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双極幻獣  作者: スカイ
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偽光




幼い主人公の家に、闇が忍び寄った。

夜の静寂を引き裂く両親の叫び声。


「やめてくれ…!」


異形の“悪魔の使い”が襲いかかり、家族の幸福を蹂躙する。


母は血を流し、父は必死に幼い彼を守ろうとしたが、無力だった。

主人公は恐怖に凍りつき、声も出せなかった。


全てが終わった時、血まみれの両親の間で彼は震えながら泣いていた。





その後、親友リオの一家に引き取られた主人公。

リオは破天荒で明るく、時に兄のように彼を叱り、時に無茶な行動で引っ張った。


「もっと自信持てよ。俺がついてる」

そう言って、いつも背中を押すリオ。


主人公は落ち着いていて、自信なさげだが、リオの存在が心の支えだった。





10年後、二人はボーダーの入隊試験に挑む。


筆記試験、傀儡戦を通過し、いよいよ1対1の実技試験。





リオは炎を拳に纏い、主人公は影を帯のように鋭く操る。


だが主人公は戦いを拒む。


「リオとは戦えない…お前はもう十分強い」


リオは怒りながらも、「戦えよ、俺のことを舐めるな!」と迫る。





その時、氷室静馬が現れる。


「戦う意志のない者に、ボーダーの資格はない」


氷室が放つ冷気が周囲の水分を凍らせ、鋭利な氷の柱や刃が試験場を支配する。


主人公は影に潜り込み、氷の刃や柱を避けながら、鋭い影の帯で氷室の攻撃を切り裂く。


リオは炎の拳で氷を溶かしながら突進し、一瞬の隙を作り出す。


二人の連携攻撃で、氷室の頬をかすらせた瞬間、氷室は初めて驚きを見せる。


「合格だ」


冷気が解け、静寂が戻る。



その日、兄弟のような二人の絆は確かに強まった。






試験を終えた受験者十数名の前に、ボーダーを率いる六人の隊長たちが姿を現した。



第1隊隊長:氷室ひむろ 静馬しずま


寡黙で冷静沈着な男。

水分を凍らせて氷を生成・操作し、空間ごと凍らせるほどの圧倒的な力を持つ。

常に理性的で、仲間の安全を最優先に考え、任務に厳格に取り組む。



第2隊隊長:狩屋かりや 黒苑こくえん


狂気的な天才。

脳を100%活用し、高速思考と戦術予測で敵の一手先を読む。

論理に基づく独特な正義感を持ち、常識にとらわれない判断を下すことも多い。



第3隊隊長:焔堂えんどう 烈火れっか


熱血漢で義理堅い性格。

自傷を代償に強力な炎を生み出す攻撃特化型で、戦場に火の嵐を巻き起こす。

仲間想いだが、その危なっかしい戦い方が周囲をひやひやさせることも。



第4隊隊長:久遠くおん ひとみ


マイペースでギャンブル好きな男性。

未来視の能力を持つが、審査などの公式行事にはほとんど顔を出さず、副隊長に任せて自身は競馬場にいることが多い。

戦闘では冷静に未来を読み、必要最低限の行動で結果を出す自由奔放な実力者。



第5隊隊長:七星ななほし 理玖りく


無慈悲な処刑人であり、任務至上主義を徹底する孤高の存在。

異空間ゲートを自在に操り、空間操作を駆使して敵を包囲・封印し、迅速かつ的確に処理する。

冷徹な判断力を持ち、仲間に対しても一定の距離を保ち、感情を抑えて任務遂行に専念する。

必要とあらば手段を選ばず、敵に対しては容赦なく、ボーダーの中でも恐れられる存在である。



第6隊隊長:電堂でんどう じん


明るく兄貴肌でムードメーカー的存在。

雷を帯電・生成し、その高速移動と強力な雷撃で戦場を駆け回る。

戦闘時は冷静かつ戦略的な判断力を発揮し、仲間の士気を高めリーダーシップを発揮する。

彼の明るさの裏には、仲間や世界を守る強い使命感と責任感が隠されている



ボーダー隊長合格審査シーン〜合格通知〜主人公の旅立ちと再会


薄暗い会議室の長テーブルを囲み、六人のうち五人の隊長と、第4隊の副隊長が集まっていた。久遠隊長は競馬場へ行っているため欠席だ。和やかな雰囲気の中、合格者の話題で盛り上がっていた。


氷室静馬(淡々と)

「今回の試験は例年以上に厳しかった。あの影の使い手、主人公は予想以上の動きだったな。」


狩屋黒苑(ニヤリと笑いながら)

「影の動きは予測不能でやっかいだ。今後の戦いでどう活躍するか楽しみだ。」


焔堂烈火(拳を叩きつつ)

「リオの炎は熱いぜ!ぶっ飛んだ性格だけど、戦場を盛り上げるにはピッタリだ。」


第4隊副隊長(丁寧に)

「隊長は競馬場にいますが、私が代理で参加しました。主人公は我々第4隊に配属予定で、その冷静さは隊の戦力になるでしょう。」


七星理玖(笑顔で)

「リオは氷室隊に入る。あの明るさと力は、氷室隊の士気を高めるはずだ。」


電堂迅クールに

「主人公はまだ内に秘めた感情が見えるが、冷静さは確かだ。久遠隊のカラーに合うだろう。」


氷室

「合格者は十数名に絞られた。音を使った攻撃や、受けたスキルを即座にカウンターする者、そして言霊を操る者もいる。多様な力が揃った。」


狩屋

「音波操る者は敵の動きを封じるのに優秀だ。カウンター持ちは非常に頼もしい。言霊使いは精神面での揺さぶりに強力だ。」


焔堂

「皆、個性的で力強い。これから共に戦う日が楽しみだ。」


七星

「リオと主人公、両者の配属先が決まった。彼らの成長を見守ろう。」


電堂

「冷静に選別した結果だ。異論はない。」


隊長たちは互いに頷き合い、合格者リストに名前を書き込みながら、これからの任務を思い描いていた。


――――――――――――


数日後、主人公とリオは共に暮らす家の居間で、ボーダーからの合格通知と配属先の正式な手紙を受け取った。


リオが手紙を開き、氷室隊への配属を喜ぶ一方、主人公は自分の配属先が久遠隊と知って少し落ち着かない様子で手紙を見つめていた。


主人公

「リオ、俺たち…別々の隊なんだな」


リオ(明るく笑いながら)

