表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/71

六十七話 白百合と理人②

「いいっすよ。じゃあ、どっちが鬼するっすかね?」


 理人が白百合の目を見る。


「あ! できれば柴助も入れてあげてほしいです~! 柴助のこと見えるの青山先輩と最上先輩しかいないので~。昔から、柴助は一緒に走って回るの大好きだったから……」


 白百合は懐かしそうに柴助の方を見る。そして、頭をなでるように動かす。

 もちろん霊体なので、手はすり抜けてしまうのだが、柴助は本当になでられているように、クークーと嬉しそうな鳴き声を出す。


 微笑ましい光景だ。


「全然いいっすよ! あ、でも柴助さんあんまり速く走り過ぎちゃダメっすよ。迷子になっちゃったら困るので」


 理人は柴助の方を見て念のために伝える。


「わかってるワン! でも、柴もこんなに広いところで走るのは久しぶりだから、野性を抑えられる保証はできないワン!」


 柴助は今にも走り出しそうな勢いを感じさせる。


「柴助あまり遠くに行っちゃダメよ」


 白百合も柴助に注意をする。


「わかったワン! じゃあ、鬼は理人で始めるワン! 逃げるぞ、白百合!」


 柴助が地面に降り立ち、実際に走っているような動作で駆けていく。


「あ、ちょっと! ずるいっすよぉ」


 理人は置いていかれる形になり、声を上げる。


「ふふっ。私達を捕まえてください。青山先輩~!」


 白百合は無垢な子どものような笑顔で振り返る。


「二人共待って~!」


 理人は走り出す。

 こんな風に自然の中で無邪気に走るのはいつぶりだろう。




「はぁはぁ……二人共速すぎるっす……。追い付けないよ……」


 理人は息を切らし、汗を拭う。

 ここが川の近くだから、涼しさを感じるが、それでもかなり汗をかいた気がする。


「もう~青山先輩、だらしないですよ~。私達はまだまだ走れちゃいます。ね? 柴助?」


 白百合は立ち止まり、隣にいる柴助に声をかける。


「走り足りないワン! 理人! もっと体力つけるワン!」


 柴助からも追い打ちがかかる。


「いや、白百合さんが運動神経良いんすよ。結構頑張ってるっすよ? 俺?」


 理人が白百合と柴助の両方に視線を向ける。


「ふふふ。それはわかります~。……でもこうしてると、本当の家族みたいですね。昔、父様と柴助と一緒に公園を走ってたのを思い出します~」


 白百合は昔を懐かしむように、空を見上げる。


「たしかに、あの時と似てるワン! 白百合の父もへばって動けなくなってたワン」


 柴助は楽しそうに過去を語る。


「あはは、同じような状況っすね」


 立ち止まってくれている、白百合達に理人は合流する。


「…………こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに……」


 白百合が儚げに呟く。


「え……?」


 理人は思わぬ白百合の言葉に、疑問を短く出すことしかできなかった。


「そろそろ、時間ですね~。今日はここまでです。お昼からは会長とお二人で過ごしてくださいね。……それから、私が青山先輩のこと想ってることは忘れないでください……」


 白百合はそう言い、理人の頬に唇をそっと付ける。


「わ! え! 白百合さん⁉」


 理人は身体中を真っ赤に染めて、飛び跳ねる。


「ふふふ。青山先輩可愛い……。さあ、一緒に旅館まで帰りましょう? お昼ご飯は何でしょうね~」


 白百合は小悪魔のような微笑みを浮かべ、何事もなかったかのように、理人と手を繋ぎ歩き始める。


 柴助がそんな二人に寄り添うように隣を歩いており、理人はまるで家族で遊んだ帰り道のような気分になった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