七十一話 糸と理人②
「そ、そうっすね……。でも、正直この状況に驚いてる自分がいるよ……。三人共俺のこと好き……ってことだよね……。実感がないというか、ドッキリなんじゃないかって思ってる」
理人は正直に思っていることを糸に伝える。
「もう、理人お兄ちゃんは自己評価が低すぎだよ~! 優しいし、人のために一生懸命になれるのってすごく素敵なことなんだよ?」
糸はニコニコしながら話す。
「そっか……。そう言ってくれて、嬉しい。ありがとう糸ちゃん」
理人は顔を赤くし、照れつつ答える。
そこからは、昔の話をしながら山を登っていった。
◇◇◇
糸の言っていた丘に辿り着く。
「着いたね、理人お兄ちゃん! どう? ここからの景色、すごく綺麗じゃない?」
糸が目を輝かせて尋ねる。
「うん! 綺麗だ……! 丘からこうして、自然を見下ろすなんていつぶりだろ……。ありがとね、この場所教えてくれて」
理人は糸に笑顔を向ける。
「ううん、理人お兄ちゃんと一緒に見たかったからさ。喜んでもらえて何よりだよ!」
糸は心底嬉しそうな顔をする。
そして、スマホに目を向ける。
「そろそろかな? 最上先輩は二十時前には花火上げるって言ってたけど……」
糸はそわそわとし始める。
花火が楽しみなのだろう。
「そうだね。ここからなら、きっとばっちり見れると思うし、楽しみだね!」
そんなことを話していると、ひゅるるる、と花火が打ちあがる音が聞こえてきた。
「あ! 理人お兄ちゃん!」
打ちあがった花火を見て、糸は瞳にも花火を宿しているかのように、ぱぁっと明るい表情になる。
このような表情は昔から、ちっとも変っていない。
可愛らしい子だ。
「綺麗だね~! 糸ちゃん。花火は船から上げてるんだね。最上先輩って本当に何でもできるな……」
理人は驚きつつも笑う。
「そうだね。最上先輩は私の中じゃもう超人だと思ってるよ。あんな人見たことない」
糸も笑っている。楽しい時間だ。
「前にも言ったかもしれないけど、改めて言わせてほしいことがあるんだ」
糸は何かを決心したような顔つきになる。
「どうしたの?」
理人は花火から目線を外し、糸の目を見る。
「理人お兄ちゃんには本当に昔から、助けられてる。澄華お姉ちゃんと比べられて辛い思いをしてる時も『みんな違うからこそ、大事にすべきは個性』だって言ってくれたり……。それに、私は努力家さんだとも言ってくれた。理人お兄ちゃんにそう言ってもらってすごく救われたんだよ!」
糸はそこで言葉を切る。
そして口を開く。
「……実はその時から、理人お兄ちゃんのことが好きなんだ。小学四年生の時だよ。私は絶対に忘れない。私……理人お兄ちゃんが好き……。付き合ってください……!」
糸の言葉の後に、花火の音が響き渡る……。
「糸ちゃん……。……嬉しいよ。ありがとう。……ただ、俺は今すぐ答えを返せない。どうしていいか、まだ自分でもわからないんだ……。だから、ごめん……。もう少し時間がほしい」
理人は顔を赤くしつつも、真剣な表情で声を出す。
「……そっか。理人お兄ちゃんは真面目な性格だもんね……。いいよ。また、答え聞かせて。楽しみに待ってるね……」
糸はどこか儚げに微笑む。
二人の静寂を埋めるように、花火が鳴り響く……。
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