六十四話 ガチンコ恋愛バトル⁉
「糸、白百合さん。二人と話をしたいって言ったのは、あることを確認するためなの」
澄華は静かに二人に話しかける。
「何を確認したいの? 澄華お姉ちゃん?」
糸が純朴な瞳を向ける。
「確認ですか~」
白百合は間延びした声だが、どことなく芯を感じさせる独特な返答をしている。
「ええ。きっかけは昨日の肝試しの時。……白百合さんが理人に……。その……。……告白しようとしていたからなのだけど…………」
澄華が顔を真っ赤にして目線を下に向ける。
「ええ⁉ 白百合ちゃん、理人お兄ちゃんのこと好きなの⁉ 嘘⁉ こ、こっここここ告白したの⁉ け、結果は……?」
糸が焦りからか、ニワトリのように、〝こ〟を連呼する。
そして、顔を赤らめつつ、白百合の方を見つめる。
「わ! バラさないでくださいよ~。会長。もう~……。告白しようとしてる途中で会長が出てきて邪魔されちゃいました~」
白百合は恥ずかしそうに顔を隠し、体をくねくねと動かしている。
「あわわ……ほんとのことなんだね……」
糸は顔を更に赤らめ、口をパクパクしている。
「その節はどうもごめんなさいね……? 流石に私達に抜け駆けは許せないって思ったのよ……」
澄華は静かに、だが確実な敵意に似た何かを言葉に込めている。
「ほぇ……? 会長は青山先輩のこと好きだと思ってましたけど、糸ちゃんもなの……?」
白百合は驚嘆をそのまま糸に向けている。
「逆に、白百合ちゃんが理人お兄ちゃんのこと好きなのに驚きだよ!」
糸も驚嘆をそのまま白百合に返す。
「……今までのやり取りでわかったと思うけど、私達は四角関係にあるわ……。そして何より厄介なのが、理人が超絶鈍感だってこと……。昔から好きなのに、なんで気づかないんだか……」
澄華は顔を赤くして、呆れたように両手をあげて首を振る。
「さらっと、昔から好きアピールしてるじゃないですか~。私も本気で青山先輩のこと好きですよ~?」
白百合が対抗するように言葉を放つ。
「わゎ……! そ、それなら、私も小学校の頃から、理人お兄ちゃんのこと好きだもん!」
糸も負けじと声を上げる。
「あぁ……別にアピールで言った訳じゃないわ。あの男の鈍感ぶりを共有したくてね……」
澄華は淡々と話す。
言葉ではそう言っているが、予防線を張っているようにも聞こえる……。
これが女の戦いなのか……。こっそり話を聞いている景伍はぷるぷると震える……。
「あ! でもそれは思うな! 私も何回か好きって言ったのに、『あはは、嬉しいよ』とか答えるんだもん。理人お兄ちゃん鈍感過ぎ!」
糸が共感して自分のエピソードも話したようだ。
「……なるほど。会長が私達二人と話したい内容がわかった気がします~」
白百合が狩人のような鋭い瞳を覗かせる。
「ええ。何となく察しがついたと思うけど、言葉にするわ……。この四角関係を勝ち抜いた者しか理人とは付き合えない。つまり、『ガチンコ恋愛バトル』をする必要があるのよ!」
澄華が声のボリュームを上げ、高らかに宣言する。
「が、ガチンコ恋愛バトル……⁉」
糸が驚いて声を出す。
「……たしかに、正々堂々と青山先輩を獲り合うなら、それが一番かもですね~」
他方、白百合は納得したようにゆったりと声にする。
「ええ⁉ 白百合ちゃんは納得できちゃうの⁉」
糸は再度驚嘆した声を上げる。
「糸……。あなたも理人のこと好きなんでしょ? だったら、ここで退いていいの?」
澄華が糸の瞳を射抜く。
「……私は理人お兄ちゃんが好き……。優しいし、いつも人のために一生懸命な理人お兄ちゃんのことが好き……! わ、私、澄華お姉ちゃんが相手でも退いたりしないよ……!」
糸が初めて姉に反抗する妹の覚悟を感じさせる声色で応える。
「そう……。それでいいのよ。糸……」
澄華は敵意を表したような、安心したような表情をする。
「糸ちゃん~。私もいること忘れないでください~」
白百合が糸をやや強く見据える。
「わ、忘れてないよ! ただ、お姉ちゃんに勝てたものが今までなかったから、意識しちゃって……」
糸が自信なさげに俯く。
「糸……。そんな覚悟じゃ、私や白百合さん以外が相手でも負けるわよ……? 恋愛は戦よ。勝つ意気込みがないと、勝てるものも勝てないわ……」
澄華はそっと糸へ、この世の真理を伝えるように呟く。
「れ、恋愛は戦……。…………わかった、私二人には負けないから……!」
糸が意を決したように叫ぶ。
「いいじゃないですか~! ガチンコ恋愛バトルしましょう~!」
白百合の目に刃のような鋭い光が奔る。




