六十六話 白百合と理人①
理人が川でボーっとしていると、四足歩行の白百合が走ってきた。
「あ! 白百合さん! いや、今は柴助さんっすかね? この辺石多いから、手痛くないっすか?」
理人は白百合の手を心配する。
「丈夫な軍手してるから大丈夫だワン! ちゃんと気遣えてるのはポイント高いワン!」
柴助が嬉しげに答える。尻尾をブンブン振っているような雰囲気だ。
「俺が一人だから、探しにきてくれたんすか?」
「まあ、半分正解で、半分不正解ワン! ここからは白百合に代わるワン! 柴は近くでフワフワ浮いとくから、あんまり気にするなワン!」
柴助はそう言い、白百合の体からゆっくり出ていく。
「さっきぶりですね、青山先輩~」
白百合が間延びした挨拶をしながら、軍手を外し柴犬の刺繍がしてあるポーチになおす。
「そうっすね! そういえば、柴助さんが半分不正解って言ってたけど、何が不正解なの?」
理人は単純に感じた疑問を投げかける。
「あぁ~それは、青山先輩だから、探しにきたっていうのが答えです~!」
白百合はやや頬を紅潮させながら答える。
「んぇ? 俺だから? 何か困り事っすか?」
理人は異能を使う可能性も考え、気を引き締める。
「違います~。もう、青山先輩は真面目過ぎです~。気になる男の子と一緒にいたいって思うのは普通のことじゃないですか~?」
白百合は上目遣いで尋ねる。黄緑のロングツインテールがふわりと揺れる。
「気になる男の子……。前にも、白百合さん『俺ならいい』とかって言ってたけど、もしかして……?」
理人は白百合の表情を見て、思わず心臓がドキドキと脈打つのを感じる。
「……さあ~? どうでしょう……? 折角自然がいっぱいの所に来てるので、お散歩でもしませんか~?」
白百合がいたずらっぽく微笑んで理人と手を繋ぐ。
「ちょ……白百合さん。もしかして、手繋いだままお散歩するんすか……?」
理人は思わず、顔を赤くして尋ねる。
「あ、やっとそれっぽい表情しましたね~。青山先輩、女の子に興味ないのかと思っちゃいますよ~」
白百合はニコニコと楽しげに微笑む。
「女の子に興味ないってことはないっすよ? でもそれなら、なおさら手を繋ぐなんて……」
理人は手まで赤くなってしまいそうになる。
心を落ち着かせるのに意識の七割くらい持っていかれている。
二人きりでこんな匂わせるような発言を何度もされるのだから……。
「……青山先輩は私と手を繋ぐの嫌ですか……?」
白百合は仔犬のようにうるうるとした目で、理人の瞳を射抜く。
「そんなことは……ないっす」
理人はドキドキが止まらなくなってくる。
今まで、良い友人だと思っていた女の子が自分のことを好きになってくれているかもしれないのだ。
それに、そんな仔犬のような愛らしい表情はずるい……。
「ふふ……。よかったです」
白百合は仔犬のような顔でくしゃっと笑う。
それから、しばらく川に沿って、手を繋いで歩いた。
白百合からは今回の研修であったことを色々と話してくれた。
楽しそうに話す白百合を見ていると、理人も嬉しくなった。
なんだろう……。白百合さんとは何度も話しているけど、いつもと違い、ドキドキというかフワフワしたような気分になる。
手を繋いでいることで、白百合さんと心まで繋がっているような錯覚に陥るからだろうか……?
「青山先輩~! お散歩しながらお話するのも楽しいですけど、折角なので、身体動かして遊びませんか~?」
白百合が少し頬を赤く染めながら、嬉しそうに問いかける。
少しばかり、手を握る力が強くなった気もする。
緊張しているのだろうか……。
「いいっすよ。何します?」
理人が笑顔で答える。
「じゃあ~、鬼ごっことかどうですか~? 今持ってるもの軍手くらいですし~」
白百合はポーチを持ち上げて、ひらひらと振る。