「まあな。でも気にするなよ!違う隊でも一緒に頑張ろうぜ。どんな距離になっても兄弟だろ?」


主人公はリオの言葉に少し笑顔を見せ、肩を叩かれる。


主人公

「そうだな。俺、ちょっと不安だったけど、リオがそう言ってくれるなら心強いよ。」


リオ

「そうこなくちゃ!これからもっと強くなって、また一緒に戦うんだ。俺たち、最強の兄弟になるって約束だ!」


二人は拳を合わせ、未来への決意を新たにした。


――――――――――――


翌朝、主人公は静かに身支度を整え、旅立ちの準備をする。


リオ

「おう、準備はできたか?久遠隊に行くんだな。道中気をつけろよ!」


主人公はわずかに微笑みながら頷いた。


主人公

「ありがとう。これからが本当の戦いだと思う。」


荷物を背負い、主人公は玄関の扉を開けて外へ踏み出した。


都会の喧騒を抜け、久遠隊の支部があるビルへと向かう。支部の中は静かで緊張感が漂っていた。


中へ入ると、見覚えのある顔があった。先日の試験で共に戦った言霊使いの豹画ひょうがだ。


豹画(気さくに)

「ああ、主人公。久遠隊に配属されたんだな。ここでまた会えるとは思わなかったぜ。」


主人公(少し驚きながらも)

「豹画か。お前もここにいるのか。よろしく頼む。」


豹画

「いやあ、久遠隊は独特だぜ。隊長の久遠瞳はマイペースで、ギャンブルに夢中だから、任務の割り振りとかは副隊長がやってるんだ。」


主人公(苦笑しながら)

「そう聞くと少し心配になるな。でも副隊長がしっかりしてるなら安心か。」


豹画

「俺も最初は戸惑ったけど、ここは個性を尊重する雰囲気が強い。隊長が競馬に行ってる間も、俺たちはちゃんと訓練してるから安心しろよ。」


主人公

「そうか。俺もここで強くならなきゃな。リオとは別の道だけど、俺なりに頑張るよ。」


豹画(軽く笑いながら)

「お前は影を操る特異な力を持ってるからな。使いこなせば無敵だぜ。ただ、力を制御できないと自分が壊れるかもしれないから気をつけろよ。」


主人公(真剣な表情で)

「わかってる。今はまだ怖いけど、いつかこの力を完全に掌握してみせる。」


豹画

「おう、期待してるぜ。一緒に隊を盛り上げていこうな!」


主人公は深く頷き、静かに決意を胸に刻んだ。



了解です!

名前を「風間かざま はやと」、スキルを「風操作」に変えて、先ほどのギャグシーンに反映します。





久遠隊長と副隊長のやり取りに、他の隊士たちが顔を見合わせ、ついに口を挟んだ。


副隊長(激怒)

「おい!何言ってるんですか隊長!今、重要な話をしていたんですよ!」


久遠隊長(涼しい顔で)

「いいんだよ。競輪で勝てば士気が上がるってものさ。」


烈川れっかわ ごう

「隊長、それでいいんすか?こっちは訓練でヘトヘトですよ!」


水無月みなづき 琴音ことね

「訓練後に競輪は……正直体力持ちませんよ。せめて説明をもう少し…」


風間かざま はやと

「俺は競輪興味ありますけどね!隊長が勝ったら祝杯あげましょうよ!」


副隊長(あきれ顔で)

「……まあ、隼君は楽しみそうですね。でも今は真面目に任務の話を…」


久遠隊長(笑いながら)

「よし、じゃあ皆で競輪に行くのは後でな!まずは話をしてからだ!」


隊士たちはほっと胸を撫で下ろし、和やかな笑い声が広がった。


主人公は内心で苦笑しつつ、「こんな隊でも、やっていけそうだな」と感じていた。




街中の悪魔の使い出現と久遠隊の出動


街の中心部、ざわめく人混みの中に突如、異様な気配が走った。建物の影から黒い霧のようなものが立ち上り、不気味な影が蠢く。


通行人たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、騒然とした混乱が広がっていた。


――――――


久遠隊の支部。副隊長のもとに緊急出動の連絡が入る。


副隊長(厳しい表情で)

「皆、急げ。街中に悪魔の使いが現れた。被害を最小限に食い止めるために即時出動だ。」


隊員たちは素早く武装を整え、隊長不在の中、副隊長の指揮で車両や移動装置に乗り込む。


――――――


移動中、副隊長が隊員たちに向けて説明を始めた。


副隊長

「悪魔の使いとは、悪魔信者によって召喚・操られた存在だ。人間の形をしていることもあれば、異形の姿をしていることもある。彼らは悪魔の力の一端を受け継ぎ、強力なスキルを持っている。」


副隊長

「特徴としては、周囲の闇や混沌を増幅させる能力や、直接的な破壊力に優れ、普通のスキル使いでは対処が難しいことが多い。」


副隊長

「だからこそ、我々ボーダーが迅速に対応し、被害を食い止めなければならない。今回も油断せず、連携を最優先に動け。」


隊員たちは真剣な面持ちで頷き、準備を整える。


豹画(静かに)

「悪魔の使いか…。簡単にはいかない相手だな。」


主人公

「俺も…全力を尽くす。」


――――――


現場に到着すると、煙と瓦礫の中から禍々しい影が姿を現した。久遠隊の戦いが始まろうとしていた。


悪魔の使いが黒い瘴気をまとい、街中に禍々しい空気が満ちる中、久遠隊隊員たちは構えた。


主人公と豹画も覚悟を決めて前に出ようとしたその時、厳しい声が響いた。


副隊長

「待て!お前たちはまだ新人だ。まずは後方で状況を見守れ。」


久遠隊長(冷静だが威圧的に現れ、銀色の髪が逆立ち、目は白目のまま赤く充血している)

