六十話 ドキドキ肝試し⑥
「あ! 澄華お姉ちゃん! 理人お兄ちゃん! 白百合ちゃん! みんなで進んできたの?」
糸が純朴な瞳で尋ねる。
「糸、その雰囲気は本物みたいね。その手に持っているのは封霊石?」
澄華は糸の右手にある〝封〟と墨のようなもので書かれている石に視線を移す。
「そう! この先に置いてあったよ! というか、本物みたいって……?」
糸は疑問符を浮かべている。
「糸は出会ってないの? ドッペルゲンガー」
澄華も疑問符を浮かべる。
「えぇ⁉ ドッペルゲンガーに会えたの⁉ どこどこ⁉ どこにいるの?」
糸が水を得た魚のような勢いで、澄華に詰め寄る。
「いや、もう消えたわ……。……期待させちゃったなら、ごめんね」
澄華が糸の頭を途中で押さえつつ、謝っている。
糸は空中で手をバタバタさせている。
「ええ~! 会いたい会いたい~! 澄華お姉ちゃん! 何とかならないの?」
糸は駄々をこねる子どものようだ。
「会いたくて、会えるものでもないのかもしれないわ。もし、見つけたら教えてあげるわ」
澄華は〝姉の顔〟をして、糸に優しく言葉をかける。
「うん! そうだ! 封霊石の所まで案内するよ! 近くだし!」
糸がそう言い、先導してくれる。
五分ほど歩いた所に〝封霊石置き場〟と書かれている看板が見えてくる。
封霊石置き場て……。そのまま過ぎるだろ……。
封霊石置き場は、地面をくり抜かれており、そこに数十個の封霊石が置いてあった。
「ここの封霊石を持って帰ろう! そんなに重くもないよ!」
糸が明るく話す。
肝試し中とは思えない明るさだ。糸の周りだけ照明がついてるように感じる。
理人、澄華、白百合はそれぞれ封霊石を手に取り、来た道を戻っていく。
「ドッペルゲンガー、会えるかな~。ワクワクするよ!」
糸はキラキラと輝く顔をしている。
糸からすれば、肝試しは楽しいオカルトイベントなのだろう。
理人には理解できない話だ……。
そして、その後は特に何もなく酷獄の森の入口まで戻ってこれた……。
「なんで! なんで私の前には怪奇現象が現れないの……⁉」
糸が膝をつき、悔しげに地面を三度叩く。
「糸……ドッペルゲンガーもそんなにいいものじゃないわよ……。また機会があるかもだし……」
澄華は精一杯のフォローを入れたようだ。
しかし、糸はそんな言葉を聞いても何の足しにもならないといった顔をしている。
「ずるいずるい~! 澄華お姉ちゃん達は怪奇現象を見れたなんて……! 私、もう一回森に入ります!」
糸がスクっと立ち上がる。
「バカ! 森にはもう入るな。俺が封霊石を返しに行くっつってるだろ?」
最上がすぐに注意をする。
「じゃあ、私もついていかせてください!」
糸は本気でついていく気の目をしている。
「いや、ダメだ。俺は封霊石を返しに行く途中で、悪さしそうな霊がいたらしばかねぇといけない。そうなると、糸に危険が及ぶかもしれん。それに、巡り合わせもある。今回は縁がなかったと思いな」
最上は瞳に鋭い光を奔らせる。
「むぅ……」
糸はむくれた顔をしている。
「ハッハッハ。んな顔すんな。澄華達はドッペルゲンガーに出くわしたんだろ? そん時の話聞いときゃいい! ドッペルゲンガーは人心を惑わす類の怪奇現象だから、話を聞くだけでも何となくわかるだろ」
最上は豪快に笑っている。
「むむぅ……。自分で経験したかった……。それにドッペルゲンガーって一口に言っても色んなパターンがありますし。どのパターンだったかも知りたいです……」
糸は諦めきれない目をしている。
「パターンね……。少なくともここで出るドッペルゲンガーは、潜在意識が具現化した存在だ。だから、人の心から生み出されるモンだな。ま、また機会が巡ってくるさ!」
最上はバシンと糸の背中を叩く。
「ぷぴゃ……! わかりました。澄華お姉ちゃんにドッペルゲンガーのことは聞きます」
糸は不思議な声を出した後、引き下がることを決めたようだ。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
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