六十三話 自由行動と共犯者
そこから、急きょ自由行動となる。
「いきなり自分をいたわれって言われても、困っちゃうっすね。どうしますか?」
理人がいなくなった名巣と最上以外に問いかける。
「そうね……。自由にしていいって言ってくれてるし、各々好きなことをして過ごせばいいと思うわ」
澄華が顎に手を添えつつ、答える。
「そうだね、澄華お姉ちゃん! 名巣先輩の分も楽しまないと……!」
糸は名巣のことを気にしているようだ。
あまり名巣の分まで、と意気込むとかえって楽しめない気もするが……。
「あ! そうだ! 糸、白百合さん。二人と話したいことがあるの。この後、時間もらえる……?」
澄華が糸と白百合に目線を向ける。
「ん? いいよ! 澄華お姉ちゃん」
「私も大丈夫です~」
二人は問題ないとの返答を即座にする。
「そうなんすね。じゃあ、景伍、市川さん。俺達で何かしとくっすかね」
理人が景伍と市川を見る。
「…………拙者は気になることがある故、遠慮したい」
景伍は何か考えた後に、言葉を返す。
「奇遇だね。私も気になってることがあるから、遠慮させてほしい」
市川からも同様の返答がある。
「ありゃ、みんな用事があるみたいっすね。じゃあ、俺は一人でブラブラしとくっす」
理人は立ち上がり、川の方へと向かう――。
◇◇◇
一方、澄華、糸、白百合はみんなから離れ、森の中へ向かっていた。
その後ろを景伍はついていく。
「本当はこのようなこと、してはいけないのでござるが……。どうしても気になっている故、許してくだされ……」
景伍は謝罪の言葉を小さく呟く。
「やっぱり、気になるよね。あの三人……」
景伍の後ろから、声が聞こえてくる。
「市川氏……! まさか、市川氏も……?」
景伍は思わずビクっとした後に、尋ねる。
「シー。声が大きいよ景伍君。今までも薄々気付いてはいたけど、今回の酷獄島での研修でほぼ確信に変わったよ……」
市川が景伍の耳元で囁く。
「……うむ。あの三人……理人氏に好意を抱いている……」
景伍はそっと呟く。
「だよね……。まさか、三人共とはね……。まあ、これから、何か話があるのかもしれないけど……」
市川はどことなく期待したような口調だ。
「とはいえ、こんな盗み聞きしてよいのだろうか……。拙者、心が痛むでござる……」
景伍は自分のしていることが、モラルに反することだと強く自覚しているからこそ、後ろ暗さを感じる。
「……まあ、褒められたことじゃないね。でも、これは今後の生徒会に関わる重大事項だ。……それに、シンプルにあの三人が何を話すのか気になる。何でもない話だったら、問題ないんだけどね」
市川はいつもの凛とした表情ではなく、興味関心が顔色に出ている。
「そうでござるな……。正直、拙者も同じ思いを持っている……」
景伍も内心あの三人が、理人のことをどう思っているのか気になるのだ。
「ふふ。じゃあ、共犯者だね、私達……。同じことが気になってる。一緒に聞きに行こう……」
市川は野次馬っぽい、好奇心の滲む笑顔を向けてくる。
「共犯者……。何かよりイケないことをしてるようでござるな……。これも、生徒会……ひいては理人氏の恋のため……。許してくだされ……」
景伍は祈るように声にする。
ただし、シンプルな好奇心が半分、否、六割ほどを占めている。
身近な人の恋愛事情は気になってしまうものだ……。