「俺が相手を引き受ける。下がっていろ。」


その異様な風貌に隊員たちは息を呑む。


久遠隊長の目はまるで何か別の存在が宿っているかのように、異様な光を放っていた。


隊長は片手を掲げると、空間が歪み始め、周囲の重力が狂いだす。


副隊長(少し心配そうに)

「隊長、無理は禁物です。」


しかし、久遠は振り返ることなく、悪魔の使いに向かって一歩一歩踏み出した。




悪魔の使いが瘴気を纏い激しく攻撃を仕掛けてくる中、久遠隊長は飄々とした態度で一歩一歩歩み寄る。


銀髪が逆立ち、目は白目のまま赤く充血し、その瞳は未来を見通すかのように鋭く光る。


戦闘の最中、隊長はポケットから細身の槍「時織り」を抜き放った。


刃は淡い青白い光を放ち、空間に一瞬時空の歪みを生み出す。


これは、彼の未来視能力を増幅し、敵の動きを先読みして攻撃を的確に決めるための専用武器だ。


悪魔の使いの攻撃を一瞬先に視て、避けるだけでなく、刃先で逆に攻撃の隙を突く。


久遠隊長(あくび混じりに)

「ふああ…まだ朝飯も食ってねぇんだが、さっさと終わらせて帰りたいもんだな。」


瘴気の渦巻く空間の中で、彼の槍が未来視で見通した一瞬の隙を突いて閃いた。


攻撃が繰り出されるたびに、刃は時空を裂くような軌跡を描き、敵に正確無比な一撃を浴びせる。


久遠隊長(軽口を叩きながら)

