六十一話 ドキドキ肝試し(終)
そんなことを話していると、景伍と市川が戻ってきた。
「いやぁ、夜の森は怖いですな。市川氏と途中で会わなければ、ビビッて戻ってきてしまったやもしれぬ」
景伍は頭の後ろに手を回し、笑っている。
「私も景伍君に会えてよかったよ。森の不思議な生態系が気になり過ぎて、戻ってこれなかったかもしれないからさ。なんか光ってるタケノコみたいなのあったし……」
市川も笑っている。
理由が明らかに異常だが……。
「まあ、色々変わった森だからな……。さて、あとは名巣だけか。あいつ一番最初に行ったよな……。テンション上がり過ぎて、暴走してねぇといいが……」
最上が頬をポリポリとかく。
――三十分待つも、名巣は帰ってこなかった。
「名巣……。あいつマジでどこ行ったんだ? しゃあねぇ。発信機使うか」
最上が手のひらサイズの発信機の親機を操作する。
「ん? 割と近くにいるな。おい名巣! こっちに早く戻ってこい!」
最上が遠くに見える名巣に声をかける。
名巣がトボトボと歩いて帰ってくる。
「名巣! 無事戻ってきたか。ったく、心配かけさせんな!」
最上は口調こそ荒いが本気で心配しているのが伝わってくる。
「…………なかった」
名巣がこの世の終わりのような顔をしている。
「あ? なんだって……?」
最上がやや苛立ちながら問いかける。
「怪奇現象の一つもなかった……」
名巣は全く表情が変わらない。
「……そうか。……まあ、そんなこともあるぜ……。糸も怪奇現象に遭遇してねぇみたいだしな。つか、その背負ってる袋には何が入ってるんだ?」
最上が名巣の背負っている袋を指さす。
「これはダウジングで手に入れたものよ……。大量の自然薯」
「名巣……てめぇ、またダウジングしてたのか……」
最上は呆れかえっている。
「名巣さん! 君はダウジングの才能がある! 一緒に探検家にならないかい?」
市川が澄んだ瞳で問いかける。
「探検家……。オカルト探検家ならいいかもしれないわね……」
名巣が謎の返答をしている。
「オ、オカルト探検家……。それは、私の興味のあるものとは違うかもしれないね……」
市川がやや引き気味に答える。
「ん? 袋の中に光ってるモンがあるな。こりゃなんだ?」
最上が名巣に尋ねる。
「あ、それはいかにもな祠があって、中にあった鏡を持って帰ったの……。特に怪奇現象は起こらなかったけど……」
名巣は心底残念そうな顔をしている。
「ちょっと見せてみ。……って、コレうちの秘宝の最上鏡じゃねぇか! てめぇ、何勝手にうちの祠に入ってんだよ! 立ち入り禁止の看板あっただろ!」
最上は声量を倍ほどに上げる。
「立ち入り禁止って何かそそられるから……」
名巣は目線を逸らしつつ答える。
「バカヤロ! 気づいてなくてなら、まだしも、気づいた上で入るなバカタレ! しかも、自然薯でネバネバしてるしよぉ……。名巣、てめぇの服で拭くぞ!」
最上は容赦なく名巣の服でネバネバを拭き取る。
「あぁ……私の服に自然薯のネバネバが……!」
名巣の悲痛な叫びも虚しく、名巣はそこそこネバネバな状態になる。
「んじゃあ、俺は今から封霊石と、最上鏡を戻しにいく。てめぇらは先に帰って、このバカタレの持って帰ってきた自然薯を使って飯作っててくれ。……一応、言っとくぞ、もう酷獄の森には入るなよ……。入ってることがわかれば、ハリセン百叩きじゃ済ませねぇ……! 無論、連帯責任だ! 頼んだぞ澄華ァ!」
最上の瞳に暴虐な光が灯る。
「わかりました! 糸と名巣さんは見張っておきます!」
澄華がよく通る声で回答する。
「よし! じゃあ、行ってくる! うまい飯期待してんぜ?」
最上は疾風の如く駆け出す。




