小さな古臭い本屋での話。
本屋に行った。別になんて意味もなかった。ただ本が読みたくなっただけだった。
「おや、お客さん見ない顔だね」
適当に目に入った小さな古くさい本屋で、棚に並べられた本の背表紙をなぞりながらどの本を買おうか迷っていた時、店の店主らしき雰囲気をまとった老いた男に話しかけらた。
あぁ、この本屋は店長が話しかけてくるのか。まるでアパレル店員みたいだな、なんて少しだけがっかりした。
「まぁ、はい。ここには初めて来ましたから」
「そうかい。もうお客さんみたいな若い人はこんなところに来ないと思ってたから少し嬉しいよ」
その男は悲しげにそう言った。まぁ若い人はみんな駅前にあるような本屋に行くもんだよな、と納得する。
「すまないね。もうここ最近は顔見知りの常連みたいな人しか来なくってね。それも全員が五十歳はゆうに超えてるもんだから、つい話しかけてしまったよ。ちなみにお客さんは何をやってる人なんだい?」
「学生です」
「おぉ、そうかい。そんなに若かったとは……それで、どんな本を探してるんだい?……悪いけど勉強の本とかはあまり入れてないなぁ」
「いや、特には決まってないです。ただ、いいのがあったら読みたいと思って」
「そうかい。珍しいね。最近の若い人はなんでもスマホで済ませるのかと思ってたよ」
「そういう人も多いですよね」
「うんうん。今の若い人たちがそのまま成長してしまったら、紙の本なんていらない時代が来てしまうかもしれないね」
私はハッとしてその店主の視線の先を見た。店主は私と話しながらも私を見てはいなかった。店主は私が指でなぞっていた本の背表紙達を愛しげに、寂しげに見ていた。
「紙の本には歴史が宿る。なんてのが持論だったんだけどね。もうそろそろ通用しなくなっちゃったな。こういうこと聞くのはやぼかもしれないけれど、お客さんはなんで若いのにこんな古本屋に本を買いに来てくれたんだい?」
私は黙った。しばらく考えるフリをした。店主の見ている本を見ていた。
「本が好きだからですかね。好きなんですよ、匂いが。スマホでも読めるかもしれないけど、スマホからは本の匂いなんてしてきませんから」
「そうかい。私も本の匂いが好きだよ」
店主はそう言った。私はその時の店主の顔は見なかった。私の視線は既に本棚の本に向いていて、そのまま1冊を抜き出した。
そこでようやく店主を見ると店主は柔らかな笑みで私を見ていた。
「これ、買います」
「はいよ」
そう言ってカウンターに向かう店主の背を追いながら、これから買う本のことを私はきっと忘れないのだろうと思った。