「おいおい、その程度の攻撃じゃ目を覚まさねぇよ。俺は競輪の予想で頭がいっぱいなんだ。」


周囲の隊員たちは、そんなマイペースさに冷や汗をかきながらも、隊長の実力に頼もしさを感じていた。



瘴気に包まれた街の廃墟、悪魔の使いは狂気じみた咆哮とともに猛攻を仕掛けてくる。


巨大な黒い瘴気の腕が空を切り裂き、地面は裂け、瓦礫が宙に舞う。


だが、久遠隊長は動じることなく、一歩一歩静かに距離を詰めていく。


銀髪は逆立ち、白目の瞳は赤く充血し、未来の断片を捉えている。


刹那の間合い、彼の専用槍「時織り」が淡い青白い光を放つ。


悪魔の使いの攻撃は未来視で見通され、正確無比にかわされ、逆に隙を突かれる。


「時織り」が切り裂く空間は、まるで時の流れを断ち切るかのように閃き、音もなく瘴気の腕を切断する。


悪魔の使いは慌てて再構成を試みるが、久遠は躊躇わずに仕掛けた。


彼の動きは滑らかで、未来視による先読みがあらゆる動作を完璧に補助する。


槍の先端が一瞬光を帯び、次の瞬間、鋭い一突きが悪魔の使いの胸を貫いた。


瘴気が炸裂し、激しい閃光とともに悪魔の使いは崩れ落ちる。


「終わりだ。」


久遠は淡々と言い放ち、肩の力を抜いて槍を収めた。


隊員たちは息を呑み、そして拍手が湧き起こる。


豹画が静かに言った。


「さすがだな、隊長。」


主人公も心の中で強く誓った。


「俺も、ああなりたい。」


静かな勝利の中、街に少しだけ平和が戻ったのだった。




特訓場は広大な地下施設で、様々な障害物や照明が設置されていた。


主人公は黒く深い影の中に身を沈め、まるで影そのものと一体化するかのように動く。


一歩一歩が静かで鋭く、しかしその動きには迷いが混じっていた。


副隊長の指示は明確だ。


「もっと素早く、もっと正確に。敵の目を欺くんだ。」


主人公は壁際から壁際へと影を伝い、見えない刃のような鋭い帯を繰り出す。


その帯は、対象に触れると鋭く切り裂く。


初めは失敗の連続で、帯は空を斬るだけだったり、目標をかすめるだけ。


だが、繰り返すうちに感覚が研ぎ澄まされていく。


「影の流れに意識を預けろ。自分の意思で形作るのではなく、影が動く方向を感じろ。」


主人公は深呼吸し、意識を影に委ねた。


その瞬間、影が勝手に帯となって敵の足元を斬り裂き、続けて敵の背後に回り込む。


「よし、その調子だ!」副隊長の声が響く。


特訓の最後には、模擬敵を想定した訓練が行われる。


敵の動きを読み、影に隠れて奇襲を仕掛け、そして影の帯で一撃必殺。


だが、まだ精神面での迷いが消えず、動きに自信がない。


そんな自分を自覚しながらも、主人公は拳を握り締める。


「俺は強くなる。絶対に。」


訓練場に響くのは、静かな決意の声だった。



支部の特訓場。


薄暗い照明が差し込む空間に、静かな緊張感が漂う。


久遠隊長は肩で風を切るように入ってきた。


「ふっふー、今日はパチンコで連勝したぜ。俺の運は絶好調だ!」


銀髪はいつも以上に逆立ち、赤く充血した瞳が不敵に輝く。


「さて、影の使い手よ。今日はお前の成長を試させてもらうぞ。」


主人公は影を背負い、闘志を燃やす。


「俺は…ここで負けられない。」


影が動き出す。壁、床、柱――影の帯が自在に伸び、宙を切り裂く。


静かな闘気が舞う中、主人公の影はまるで生きているかのように獲物を追う。


しかし、久遠は動じない。


槍【時織り】を手に、まるで呼吸をするかのように身構える。


「動きの先、影の先を見切る――それが未来視だ。」


主人公が影の帯を伸ばす瞬間、久遠の赤い瞳が閃く。


一瞬、時間が切り取られたかのように感じる。


【閃光の回避】


槍が影の帯を斬り裂く。


主人公の攻撃は、まるで風に払われる枯れ葉のようにあっさりと消えた。


「これが…未来視の力か…!」


しかし久遠は攻撃に移らず、わずかに首を傾げる。


「そんなもんじゃ、まだまだだ。」


彼の足元で、地面の影がうごめく。


不意に槍を振り上げ、影の帯を切断する。


次の瞬間、久遠の動きは加速する。


――【未来の先読み】を最大限に活かした動き。


主人公が繰り出す影の攻撃は、すべて封じられ、かわされる。


「速さも、鋭さも、隙も、すべて見透かされている。」


息を切らす主人公に向け、久遠は軽く嘲笑う。


「まだまだ鍛えが足りねぇな。だが、そこが面白い。」


「俺は影の中にいる。動きを読ませるわけにはいかない!」


主人公は影をさらに深く濃くし、空間を切り裂くように帯を伸ばす。


だが久遠は一歩も動かずに間合いを詰める。


「お前の影は、俺の未来に敵わない。」


一気に槍が伸び、主人公の影に触れたその瞬間、わずかに身体を反らせるしかなかった。


地面に膝をつき、主人公は初めて自分の未熟さを痛感した。


「俺はまだ、まだ…!」


久遠は肩をすくめ、にやりと笑う。


「いい顔してるぜ。だがな、この道は長い。俺だってずっと今の調子じゃねぇ。」


「だが、鍛えればお前だって俺に触れられるかもしれん。」


主人公は深く息を吸い込み、拳を強く握り締めた。


「いつか、必ず!」


闘志の炎が心の奥で燃え上がる。


久遠の瞳は鋭く光り、微かに笑みを浮かべた。


「期待してるぜ、若造。」


訓練場には、静かな覚悟と、未来への希望が満ちていた。



久遠隊守備区に緊急アラームが鳴り響く。


「まただ、悪魔の使いが三体も出現した!」


