九話 恋人偽装
「お認めになるのですね! 生徒会内で不純なお付き合いをしているということを!」
コトハは声量を上げる。
「……なぜ、付き合っていることイコール不純となるのかしら?」
澄華はゆっくりと尋ねる。
「それは、清くあるべき生徒会内で色恋にうつつを抜かしているからです!」
「生徒会が清く、皆に平等である必要性は認めます。ただ、生徒会の者が恋愛をしてはいけない理由にはならないのでは……?」
澄華は冷静にコトハに返答する。
「では、聞きます! 恋愛があることで、生徒会の業務に支障は全くないのですか?」
「ないわ。そうよね、青山理人書記……?」
「そ、そうっすよ! 付き合ってたとして、生徒会の業務に支障は出ないっす」
「青山理人書記に焦りが見られますが……?」
コトハはジロジロと理人の顔を凝視する。
今度は、澄華が太ももをつねってくる。
痛いから、やめてほしい……。マジで後で怒ろう……。
「焦ってないっすよ。むしろ、業務効率が上がるっす」
「ほう……。それはなぜですか?」
コトハは眼鏡を人差し指で上げながら尋ねる。
「好きな人が近くにいることで、頑張ろうと思えるからっす。コトハさんもそうじゃないっすか? みんなに新聞を見て楽しんでほしい。良い情報を知ってほしいと思っているのでは?」
「論点がズレてます。私の話と、如月生徒会長と青山書記が付き合っている話に共通点はありません」
取り付く島もない回答が返ってくる。
なんだコレは……。俺、裁判にでも引きずり出されてるのか……。
「業務効率とうちの愚かな書記が言いましたが、そこはさしたる問題ではないわ」
澄華が口を開く。
「といいますと?」
「もちろん生徒会の業務に支障が出るようではダメでしょう。でも、実際に支障は出ていない。それに、全校生徒において恋愛は禁止されていない。にもかかわらず、なぜそこまで、付き合うことに反感を持つのですか?」
「それは……。学業や生徒会の業務に集中すべき学生が、恋愛に時間を割くことは望ましくないからです」
「あなたの考える、生徒会の人は制限が多いのね……。いえ、生徒会の人だけでなく、真面目に部活動や勉学に励んでいる人にも、と言えるかしら……」
「それは……どういう意味ですか?」
コトハの表情に陰りが見られる。
「あなたのここ最近出している学校新聞は、恋愛ゴシップネタが多いわね? しかも、様々な相手に対して……。真面目に部活動や勉学に励んでいる学生が、そのゴシップネタのせいで、成績を落としたらどう責任を取るおつもり? なんなら、学校新聞のせいで傷ついてしまう人がいる可能性すらあるわ。それは、一新聞記者としてどう思うの?」
「そ、それは……。論点を変えないでください!」
「記者としての黒石さんから取材を受けると言ったけど、一方的に質問を受け付けるとは言ってないわ。私からの質問にも答えてちょうだい」
澄華が凛とした声を出す。
「…………先程、如月生徒会長が言ったことはありえます。ですが、誰も傷つかない報道などありえますか? 何かしら人々に影響を与えることが、報道だと私は考えています!」
コトハは声を大きくする。
「……それが仮に、人を傷つけたり、困らせるようなことでもっすか……?」
理人も我慢できず、口を挟む。
「……いつでも、良いニュースがある訳じゃない……。それでも、学校新聞を見てもらわないといけない。だから、私はゴシップだろうと記事にします! それが私なりの報道への向き合い方です!」
「それは、本心からそう思ってるっすか? 心の迷いが感じ取れるっすよ……?」
この言葉は事実だ。才能Eとはいえ、俺は異能力者だ。わずかながら、心のゆらぎは捉えることができる。
「あ、あなたに何が分かるの⁉」
「……少なくとも、今のやり方にご自身が納得してないことっすかね……」
「……だったら、どうしたらいいっていうのよ⁉ 学校新聞が広く支持されないと部費だって削られる。それに、多くの人に学校新聞を見てほしいと思って、新聞部の部長をしている。学校新聞を守る責任もあるの!」
「そんなあなたに朗報よ。今目の前にいる、生徒会書記の青山理人は『スクールアシスター』という、学校の困り事を解決する役目も兼任することになった。あなたの目の前には、今後困った人を助けて回る『ヒーローの玉子』がいるわ……!」
澄華は饒舌に言葉を紡ぐ。
「す、スクールアシスター? そんなものがあったなんて……」
「つい、この間決まったところっすからね。宣伝してほしかったんで、タイミングもちょうどいいっすよ」
理人はコトハに笑顔を向ける。
「そんな……そんな……そんな特ダネがあるなら、最初に言ってくださいよ! 私、青山書記、いえ、スクールアシスター青山に取材してましたよ!」
「スクールアシスター青山って、なんか戦隊ヒーローみたいっすね……」
理人は思わず苦笑いする。
「黒岩さんがうまく記事にしてくれたら、学校で困っている人を助けられるわ。どう? この仕事受けてくれない?」
澄華が手を差し伸べる。
「もちろんです! むしろ、取材させてください!」
コトハは澄華と両手で握手した後に、理人とも握手する。
「そう、よかったわ。ね? スクールアシスター青山……?」
「その名前はちょっと……。でも、まあ大団円って感じでよかったっす」
「あ、そうだ。如月生徒会長と青山書記がお付き合いしていることは記事にしませんから! 真面目なお二人ならとってもお似合いですよ!」
コトハが親指を立てて歯を見せて笑う。
「あ! そのことだけど、それ嘘だから!」
澄華がここにきて初めて、取り乱す。
「いえいえ、記事にしたりしませんから、大丈夫ですよ!」
コトハが良い笑顔を向けてくる。
「いや、それは本当に誤解で……」
理人も声を出す。
「だから、気にしないでくださいって! それより、スクールアシスター青山さん取材! 取材させてください!」
「わ、分かったっす。分かったから、圧がすごいよ……」――。
◇◇◇
次回の学校新聞は〝生徒会書記兼、スクールアシスターとなった青山理人! 困った人々を救う!〟というタイトルで新聞が発行された。
今までになかった趣向の記事であり、かなりの注目度となった――。
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