【2話】異世界転生とオークと
俺は覚悟を決め仮面と上着に手を伸ばし、見えづらくなった鏡の破片で耳や肌が隠れているか細かく確認をして深呼吸をし、ドアノブに手をかけた。
そこにはまるで騎士のような見た目をした短い黒髪の背が高い男が立っていた。
男は俺に目線を合わせるように顔を少し上に向けこちらを向いていた。
180は超えていないか? こいつですら背が高いのに俺はもっとデカいのか、無駄にデカすぎるだろこのオーク……と俺は考えていた。
男は何も言わずにただ見つめていた、俺は気まずさから目を合わせないようにしていた。
しばらく沈黙が続いた後、男はただ淡々と
「着いてきてくれ」
とだけ言って歩き出して行った、俺を待つ事もなく段々と姿が見えなくなっていく男に俺は慌てて着いて行った。
空っぽで何も無い小さな小屋はあっという間に見えなくなっていった。
せっかくの異世界転生しかもハーレムだというのに俺の気分は下がっていくばかりだった、不安しかない状態で俺に一体何が待ち受けているのか。
これの何がハーレムなんだ何故オークなんだ、悲鳴のキャーが欲しいわけじゃないんだぞと邪神を呪った。
しかもなんで最初に出会うのが可愛い女じゃなくて野郎なんだよ、何も喋らないし気まずくて仕方がなかった。
俺は何とか話題を必死に考え、ふと自分以外にも人外がいるのかと気になって男に聞いてみた。
「あの......この世界って人外......じゃなくて人以外の存在っているのでしょうか?」
男はピタリと足を止めこちらを振り返らずに静かに聞き返した。
「何故そのような事を?」
男からの返答はあまりにも単調で無感情で生気を感じられなかった、その声色からは俺とは話したくないのでないかと冷たさすらも感じられた。
俺は緊張して背筋がピーンと伸び、必死に次の返答を探していた。
この世界に来てまだ呼吸の仕方しか分からない今の俺は赤ちゃんよりもか弱いというのに、結局俺は何も言えず黙ってしまった。
最悪だ、何か言わないとダメなのに、そう考えるほど焦ってしまい何も浮かばなかった。
男は静かに口を開いた
「人外? という存在は知らないが魔物はもう存在しない──俺が全て斬り殺した」
と男は確かにそう言った、血の気が引いていく、今の俺はオークだ、もしバレてしまったら今この場であっさりと殺されてしまうのだろうと、パニックになりかけていた。
男は振り返りゆっくりと俺に近づき、冷めきった暗い青い瞳を向け先程よりも更に冷たい声色で
「再度聞こう、何故そのような事を?」
心臓が飛び跳ねそうになり世界が真っ白に見える程、俺は焦っていた殺される殺されるこんなすぐに死にたくないと、先程よりも必死に頭を働かせていた、咄嗟に俺は後ろを指さし
「ず、ずっとあの小屋で引きこもっていたので......何も知らなくて、す、すみません」
何とか考えを絞り出したせいで声と指は震えていた。
しかし男はそれについて追求する事もなく、淡々と
「そうか、君とは確かにあの小屋で初めて出会ったな」
とだけ言ってまた前を向き歩き出した、なんの事だか分からなかった、まるで昔に会ったことがあるような言い回しだった。
もしかして俺の知らない記憶があるのかとまたしても頭を悩ませた。
それからしばらく歩いて大きな城らしき建物が見えてきたところで男は口を開いた
「そういえば名前を聞いていなかったな」
名前? 生前の名前なんて覚えていない、というより何故か生前の記憶が一切思い出せなかった。
あまりにも適当すぎるがオークだし反対から呼んで「......クオです」
と俺はたった今、命名した、それを聞き男は
「ノアでいい」
とだけ言って城の中に消えて行った、俺は重い足取りでノアに続き城に入って行った。
外観も立派だったが内装もとても広く、どこを見ても汚れていなくて眩しさすら覚えるくらいピカピカに光り輝いていた。
入ってすぐに出迎えてくれたのは大きな階段やおそらく各々の個室であろうドアが複数確認できた、まさに転生物の城のようで、ただただ圧巻して見とれていた。
すると突然可愛らしい女の声で
「おかえりなさいませ、ノア様」
と一礼をし、ノアからマントを受け取り会話をしていた女がいた。
女は俺に気がつくとニコッと笑って一礼をした。
か、可愛すぎる、ふんわりとした肩までかかるその淡いピンクの髪に触れたいとさえ思えた、やっぱり異世界はこうでないとな、と先程とは嘘みたいに元気になっていくのを感じた。
女は俺に向かって
「初めましてクオ様、私はエーリヤ・ルドゥリスと申します、エーリヤとお呼びください」
エーリヤは自己紹介を終えると、黒いドレスのようなワンピースの裾をつまみぺこりとお辞儀をした。
全てが可愛いと思うと同時に激しくノアに嫉妬が芽生えてきた、こんな可愛い女とどういう関係なんだ、やっぱり顔が良い奴は何でも持ってていいよなとノアをこっそりと睨みつけた。
そんな俺にお構い無しにノアは口を開いた。
「これからはクオ殿の従者として仕えてくれ、僕の事は一切関与しなくていい」
エーリヤは驚いていたが何も反論はせずに
「......承知いたしました」
とても悲しそうに頷いていた、やっぱりオークである俺なんかよりイケメンの方がいいよな......エーリヤの悲しそうな反応を見て俺まで悲しくなった。
にしてもこんな可愛い子が仕えてくれるなら普通、喜んでずっと傍に置いておきたくなると思うけどな、やっぱり俺はこいつの事が理解できない分かり合えないと悟った。
ノアはそれ以上は何も言わず階段に上り奥の部屋へと消えて行った。
エーリヤはノアの姿を見届けてから俺に振り返って
「とりあえず、クオ様をお部屋に案内いたします、お疲れでしょうからしっかりお身体を休ませてください」
エーリヤはそう言うと階段に上らずに奥の部屋へとゆっくりと歩いて行った、それに続き俺はエーリヤの少し後ろに続いて行った。
少し歩いて他の部屋と比べ離れた場所にあるドアの前でエーリヤは止まりドアを開けた。
置いてある物は似てはいたがあの小屋とは違って、しっかりとした作りの机と椅子、そしてベッドには見るからに柔らかそうな布団と枕がそこにはあった。
エーリヤは一礼をしてから
「それでは私はこれで......これからよろしくお願いします」
と言いドアを閉めて行った、色々考えたい事はあったが俺は吸い込まれるかのように布団に倒れ込んだ。
ふかふかの寝具に包まれ寝るには早すぎるくらい空は明るかったが今までの疲れからか、俺はあっという間に眠りに落ちた。
空は雲一つもなく晴れ、日差しは包み込むように優しく暖かくそれでいて眩しすぎていなくて、そんな素晴らしい日だというのに、群衆の声は悲鳴や懇願の声で騒々しい、俺はぼんやりとその場に立っていた。
ふと周りを見るとノアが剣を握り震えていた、その剣には血が付着し垂れ落ちていた。
その下で誰かが地に這いつくばり一切動く事は無く、首からは大量の鮮やかな血を垂れ流していた。似つかわしくない君には笑顔でいてほしい......あれ? 何を言ってるんだ俺は?いやそもそも......何で、何でエーリヤが死んでいるんだ。