だが支部に現れた副隊長の表情は険しい。


「隊長は…今日も競馬場だ。ギャンブルに夢中らしい。」


重力使い烈川剛は拳を握りしめ、雷撃使い水無月琴音が冷静に指示を出す。


「残された俺たちで叩くしかないな。新人も頼むぞ。」


主人公は豹画と共に一体を担当することに決まった。


現場に急行すると、瘴気が重く垂れ込め、悪魔の使いは三体、禍々しい姿で現れた。





瘴気が揺らめく廃ビル街――牙を剥く悪魔の使いを前に、主人公と豹画は冷や汗をにじませていた。


「行くぞ、影使い。」

「――ああ!」


豹画の鋭い声が空気を切り裂く。


「動くな。」


悪魔の使いは一瞬、脚を止める。だがすぐに狂気を孕んだ咆哮とともに異常な膂力で動きを取り戻した。


「チッ、やはり浅いか!」


豹画はすぐに言葉を重ねる。


「吹っ飛べ!」


敵は宙を舞い、ビルの壁面に激突。砕けた瓦礫が降り注ぐ隙に、主人公は影を伸ばし、一気に間合いを詰める。


影の帯が鋭くうねり、突き刺さる――だが。


「遅い。」


敵の巨腕が防ぎ、弾かれた。主人公は咄嗟に影を引き、紙一重で回避する。


「速い…!」


豹画は言霊を続けるが、相手の耳を奪う余裕がない。悪魔の使いは叫び声で周囲をかき乱し、聴覚そのものを潰しにきている。


「聞かせさせてくれねぇ…!」


主人公は影の中を疾走し、敵の死角を狙う。豹画は瞬時に動きを止める短い指示を浴びせ続ける。


「止まれ!動くな!吹っ飛べ!」


そのたびに敵は一瞬動きが鈍るが、すぐに理性のない狂気で突き破ってくる。


「やばい……!」


主人公の影の帯も防がれ、豹画の言霊も聞かせられず、互いにじりじりと追い詰められていく。


悪魔の使いはその巨体に不釣り合いなほどの俊敏さで飛び込み、爪を振るい、瘴気を撒き散らす。


「影じゃ捉えきれない……!」

「言葉も通じねぇ!」


刻一刻と体力は削られ、呼吸は荒く、視界はぼやけていく。


その時――


「下がれ!!」


轟音とともに閃光が走った。


雷撃が悪魔の使いを貫き、続いて重力の奔流がその巨体を押し潰す。


「遅れて悪かったな!」


「ほらほら、派手にやってんじゃねえよ。」


烈川剛の重力波が悪魔の使いの足を止め、水無月琴音の雷撃が追い討ちをかける。


「やっと来たか……!」


豹画は息を切らしながらも笑みを浮かべる。


主人公も地を蹴り、影を戻しながら隊員たちの背に隠れる。


「助かった……!」


雷と重力、圧倒的な力を持つ久遠隊メンバーの猛攻で、悪魔の使いは次第に押し切られ、動きを止める。


「ここからは任せろ。」


豹画は膝に手をつき、苦笑する。


「いやー、マジで死ぬかと思ったぜ。」


主人公も汗を拭いながら、静かに次の戦いに備えるのだった。



悪魔の使いを討伐し、久遠隊の面々は支部へと帰還した。

待ち構えていたのは――やはり、あの人だった。


「隊長ォォォォォ!!!!」


副隊長・羽鳥彩葉はとり いろはの怒声が支部中に響き渡る。

顔を真っ赤にして、ギャンブルから帰ってきたばかりの久遠を壁際に追い詰めていた。


「なんであんたが現場にいねぇんだよ!? 新人が危なかったんだぞ!!」

「うるさいなぁ……結果的に大丈夫だったでしょ? 俺がいたら一瞬で終わってたし、むしろ成長のチャンスだったじゃん?」


久遠は銀髪をかき上げながら、ポケットに手を突っ込んで飄々と笑う。

足元には競輪のレシートが散乱していた。


「そういう問題じゃねぇ!!!」


羽鳥は頭を抱え、隊員たちも苦笑い。


「また始まったな……」

「ある意味これも平常運転か。」


日常のドタバタが戻ってくる。



その日の午後、主人公は黙々と訓練場にいた。


影を操り、何度も高速移動と攻撃の反復を繰り返す。

汗が額を伝い、息が荒れる。


「……まだ、動きが遅い。」


影の形を自在に変え、手足のように動かすイメージを何度も繰り返す。

まだまだ本物の戦闘には届かない――そう痛感していた。


その横を、豹画がスッと通り過ぎる。


「おっ、頑張ってんな。」


「お前は?」


「ちょっと私用だよ。たまには羽を伸ばさないと、死んじまうからな。」


豹画は飄々と手を振り、支部の門をくぐって消えていく。


「……私用、か。」


主人公は一人、影と向き合い続ける。

自分はまだ弱い――だから、進まなくてはならない。


空は夕焼けに染まり、影は長く伸びていく。


次の戦いのために、静かに、確実に――。



銀髪を無造作にかき上げる久遠瞳。

彼の眼差しはいつも通り眠たげで、やる気の欠片もない。


だが――


その瞳の奥底に潜む“深淵”を、主人公は肌で感じていた。


「お願いします。」


主人公は静かに構える。

影が足元からうねり、獣の尾のように揺れる。


「んじゃ、適当にいくか。」


久遠はポケットに手を突っ込んだまま、歩くような速度で歩み寄る。

その瞬間――


「!」


ゾクリと背筋が凍りつく。


ほんのわずか、久遠の銀髪が逆立ち、目にかかる髪の隙間から真紅の瞳が覗く。

空気が重く、世界が一瞬“ズレ”た。


「――!」


主人公は即座に影へと沈み、姿を消す。

影の中を滑るように移動し、背後から鋭く攻撃を放つ。


だが――


「甘いよ。」


久遠は無造作に左手を振るだけ。

“見えていた”。


影の帯は彼の指先で止められ、微かな衝撃波とともに弾かれる。


(…未来視…!)


