八話 強めの文系女子
翌日。生徒会室にて、理人と澄華は話していた。
「生徒会書記兼、異能スクールアシスター、青山理人。よくやったわ。早速事件を解決するとはね。正直、そこまで期待していなかっただけに驚きよ」
澄華は率直な物言いだ。
「異能スクールアシスターにしておいて言う言葉じゃないっすよ、それ? まあ、俺もうまく解決できるか冷や汗もんだったのは認めるっすけど」
理人は素直に返答する。
「……とはいえ、本来なら異能を使えれば、私が解決すべきことだった。改めて礼を言うわ。ありがとう。理人」
「それは気にしないでください。困り事を解決できたんだから、誰が解決したかはそこまで重要じゃないっすよ。それに、会長が全部背負い込む必要はないっすから」
「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない……。そんな理人に新たなミッションを与えます」
「え……? ミッション?」
「ええ。新聞部は知ってるわね?」
「知ってるっすよ。たしか、部長が黒石コトハさんでしたよね?」
「そうよ。その黒石さんが問題なのよね……」
「問題?」
「彼女、学校新聞を少しでも多くの人に読んでほしいのか、最近の新聞の内容が過激になってきてるのよ。特に恋愛ゴシップがね……」
「えぇ……。恋愛ゴシップはダメでしょ。プライバシー侵害っす」
「その通りよ。行き過ぎた報道は人を傷つける。だから、生徒会として正そうと思ってるの」
「なるほど。状況は分かったっす。どう解決しましょう……。やっぱ直談判すかね?」
「黒石さんは頑固者なの……。話を聞いてもらいやすい状況を作りましょう」
「話を聞いてもらいやすい状況っすか。何かあるかな……」
「私に名案があるわ。黙って手伝いなさい」――。
◇◇◇
グラウンドの端にて。
「名案ってのがコレっすか……?」
理人はやや呆れつつ話す。
「何? 文句でもある訳?」
澄華は不服そうな様子だ。
「だって、グラウンドの端でキャッチボールしてるんすよ? 何この状況ってなりません?」
「だから良いのよ! 生徒会長と生徒会書記が謎のキャッチボール密会……。これはネタになるに違いないわ!」
澄華は自信満々に言葉を放つ。
「コレ密会になってます? めっちゃ周りに部活してる人いるっすけど……」
「…………じゃあ、キャッチボールデートね……」
澄華はやや顔を赤らめつつ話す。
「学校でキャッチボールデートか~。その辺のボール借りて、遊んでるだけの生徒のような……」
「う、うるさいわ! 何事も実践が大事なの! 結果が出てないのに文句言わない!」
澄華は声を荒げる。
「分かったっす。分かりましたから……。で、いつまでします?」
「もちろん夕暮れまでよ……!」
理人は思った。生徒会長って案外暇なのだろうかと……。
◇◇◇
「今日は特に何もなかったわね」
「流石に一日では何も起こらなかったすね。まあでも、しばらく続けてたら噂にはなる気はしますね。生徒会長と生徒会書記がサボってるだけな気もするけど……」
「失礼ね。ちゃんと仕事はある程度終えた上でしてるわ。この後、生徒会室で残りの仕事もするけどね」
「そうなんすね。今手空いてるんで、手伝うっすよ会長」
「あら、それは助かるわ。流石、スクールアシスターね!」
「なんか、スクールアシスターなら何でも頼んでいいみたいになってないっすか……? まあ、生徒会として協力するのは当然っす!」
「ありがとう! それじゃあ、スクールアシスターさん、書類の整理から手伝ってちょうだい」――。
◇◇◇
以降一週間、学校のある日の放課後はキャッチボールをしていた。
「さあ、今日もキャッチボールデートするわよ!」
澄華がボールとグローブを持ち、声を出す。
「ちょっと、声大きいっすよ。勘違いされたらどうするんすか……。まあ、放課後にグラウンドでキャッチボールしてるだけだけど……」
理人もグローブを持つ。
二人で校舎を歩いている時だった。不意に声がかかる。
「あなた達……。いえ、生徒会長、如月澄華さん。生徒会書記、青山理人さん。取材よろしいでしょうか……?」
そこにはコトハがカメラを構えて立っていた。
コトハは小柄でカメラを肩から掛けており、大人しい文系少女のような印象だ。黒髪のボブで、茶色の丸眼鏡をかけている。目は透き通るような青色だ。
「……私達に何を聞きたいのかしら……?」
澄華は白々しくも問い返す。
「あなた達、生徒会でありながら、放課後キャッチボールをして遊んでいるでしょう。しかも夕暮れまで。何やら怪しい関係のようですが……」
コトハは眼鏡の奥に鋭い光を宿す。
「あらあら、バレてしまったのね……。バレたからには仕方ないわ。その取材受けましょう!」
澄華が強い語気で返答する。
なぜこんなに自信満々なのかは、不明だ……。
◇◇◇
新聞部の部室にて。
他の部員は出払っているのか、理人達三人のみがいる。
「で? 何を聞きたいのかしら?」
澄華がコトハを真っ直ぐ見ながら尋ねる。
「ズバリ、あなた達の関係です! まさか、生徒会長と生徒会書記がお付き合いされているのですか⁉」
コトハは前のめりに質問する。
「付き合っていては悪いの……?」
澄華は淡々と答える。
「へ……?」
理人は気の抜けた声を出す。
直後、脛に強烈な衝撃が奔る。
澄華が机で見えないように、蹴りを入れたようだ。
とんだ暴力会長だ……。
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