表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/24

確率を縫う影

前線宙域。

沈黙のような揺らぎが、艦の外装を撫でた。情報次元の“空気”が、微かにさざめいている。


僕はそれを“予感”と呼ぶしかない。

だがその正体は、確かに――“未来”だ。


「接触警戒レベル2、周波数軸に乱れ!──何かが来るぞ!」

ブリッジの通信士が、慌ただしくモニターを切り替える。

その声に重なるように、センサーに無数の“尾”が現れた。


連合軍量産機〈シェイド〉の編隊。

降着流星の群れを模すように、静かに、確実に落ちてくる。


黒い機体群が描く弧線。

そして、最初の一機が確率固定弾を放つ――


“沈黙”だった。

命中音もなければ爆発もない。ただ、その場所から、音が、光が、未来そのものが消えていく。


波紋のように拡がる無音の干渉波。

観測ノードの応答が次々と凍結していき、戦術画面がホワイトアウトしていく。


「観測層、局所凍結。通信断裂が始まってます!」

別の通信士が叫んだ。制御盤のキーを激しく叩く。


「パスファインダー小隊、即時シャント展開! 広域防御パターンD-12へ!」


それは艦長席の横にいた戦術副官が出した命令だった。

リリアは黙って機体の反応速度ログを睨み、応答データを冷静に処理している。


彼女は“戦いの裏”を見ている。

だが、僕の目には“それでも追いつかない”ことが見えていた。


確率固定弾。

本来は確定した未来の軌跡を“固定”し、敵の動きを予測通りに制限するものだ。

けれどシェイドの弾頭は、まるで逆だった。選ばれた未来ではなく――“選ばれなかった可能性”を塗りつぶしていく。


視界の中で、無数の未来が断ち切られる。

誰が、どこで、どんな風に死ぬのか。

全部、等しく“あり得る”こととして僕の中に流れ込んでくる。


「再構築まで三十秒!」


その三十秒が、どれほど長い時間なのかを、僕はよく知っている。

それは、千の未来を観て、千の死を通過するだけの時間だ。


脳裏に焼きついた軌道の軌跡。

目の前の宙域が、千通りに枝分かれしていく。

そのすべてに、誰かの死が貼り付いていた。


喉が焼けた。呼吸が乾く。

僕だけが見ている、この“未来の灰”に、誰も気づかない。


そして次の瞬間、また別の揺らぎが背後から、冷気のように忍び込んできた。


シェイドとは違う、もっと深く、濃い、確率の歪み。

それが僕の内側で、ゆっくりと脈動する。


「――来る」


誰もその意味を問わない。

リリアがちらりと僕を見た気がするが、すぐに視線を戻した。

彼女には“視えない”からだ。

けれど、僕にはわかっていた。


これはただの戦闘じゃない。

誰かが、向こう側から“観測の壁”を揺らしている。


ヴァリアント・シュレーディンガーの起動準備灯が、赤から黄へと変わった。


これは予兆。

僕が、また未来を選ばされる時が来たという証拠だ。


コクピットへと向かうリフトが静かに降下してきた。


未来はもう、すでに始まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