主人公は即座に二手、三手を先読みし、立て続けに影を刃に変え放つ。

斬撃、刺突、分裂、足場からの奇襲――

自分の全てを叩き込んでいく。


久遠はそのすべてを“予知”し、涼しい顔で躱し、時に紙一重でいなし、反撃すらしない。


「影、面白いね。でも――」


次の瞬間、久遠の目が真紅に染まり、銀髪が逆立つ。


「そろそろ当ててみなよ?」


視界が、歪む。


ほんのわずか、久遠の足がズレた瞬間――

未来の“選択肢”が切り替わった。


主人公は咄嗟に影を足元に集中させ、防御に転じる。


「っ!!」


久遠は指先を小さく弾く。


時間が止まったような錯覚――その一撃は直接肉体に触れていないのに、次の瞬間には主人公の体が宙を舞っていた。


「がっ…!」


地面に叩きつけられ、肺から空気が漏れる。


「……やっぱ強いな、隊長は……」


主人公は息を整え、震える手で立ち上がる。

それでも――


「前よりは、ずっと良くなったじゃん。」


久遠はふっと微笑み、手を差し伸べる。


「いいね、影。次はもう少しだけ、本気でいくからさ。」


その笑みは相変わらずマイペースで、掴みどころがない。

だが、その背後にある“底なしの強さ”に、主人公は確かに触れたのだった。


空にはいつの間にか、薄く夕陽が差していた。


翌日――支部の訓練場。


「へぇ、見学? 意外と努力家なんだな。」

「……見て学ぶしかないから。」


主人公は、他の久遠隊メンバーたちの訓練を静かに見つめていた。


烈川剛れつかわ ごう【スキル:重力操作】

大地を軋ませ、足元から重力を増幅させて相手の動きを封じる。

「重力で足を止める……影も応用できるか?」


水無月琴音みなづき ことね【スキル:雷撃】

雷を纏い、瞬間的な加速と一点突破の攻撃。

「一瞬の加速――影の中の速度を上げれば……!」


羽鳥彩葉はとり いろは【スキル:空気斬】

空気を斬り裂く真空波。足を止めず攻撃を繋ぐ。

「影を“刃”だけじゃなく、“波”に……。」


◆ 風間 隼【スキル:金属創成】

瞬時に金属武器を創り出し、戦闘スタイルを自在に変える。

「影も“形”を変えることができる……なら――」


主人公の脳裏で、次々と新しい“可能性”が広がっていく。


「全部、盗んでやる。」


静かに、だが確実に、拳を握りしめる。



その夜――


人気のない訓練場。


影を伸ばし、収縮させ、形を変える。


――重力のように縛り付け。

――雷のように瞬間的に加速し。

――空気を裂くように波状の斬撃を走らせ。

――武器のように鋭利な槍や鎌を創り出す。


「っ、はぁ……!」


失敗と成功を何度も繰り返す。

汗でシャツが張り付き、息は白く揺らぐ。


それでも、手は止めない。


「強くならなきゃ――誰も守れない。」


影が変化し、鋭く伸び、絡みつき、刃となり、翼のように広がる。


自分はまだ未完成――だからこそ、誰よりも貪欲に“盗み”、成長しなければならない。


月の光に照らされた黒き影は、かすかにその形を変え始めていた。


灰色の空の下――支部訓練場。


「またやるんだってさ。」

「無理じゃね? 久遠隊長相手じゃ。」



隊員たちが見守る中、主人公は静かに立つ。

その表情は、以前とは違う。


「お願いします。」


久遠はあくび交じりに髪をかき上げる。


「いいよ、遊ぼうか。」



――開始。


その瞬間、影が爆ぜた。


◆ 一つ目――烈川剛の「重力拘束」

影を地面に這わせ、相手の足元を絡め取るように“重く縛る”。

久遠の動きをほんの一瞬、遅らせる。


「ほう……?」


◆ 二つ目――水無月琴音の「雷撃加速」

影が一瞬光を帯びる。

滑るようなスピードで久遠の死角へ回り込む。


久遠は首だけで視線を送るが――


◆ 三つ目――羽鳥彩葉の「真空波」

影が波状に広がり、空気ごと斬り裂く。

久遠の頬をかすめ、銀髪がふわりと散る。


◆ 四つ目――風間 隼の「金属創成」

影が鋭く変形し、鎌・鞭・斬撃へと姿を変える。


「!」


影の刃の一撃が、久遠の肩口を“かすった”。

ほんの、わずか――血が滲む。



「っ……!!」


隊員たちは思わず声をあげる。


「当てた……!? 久遠隊長に!?」

「いや、ありえねぇ……」


仲間たちの顔が驚きと興奮に染まる。

だが――



久遠は、微笑んでいた。


「――すごいね。」


銀髪がふわりと舞い、紅の瞳が細められる。

その目には、少しだけ“楽しさ”が滲んでいた。


「盗んで、盗んで――その手で掴みにきたんだね。」


次の瞬間、久遠はふっと姿を消す。

影の包囲を、未来視で“選び直した”ルートで抜け、主人公の背後へ。


「でも――まだ、遠いよ。」


指先が軽く弾ける。

世界が“ズレ”る感覚。


主人公は反射的に影で防御するも、衝撃だけで吹き飛ばされる。



膝をつき、肩で息をする主人公。

だが、その目は曇っていなかった。


「でも……届いた。」


久遠は、にこりと笑い、手を差し伸べる。


「届いたよ。ほんの、かすかにね。」



隊員たちはざわめきながら、それぞれの胸に刻んでいた。

――“あいつは、変わってきている”。


影は、進化する。

盗み、学び、すべてを飲み込んで――。


この日、主人公は確かに「壁の先端」に触れたのだった。






訓練は終わった。


陽は傾き、茜色の空の下で主人公は息を整え、額の汗をぬぐう。

久遠との戦い――その手応えは、確かにあった。


だが、ふとした違和感が胸をよぎる。


「……そういえば――」


主人公はポツリと口にした。


「最近、豹画……見てませんよね?」



「え? 確かに……そういえばアイツ、いなくね?」

「前に“ちょっと私用”って言ってたけど、あれから何日だ?」

「さぁ……副隊長、知ってる?」


視線が副隊長・柊 蓮に集まる。


「俺? 隊長が知ってるんだと思ってたんだけど……。」


苦笑しながら言う柊。


「えー、僕? てっきり副隊長でしょ?」

「いやいや、普通そこは隊長じゃ……」

「めんどいし……」


久遠は例によって気の抜けた笑顔で、ポケットに手を突っ込んだまま首をかしげる。


「え、マジで誰も知らないの?」


「知らねぇ……」

「どこ行ったんだろ?」


「……」


主人公の胸に、かすかなざわめきが生まれる。

豹画は――そんなに長く、黙って姿を消すような性格だっただろうか?



「まぁ、あいつも意外とプライベート多そうだし?」

「言霊使いって、性格もよくわかんねーしな。」


隊員たちは笑いながら話すが、主人公はその笑いに乗り切れない。


久遠はというと、相変わらず「まあ、いいんじゃね?」と気にしていない様子。


(……何か、あるかもしれない。)


妙な胸騒ぎが、微かに心をざわつかせていた。


そのまま、夕闇は静かに落ちていく――。





翌日――。


支部の廊下を歩いていると、見慣れた姿が目に入った。


「……豹画。」


ふいに立ち止まる主人公。


「おお、久しぶり。」


豹画はいつも通りの笑顔を浮かべている。

だが――その目の奥に、かすかな“冷たさ”が滲んでいた。


(何かが……違う。)


ほんの微かな違和感。

言葉にはできないが、肌がざわつく。



「どこ行ってたんだ?」


軽く問いかける主人公に、豹画は肩をすくめる。


「ちょっと、私用だよ。こっちの人間関係って、面倒だからさ。」


いつもの軽さ――だが、その「軽さ」が嘘くさく感じた。

目は笑っていない。

表情は作られている。


(――嘘だ。)


直感が告げていた。



「じゃ、また訓練でね。」


そう言って、豹画はポケットに手を突っ込みながら歩き去る。

その背中を、主人公は見送った。



――その夜。


「私用、ね……」


主人公はフードをかぶり、影を纏って静かに支部を抜け出す。

獲物を追う獣のように気配を消し、遠ざかる豹画の気配を追跡する。



街は薄暗く、湿った空気に包まれていた。

人影もまばらな裏路地へと歩を進める豹画。


(……どこに行く?)


主人公は影の中をすべるように移動し、慎重に距離を保つ。

そして――その先で、目撃してしまう。



暗がりの中で、豹画はフードを深く被った人物たちと接触していた。

胸に刻まれた奇怪な紋章――悪魔信者。


豹画は低く囁く。


「……次の“供物”は、もう決まってる。

ボーダーの“内側”から、俺が動かす。」



(――!)


血の気が引く。


まさか。

豹画が――裏切っていた?


言葉を失いながら、影の中で息を殺す。


――その瞬間、豹画がふっと振り向く。


「……」


まるで「気づいているか」のように、わずかに目を細める豹画。


(やばい――!)


