ制服に身を包んだ少女が現れて女性を抱き上げる。腰が抜けて動けない女性を運んでくれるようだ。

 ”退魔士”、その名の通り人々を脅かす妖魔を退治する者達だ。その卓越した戦闘技術で古くから妖魔達と戦い、人々の平和を守ってきた。今回も突如として現れたオーク達を退治するためにやって来たのだ。


「ミオさん、少し待っていてください。この人を安全な場所まで運んだらすぐに仲間を呼んできます」

「いや、その必要はありませんよ。この連中は私一人で狩ります」

「えっ…でも」


 今回の妖魔は数が多い。こちらも増援が必要だろうと判断した退魔士の少女がミオに声をかけると、ミオはその申し出を拒否した。たった一人でオークの群れを狩り尽くすという。

 いくらなんでも無謀だ。そう思った少女が返答に困っていると、ミオがゆっくり振り向いた。ぐっと口角を上げ、鋭い犬歯を晒すような笑顔を浮かべる。


「…そろそろお昼ご飯にしようと思ってるんです。そういうの、貴女方は嫌いでしょう?」

「っ……わ、分かりました」


 可憐、しかし血に飢えた獣のような狂気を孕んだ笑みを見て少女はビクリと肩を震わせた。女性を抱え、まるで恐ろしいものから逃げるように一目散にその場から立ち去る。一人残されたミオはオーク達へ向き直り、カチャリと刀を構えた。オークキングの肥えた身体を見てぺろりと舌なめずりをする。


「今日のランチは豚…。ハツ、ミノ、ホルモン…、選り取り見取りだなぁ。食べ応えがありそうだ」


 ギラリと瞳に映る狂気と闘争本能。それを感じたオーク達は怯えたように一歩下がった。こんな人間は今まで見たことがない。自分達のことを恐怖の対象や敵としてではなく、食糧として見ている。


「さぁ…楽しませてもらおうかっ!!」


 その怯えで生じた隙をミオは見逃さなかった。一瞬の内に詰め寄り、刀を振るう。それだけで十数体のオークが両断され、辺りに血や臓物が飛び散った。ミオの勢いは止まらず次々にオーク達を物言わぬ肉塊に変えていく。怯んだことで初動が遅れてしまったオーク達は、その時点で敗北が決定していた。


「ブモォォッ!!」

「…ふんっ」


 仲間が大勢殺され、怒り狂ったオークキングが棍棒を振り上げた。当たれば華奢なミオの身体などたちまちミンチにしてしまうであろう攻撃だが、ミオは鼻を鳴らして冷静に避けた。ドズゥンッと地面を叩き割った棍棒だが、ミオはもうそこにはいない。隙を突いてオークキングの背後に回り込んでいた。隙を晒した上にミオを見失ってしまったオークキング。勝敗は決した。


 _ズパァンッ!_


 ミオの刀がオークキングの脇腹部分を斬り裂いた。おびただしい量の血が噴き出し、腸が飛び出る。絶命したオークキングが膝をつき、その場に倒れ込んだ。


「ふふん、いっちょあがり。大量大量♪」


 一仕事終えて上機嫌なミオは刀を鞘に戻した。その際、オーク達の返り血が付いた指をぺろりと舐める。その一口だけで舌に広がる甘美、そして痺れるような多幸感に恍惚とした表情を浮かべる。


「はぁ、最高…!」


 頬に手を当てうっとりした様子のミオは、自身が狩り尽くしたオーク達をどのように調理するか考え始めるのだった。











・神楽坂ミオ

 本作品の主人公。ひょんなことから女子高生の身体に憑依してしまった元男性。つまりTS主人公。

 ”退魔士”というエロゲーなどでよくある設定の職についている。妖魔と戦うこと、そして食すことに強い喜びを感じている。詳しい話は次回。

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