六十八話 澄華と理人①
お昼ご飯を食べた後。
澄華がやや顔を赤くしつつ、近づいてくる。
「理人、白百合さんから聞いてるかもしれないけど、お昼は私と過ごしてもらうわ。構わないわよね?」
澄華は決定事項のような言い方をする。
「構わないっすけど、なんか既に決まってるんすね……」
理人は軽く笑いながら、答える。
「……そうね。理人に拒否権はないわ」
澄華が傍若無人な言い方をする。
「拒否権ないんすか……。相変わらず、めちゃくちゃっすね、会長……。で、何して過ごします?」
理人は苦笑しつつも、尋ねる。
「海で遊びましょう」
澄華が短く言葉にする。
「海っすか? 普通に遊ぶだけ?」
理人は予想外の提案にやや困惑しつつ反応する。
「普通に遊ぶだけよ。精神修行研修も頑張ったし、遊ぶくらいいいじゃない」
澄華が頬をほんの少し、膨らませる。
「それもそうっすね。じゃあ、みんなを呼びましょうか?」
理人は立ち上がる。
「ちょ、待ちなさい! 海で遊ぶのは理人と私、二人よ……」
澄華の頬が紅潮する。
「え? 二人っすか? それは……」
理人の頭には朝の白百合とのやり取りが鮮明に残っている。
付き合っている訳ではもちろんないが、頬にキスをされたのだ。
そこから、時間があまり経たずに、女の子と二人で遊ぶというのは、理人の倫理観に反する行為だった。
「私とじゃ……嫌……なの?」
澄華はいつもの高飛車な雰囲気は全くなくなり、ウルウルとした、か弱い乙女のような瞳を向けてくる。
「そんなことはないっすよ! ええっと……じゃあ、行きましょう会長! 折角、海で遊べる機会ですし!」
理人はこの一瞬でかなり迷った。
しかし、会長として慕っている澄華が、悲しい顔をしているのは見たくない。
それに、あんな顔されたら、大抵の男なら言う通りにしてしまうだろう。
理人もそのうちの一人な訳だが……。
「そう? じゃあ、早速水着に着替えて行きましょう!」
澄華は水を得た魚のように元気を取り戻し、理人の背中を押して進む――。
◇◇◇
理人と澄華は海まで一緒にきていた。
澄華の水着は前回同様、桃色のビキニを着用している。
豊満なバストとヒップが目立ち、正直、目のやり場に困ってしまう……。
「理人!」
澄華はそう言い、顔面に海水をかけてくる。
「ぶわっ……。会長、急に水かけないでくださいよぉ」
理人は海水を拭う。
「ぼーっとしてるからよ! ビーチボール持ってきてるから、遊びましょう!」
澄華は嬉しそうに抱えていた、ビーチボールを掲げる。
「会長、準備いいっすね。さては、遊ぶ気で精神修行研修きたんすね……?」
理人はやや意地悪く笑って伝える。
「余暇の時間ができた時に備えて、持ってきてただけよ! 遊びがメインじゃないんだから! 全く……。まあ、いいわ。キャッチボールでもしましょ!」
澄華が早速、ビーチボールを投げてくる。
ゆったりとした速度でビーチボールは理人のもとにくる。
「なんか、キャッチボールしてると、前にしてた恋人偽装を思い出しますね。グラウンドの端でキャッチボールして、新聞部の黒石さんと話す機会を作ろうとしてた……」
理人は懐かしさを感じ、目を細める。
「……そんなこともあったわね。恋人偽装……ね……」
澄華はやや速めにビーチボールを返球してくる。
力んだのだろうか……?
続けて、澄華が話を続ける。
「理人とは恋人偽装をすることが二回あったわよね? 二回目はストーカー事件の時……。あの時私のことを守ってくれてありがとうね。改めて感謝を伝えるわ」
澄華は頬を桃色に染めている。
「全然大丈夫っすよ! それに、悪いのはストーカーですから!」
理人はふわりと放物線を描くように、ビーチボールを投げ返す。
「……理人、本当に今までありがとう……。それと一つ言わないといけないことがあるの……」
澄華はビーチボールを持ったまま、顔を真っ赤にする。
「言わないといけないこと……?」
理人は疑問符を浮かべながら尋ねる。




