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年表追補:開戦直後の情報戦

量子世紀史料庫・可変編纂室 追補前書き


本追記は、既に編纂した本資料への補遺として、QC0070~QC0075「開戦直後の情報戦」を追加記述する。観測ログ、灰色域の市民証言、比喩層アーカイブ、日常記録を突き合わせ、砲声ではなく語彙から始まった戦の輪郭を補強した。観測は同時に編集である――この前提のもと、“観測防壁”と“自由位相”、短命な“確率窓”、二重符号の“可逆プロパガンダ”、儀式化された“確率免疫”を、剥がし切れない比喩ごと保存する。

開戦直後の情報戦(量子世紀0070~0075)

量子世紀0070年(開戦年)

● 0070年2月:開戦宣言と同時に情報戦ドクトリン発効

○ 地球統合政府軍(以下「統合」)は「観測衛生宣言」を布告。量子ネットワーク全域に“観測防壁(Q-Firewall)”を展開し、重要回線を**確率固定(存在確率の揺らぎを最小化)で防御する。

○ 独立星系連合(以下「連合」)は「自由位相プロトコル」を発動。辺境ノード経由で分散型ミーム伝搬網を起動し、統合の観測固定を“停滞”として批判するメッセージを拡散。


● 0070年4月:初の広域認知攪乱事件(非公式)

○ 両陣営とも低出力・非戦術級の観測位相攪乱子(通称「マイクロ概念散乱」)を試験投入。超重情報実体弾と同じ原理系統(概念崩壊の前段に相当)だが、出力を抑え“スモッグは発生させない”運用。前線周辺の市民に軽度の時間感覚のズレや記憶の断片化が散発。公式発表は「ストレス起因の集団症状」。


● 0070年6月:プロトコル〈カーテン〉/オペレーション〈アンダーカレント〉

○ 統合:主要アーク・ステーションに情報検疫ゲートを常設し、未署名の量子パケットを“確率観測未達”として廃棄(プロトコル〈カーテン〉)。

○ 連合:芸術・娯楽チャンネルに概念シードを混在させるオペレーション〈アンダーカレント〉**開始。明示的プロパガンダを避け、**物語・音楽・広告の“比喩位相”で価値観をずらす。


● 0070年10月:民間“確率安全教育”の義務化(統合圏)

○ 義務教育・企業研修に「確率リテラシー」**が追加。誤情報対策アプリ(家庭用観測端末)の配布が始まる。



量子世紀0071年

● 0071年3月:ネットワーク両断の試みと“灰色域”の発生

○ 統合が外縁ノードの一部を遮断。連合は中継用ネクサス・ハブから**“位相跳躍メッシュ”を敷設し、検閲回避ルートを新設。結果、検閲下でも真偽不明情報が滞留する“灰色域”が拡大、民衆の不安定化が進む。

● 0071年8月:存在倫理条約の“抜け道”を巡る応酬

○ 記憶・自己認識の直接改竄は禁止(2360年条約)だが、両陣営は「環境的誘導(間接的概念圧)」「比喩注入」などグレー運用を拡大。民間では睡眠障害・既視感の多発**が報告される(公表は限定)。



量子世紀0072年

● 0072年1月:局地“確率窓”作戦

○ 前線宙域で、短時間だけ確率分布を有利化する**“確率窓”**を各陣営が開く。戦果は限定的だが、民間航路の時刻同期に遅延が生じ、生活の“ズレ”が社会問題化。


● 0072年9月:連合の“第二観測宣言”

○ 「確率は資源でなく権利」を表明。志願兵・研究者の流入が加速し、少数精鋭の情報部隊が整備される。



量子世紀0073年

● 0073年4月:統合“観測税控除”と動員宣伝の高度化

○ 市民が観測衛生プラットフォームへ協力(誤情報報告・検証)すると税控除。同時に徴兵・動員広告が“家族と日常の防衛”を強調する情緒訴求に移行。


● 0073年12月:民生AIの逸脱挙動が局所的に顕在化

○ 連合側の概念シードと統合側の観測固定が干渉し、家庭AIの過剰自己検閲/逆に過剰冗談化など**軽度の“狂い”**が話題に。公式には「ソフト更新不具合」。



量子世紀0074年

● 0074年5月:メディア二層化の固定化

○ 統合圏は公認チャンネル中心、連合圏は分散チャンネル中心に固定。相互の可視性が低下し、分断の自己強化ループが始まる。


● 0074年11月:前線コロニーで“概念疲労症候群”

○ 長期曝露地域で**意味論的倦怠・象徴反転(縁起物が不吉化など)**が報告。エントロピー・スモッグは未確認だが、同系統の低出力攪乱が背景と推測される。



量子世紀0075年

● 0075年2月:対民間“確率免疫”キャンペーン(統合)

○ 儀式化された日常ルーティン(決まった時間の共同体操・同時挨拶・同期音楽)で観測基準を合わせる大衆プログラム。生活は安定するが、多様性の減衰が副作用。


● 0075年9月:連合“可逆プロパガンダ”

○ 受け手の文脈に応じて意味が反転する二重符号メッセージを本格運用。検閲をすり抜けつつ、少数でも高リテラシー層へ深く浸透。

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