人類の年表:時系列説明
量子世紀史料庫・可変編纂室 序文
本年表は、QC0001~QC0107にかけて収集された観測ログ、灰色域の市民証言、比喩層アーカイブを横断的に再構成したものである。
記述は中立を旨とするが、観測されること自体が事象を偏らせるという量子世紀の条件から自由ではない。
ゆえに私たちは、確定した出来事だけでなく、検閲をすり抜けた物語、儀式化された日常、そして“エントロピー・スモッグ”の手前で生じた違和感も、史実の周縁として残す。
この文書の正確さは、読むあなたの視点と疑いによって更新される。どうか観客ではなく、観測者としてお入りいただきたい。
古きき良き時代:発展と拡散の世紀(21世紀~22世紀後半)
● 2050年: 環境変動と資源枯渇が深刻化し、地球規模での大規模な紛争が頻発。
● 2070年: 恒久的宇宙居住施設の建設が開始される。各国が協力し、初の大型スペースコロニー群が地球軌道上に建設される。
● 2100年: 国際協力体制の下、地球統合政府が発足。地球圏の統治と資源管理、宇宙開発を担う。
● 2120年: 月面都市、火星テラフォーミング計画が本格化。人類の生活圏が太陽系全体へと拡大。
● 2150年: 量子コンピューティングの基礎理論が確立され、情報技術が飛躍的に発展。社会のあらゆる側面がデータ化・ネットワーク化される。
● 2180年: 太陽系外縁部に、地球統合政府の管理から独立した自由な思想を求める開拓者たちが移住を開始。独自のコミュニティを形成し始める。これが後の独立星系連合の萌芽となる。
摩擦の時代:情報革命と理念の乖離(23世紀~24世紀前半)
● 2200年: 量子ネットワーク技術の確立により、太陽系全域を網羅する超高速情報網が完成。これにより、**「情報次元」**という概念が理論化され始める。
● 2250年: 地球統合政府が、情報次元の安定と秩序的な利用を目指し、厳格な情報管理と既存の「現実」を維持する政策を強化。一方、外縁部の開拓者コミュニティは、情報次元の「可能性」を最大限に引き出す自由な探求を志向し、独自の技術発展を進める。
● 2300年: 「情報次元兵器」の概念が誕生。当初は情報撹乱やサイバー攻撃が主だった。統合政府は情報防御技術を、連合は情報干渉技術をそれぞれ独自に発展させる。
● 2330年: 両陣営間で、初期の情報次元兵器を用いた小規模な衝突が発生。従来の物理的な戦闘に加え、情報ネットワークへの攻撃が戦術の主流となる。
● 2350年: 「存在確率」という概念が情報次元科学において提唱される。物質や現象の「存在」が、情報次元的に操作可能である可能性が示唆され、兵器開発に革命的な影響を与える。
● 2360年: 両陣営が、互いの情報次元兵器開発競争に歯止めをかけるため、「存在倫理条約」を締結。記憶や感情、自己認識の直接的な改竄を目的とした兵器の開発・使用を禁止する。
確率戦争の萌芽:兵器進化と概念への挑戦(24世紀後半~量子世紀0100年)
● 2380年: 地球統合政府が、人間の直感と「概念共鳴」を兵器にフィードバックする**「ヴァリアント・プロジェクト」を開始。未知の領域である情報次元の「不確実性」を乗り越える試みが始まる。
● 2390年: 独立星系連合が、情報そのものを物理的に破壊する「超重情報実体弾」の研究に着手。同時に、対象の「存在確率」を操作する兵器の開発も進める。
● 2400年(量子世紀0001年): 人類が宇宙生活を普遍的なものとし、新たな時代を「量子世紀」と改元。
● 量子世紀0050年: 統合政府のヴァリアント・シリーズと、連合のファントム・シリーズの試作機が完成。性能試験が開始される。
● 量子世紀0070年: 「存在確率固定兵器」の実戦投入が開始され、戦場の様相が一変。従来の物理的な攻撃だけでなく、敵の「存在」そのものに干渉する戦術が主流となる。この時期から、人類は本格的な「確率戦争」**の時代へと突入する。
● 量子世紀0085年: 「超重情報実体弾」の初期実験が行われ、制御不能な「情報次元汚染」が発生。甚大な空間汚染「エントロピー・スモッグ」が確認される。これを受け、「情報次元宙域安全保障協定」が締結され、汚染宙域での無差別な兵器使用が制限される。
● 量子世紀0090年: 統合政府、連合双方で、情報次元の根源的な研究から、「ゲートキーパー」の存在が示唆されるようになる。その脅威を前に、「確率観測データ共有プロトコル」が限定的に結ばれる。
● 量子世紀0100年: 「確率戦争」は膠着状態に陥り、両陣営は互いに決定打を欠く状況となる。
現在:物語の始まり(量子世紀0107年)
● 量子世紀0107年: 物語が始まる。地球統合政府は情報次元兵器の飽和攻撃に対抗するため、人間の直感と「概念共鳴」能力を最大限に引き出す新型機動装甲ヴァリアント・シュレーディンガーをロールアウト。独立星系連合は、来るべき最終決戦に備え、秘密裏に情報次元兵器を搭載した次世代機動兵器ファントムの開発を進めていた。アレス・カイン、ゼファー・クロスたちの戦いが、この時代に幕を開ける。