主人公はとっさに影の中へと沈み、気配を断つ。



静寂の夜。

冷たい汗が頬を伝う。


(豹画は……敵だ。)


それは、認めたくない“事実”だった。





冷たい夜風が、肌を刺す。


影の中で息を殺しながら、主人公は震えていた。

寒さのせいではない――心が、ざわついていた。


(……見間違いかもしれない。)


否定の声が、脳内で響く。


(たまたま、ああいう人たちと……話していただけかもしれない。)


――だが、そんなわけがない。

豹画が、悪魔信者と接触していたことは確かだった。

あの冷たい目、静かに告げられた“供物”という言葉。


(――でも)


浮かぶのは、あの日のことだ。



入隊試験の日。

緊張で手が震えていた自分の背中を、ポンと叩いてくれたのは豹画だった。


「大丈夫。気楽にいこうぜ。」


その時の声は、本物だった。

嘘じゃなかった。

あの目も、あの笑顔も、確かに自分を救ってくれた。



「……違う……はずだ。」


主人公は、拳を握りしめた。

冷静に考えれば考えるほど、“報告すべき”だとわかっている。

でも――言えなかった。


「信じたい。」


小さく、誰にも聞こえない声でつぶやく。


「俺は……豹画を、信じたいんだ。」



夜は静かに、更けていく。

主人公はそのまま支部に戻り、何事もなかったかのように朝を迎えることを選んだ。


誰にも話さず。

リオにも、久遠にも、副隊長にも。


(信じて、いいんだよな……?)


その問いかけに、誰も答えてはくれなかった。




◆ 本部からの緊急指令――悪魔信者アジト制圧作戦


ボーダー本部。

緊急の通信が各隊に一斉に流れる。


「第3隊、焔堂烈火隊及び第4隊、久遠瞳隊。

悪魔信者の潜伏が確認された廃教会跡にて、即時制圧を命ずる。

速やかな展開を求む。通信は厳禁。以上。」


指令は厳格かつ迅速だった。



烈火隊と久遠隊は指令を受け、準備を整えた。

炎と影が渦巻く隊列は、迷いなく廃教会跡へと向かう。


「任務に遅れは許されねぇ。全力で行くぞ!」

烈火隊長の焔堂烈火が声を張る。


「焦るな。未来を読んで動け。」

久遠も静かに指示を出す。



教会跡に到着し、内部を警戒しながら捜索を開始する。


しかし――。


「敵の気配がない……」

主人公が低く呟く。


「本部からの報告は間違いか?」

久遠も眉をひそめた。


「いや、これは罠の可能性もある。」

烈火が拳を握りしめる。



そんな中、豹画の様子が不自然だ。

不意に視線をそらし、動きがぎこちない。


「豹画、何か見つけたか?」

主人公が問いかけるが、豹画は答えず、そのまま遠ざかる。



結局、敵の姿は見つからず、撤退命令が下される。


「任務、完了とは言い難いな……」

副隊長が吐息をつく。


「このまま本部に報告し、次の指示を待つしかない。」



しかし、主人公の胸には重い疑念がのしかかっていた。


「豹画……」


彼の裏切りの影が、静かに膨れ上がっていく。




◆ 裏切りの告白――豹画 vs ボーダー精鋭(完全版)


廃教会跡――月光が差し込む静寂の空間。


ボーダーから派遣された二つの精鋭隊――【久遠隊】と【烈火隊】の面々が、不穏な空気を背に佇む中、豹画はふと口元を歪め、低く呟いた。


「……さあ、茶番は終わりだ。」


突如として変わる豹画の声色に、全員の動きが止まる。


「俺は“悪魔信者”だ。お前たちボーダーは今日、ここで“供物”として消えてもらう。」


その言葉は雷鳴のように場を裂いた。


「豹画……貴様!」

烈火が怒りで拳を震わせ、肩から赤黒い炎が噴き出す。彼の能力――【血肉燃焼】。

自らの肉体を代償に、常人では制御不能な超高温の炎を生み出す異能。


「てめぇの舌、焼き切ってやるよッ!」


久遠は銀髪をかき上げ、赤く染まった目で静かに言葉を重ねる。

「理由はどうあれ、敵なら斬るまでだな。」


豹画は冷たい笑みを浮かべ、指先を静かに上げる。


「動くな。」


その瞬間、烈火隊の数名がピタリと硬直する。身体は自分の意志を失い、まるで操り人形のようだ。


「クッ……ッ!」

「こいつの能力は……!」


◆ ◆ ◆


烈火が、肉体を削る覚悟で血を燃やす。

「燃えろォッ!!」


拳が爆ぜ、紅蓮の炎が豹画に向かって放たれる。

空間が歪み、爆発的な熱量が教会の壁を焦がす。


だが――。


豹画は一言、言い放つ。

「弾け飛べ。」


次の瞬間、烈火の体が見えない力に叩きつけられ、炎は空を切った。


「……ッぐ!」

烈火は立ち上がるが、体から血が流れ、燃え盛る炎も弱まる。

肉体を燃料にする彼には、長期戦は不利だった。



久遠は未来視で豹画のわずかな隙を読み、特殊な刃を虚空に閃かせる。

「この一撃なら……」


だが――豹画は未来を変える。


「止まれ。」


久遠の身体がピタリと停止する。

筋肉が硬直し、武器がわずかにズレた瞬間――未来は塗り替えられた。


「クソッ……!」



その時――黒い影が滑るように戦場を駆ける。

主人公。影の帯をしならせ、極限まで圧縮した一撃を放つ。


「今だッ!!!」


豹画は指を鳴らす。

「止まれ。」


――が、主人公は耳を塞ぎ、意識を言霊の範囲外に逃がしていた。


影の刃が豹画の頬をかすめる!


「――!!」


初めて豹画の表情が揺らいだ。


◆ ◆ ◆


「……なるほど、面白い。」

豹画は指を鳴らし、倒れた隊員たちに目もくれず、主人公に興味を向ける。


「やっと“遊び”になりそうだ。」


だが、烈火と久遠はまだ倒れていない。

ボロボロになりながらも、立ち上がる二人の隊長。


「なめんなよ……!」

「まだ終わらない。」


三つ巴の戦い――混戦は、今まさに次の局面へと進もうとしていた――。






◆『豹画、裏切りの牙』――教会跡 決戦


廃教会に、血と焦げた匂いが漂う。

かつて人々が祈りを捧げたその場所は、悪魔信者の儀式場へと変貌していた。


「悪いな――これが俺の答えだ。」

豹画は静かに微笑んだ。

その口から紡がれる言葉は、全てを支配する絶対の命令。


「動くな。」


言霊が放たれた瞬間、烈火隊・久遠隊の隊員たちの動きが一瞬止まる。


「クソッ!」

焔堂烈火が歯を食いしばり、力づくで言霊の拘束を振り切る。

「こんなもんで止まってたまるかよッ!」


烈火の両腕から、血と共に炎が吹き上がる。

皮膚が裂け、筋肉が焦げるのも構わず、業火を生み出す。


「――極地・紅蓮劫獄!!!」


轟音と共に、紅蓮の竜が天井を突き破り、豹画目がけて放たれる。

灼熱の熱風が辺りを焼き尽くし、豹画は瞬時に言霊を発動する。


「消えろ――」


だが間に合わない。

炎は豹画の身体を飲み込み、建物ごと爆ぜさせた。


◆ ◆ ◆


「……さすがだな。だが、まだ足りない。」

炎の中から立ち上がる豹画は、黒焦げになりながらも平然だった。


烈火は膝をつき、肩で荒く息を吐く。

「チッ……やっぱり、キツいな……!」


その背後から、ひとつの影が歩み出る。


銀髪をかき上げ、赤く充血した瞳を細める久遠瞳。

その手には、未来視に特化した特殊な斬撃武器が握られている。


「……さて、俺の番だな。」


彼はどこか飄々とした態度のまま、薄く笑いながら言う。

「極地――未来斬《刻穿ときうがち》。」


久遠の身体が一歩進んだ瞬間、豹画の動きが硬直する。

未来を何通りも読み切った上で選び抜いた、絶対に避けられない軌道――。


豹画は即座に「止まれ」と声を放つが――


「それも未来で聞いた。」


久遠の刃が豹画の肩を裂き、血飛沫が舞う。


◆ ◆ ◆


「くそ……!」

豹画は顔を歪める。


だがまだ、豹画は折れない。

指を鳴らし、叫ぶ。


「全員――跪けッ!!!」


広範囲の言霊。

意識に直接ねじ込まれる支配命令に、周囲の隊員たちが膝をつく。


その瞬間――久遠隊の副隊長、羽鳥彩葉が動く。

「――空間盾展開ッ!」


彼のスキルは絶対防壁。

言霊の波動すら減衰させ、後衛の隊員たちを守る。


「させない!」


烈火隊の音撃士・紫藤メイも反撃する。

音波攻撃で豹画の声をかき消し、言霊の通りを妨害する。


「今だッ!」

烈火が血まみれの拳を掲げ、叫ぶ。


◆ ◆ ◆


そして――主人公。


静かに、影を纏いながら豹画の戦いを目で盗み、技を盗み、動きを盗む。


「……いける。」


久遠の間合い、烈火の軌道、副隊長の防御――

すべてを重ね合わせた影の一撃を放つ。


「影・終穿シャドウ・フィニッシュ――ッ!」


影は鋭い槍となり、豹画の胸を貫いた。


豹画の身体が硬直し、喉から血が噴き出す。

指が震え、言霊は途切れた。


「ぐっ……あぁ……」


豹画は膝をつき、そのまま静かに倒れる。


◆ ◆ ◆


烈火は膝に手をつきながら息を吐く。

「ふぅ……終わった、か。」


久遠は無造作に髪をかき上げ、紅く染まった瞳を静かに閉じる。

「まぁ、勝ちは勝ちだな。」


影を解いた主人公は、静かに地面を見つめていた。


「……豹画。」


◆ ◆ ◆


こうして――

豹画は討たれた。

だが「悪魔」の影は、まだ消えてはいなかった――


豹画が捕縛されてから、一週間が経った。

彼は今、「第零監ゼロかん」と呼ばれる、対悪魔信者専用の超法規的施設に収容されている。

外界とは遮断された地下数百メートル。

魔術式と科学的拘束装置が張り巡らされた監房に、彼は沈黙のまま座っていた。

口元には発声抑制の拘束具。

手足にはスキルの発動を防ぐ制御装置。

「精神異常の診断が下ったからって、甘く見るなよ。あいつの“本質”はまだ消えていない。」

見回りの看守たちは、皆どこかおびえていた。

豹画の目が、ただそこにあるだけで、思考を読まれている気がするのだ。

そしてその瞳は、ひとつの言葉を問い続けていた。

――なぜ、自分は“供物”の道を選んだのか。

その問いに、彼自身もまだ答えを出せずにいた。


その日の午後、久遠支部に報告が届く。

「豹画、正式に第零監へ収容。精神異常と判定され、重罪から外れました。」

淡々とした本部の報告書。

だが、読んだ者の心には小さな棘が残った。

「…精神異常…本当に、そうだったんですか?」

主人公の声が、部屋の空気を微かに震わせた。

副隊長は腕を組み、無言で頷くだけだった。

「何考えてたんだ、あいつ…」

雷撃使いの水無月琴音が呟く。

「スパイにしては、あまりに迷いが多すぎた。」

重力使い・烈川剛も深く眉をひそめる。

「まるで、裏切りと忠義のあいだで、ぐちゃぐちゃになってたみたいだったよね。」

風間は唇を噛んだ。

主人公は黙ったまま、資料を伏せた。

豹画が自分を守ってくれた数々の戦闘が、頭に浮かぶ。

(…信じたいと思った。けど――)

その時、通信機が鳴った。

【通信:本部】

「至急通達。久遠隊は即時、南区・ノイズタウンに展開。

 悪魔信者の隠れ家と思しき拠点を複数捕捉。殲滅および捕縛任務にあたれ。」

副隊長・篠塚が即座に号令を飛ばす。

「全員、30分以内に出撃準備!武装はフルセット、念のため極地開放の判断も任せる!」

「了解!」

各員が走り出し、主人公も黙って装備棚の前に立つ。

影が、彼の足元で静かに伸びる。

――仲間を守るために。

――あの日の豹画のようには、ならないために。

新たな戦いの火蓋が、再び切って落とされた。



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